「理解」―After the end of the conflict―

 

 

     T

 

「小夜、飯もって来たぞ」

そういってカイは食事の乗った盆を持って部屋の中に入る。
小夜のすぐ側にある机にはその前に運んだはずの食事が、手をつけられずにそのまま残され冷え切っていた。
カイはその食事と自分の持ってきた食事を入れ替えて隣に置く。

「お前、何か喰わねえと何もできないだろ?」

小夜に向かって話しかけるが返答はない。
完全に意識がひとつのところに留まっていた。
魂の抜け殻のようにただじっと座り、横たわる人物を見つめ続ける。
食事をすることもなく、時折すすり泣き、夜寝ているのかさえわからない。

小夜の眼は、今は深紅の色が息を潜め普段と変わりない色を保っている。

 

あの日、一人を犠牲に静寂が戻った日、小夜は別人のようになってしまった。
暴走したわけではない。
暴走ならカイが止めるだろう。
まわりが見えていない状態という点では同じだが、静かにただ座っているだけだ。
時折リクとは言葉少なく会話するようだが、カイを含めた他の者とは言葉を交わすことはなかった。

『小夜ねえちゃん、取り返しのつかないことをしたって泣いてた』

リクはそうカイに告げる。

 

同じ家族なのに、何故リクとだけしか話さないのかと憤りから八つ当たりしそうになったが、そんな自分に嫌気が差す。
父親亡き今、自分が家族を支えねばならない。
ただそれだけでカイは自身を奮い立たせ、事態の把握と自分のなすべきことをする。

「・・・小夜」

消えてしまいそうな妹の肩に触れようと手を伸ばす。
だがその手が彼女に触れることはなかった。
怯えたように身をすくめ、避ける自分の妹に、カイは悲しさを感じる。

 

いつものお前はどこ行っちまったんだよ・・・

 

戦場から立ち去ったあの日、小夜の選んだ道はカイたちと大きく溝を築くものだった。