「導きの手」

 


     序章

 

地に横たわる老人から紅く澱んだ色があふれ出す。

息も絶えてしまいかねない身体を引きずって、老人は前方のそれと対峙する童子を見上げるものの、かける声すら苦痛を与える。
童子は側で生死の境へと身を投げてしまいそうな老人に気付き、円を描き続ける札によって護られたわずかな範囲で、けれども前方に向けた視線は逸らさずに身体を老人の傍らまで持ってゆく。


童子のその手に残された異形の剣が歩みを進める度に小さく鈴音を奏でては揺れる。

 

前方には物の怪となってしまった存在。

牽制し合う視線の中に何処か叫びを帯びた奇声が渦巻き、それぞれの想いがどす黒い感情となって辺りの空気を染め上げる。

 

「よせ・・・呑まれてはならん」

最悪な事態へと変化し続ける気配を感じ取り、老人は童子へ向かい掠れた声を放つ。
このままでは事態の収拾どころか、この童子の命すら物の怪に喰われてしまいかねなかった。

 

 

負に渦巻く気の流れは更なる陰気を呼び込み、人の感情を侵食し続ける。

 

自分が生命に関わる負傷したことで、童子は日常見せることのない内側を面に出してしまうほどに怒りに満ちていた。
その怒りが理解できるだけに、老人は自身の力で終わらせるべきだと痛感する。


手をつき起き上がろうと試みるも、年老いた身体が負傷した傷の深さに悲鳴を上げ、激痛が身体を駆け巡る。

 

我が身に鞭打つ老人の背にまだ幼い掌が触れる。


「・・・わかってる、形にはしない」



水平に構えた剣は微動だにせず、視線もにらみ合ったままであったが、童子は老人にしっかりと答えた。

 

「『想うだけなら良い、だがそれに形を与えてはならない』だろ?」

 

 

 

 

忘れるわけがない。

 

 

 

 

 

それはあんたから教わったことだ。