世界は、汚れている。



考えて、考え抜く能力などなく、意味もなく考え、
無謀な思考でカキマワサレタ世界。

感情でコントン
言葉でコンワク
欲望でコンラン



世界は、汚れている。

だから、



五月蝿く欲望にまみれた大人は、
僕の手で、
己の血で染まった、沈黙という最高美へ。



そして、
今度は、



五月蝿く汚い世界を、

一色。

ただ、一色。

純粋で最も愛しい紅で染め上げて、
この世界にも、
美しさを求めた。



紅に染め上げて、世界を壊す。
もう何もいらない、
五月蝿く汚れた世界など、ないほうがいい。

そう、
信じた。





―― ケレド、 彼 ガ ――








62









ひどく静かな室内で、窓から月を見上げる。
爪のように細い月。
いえ、ナイフに近いでしょうか?
冷えた夜の空気に研ぎ澄まされて、冷え冷えとした輝き。

アレで心臓を貫いたら、どんな苦痛が訪れるのだろうか、


「骸さぁーん、片付きましたよー。」

無意味な感傷に浸っていた耳に、
乱暴に開けられたドアの音と共に間延びしただらしない声。

「犬、もう少し静かにドア開けなきゃ、」
「うっせーな!!」
「…骸様、外は片付けておきました。」
「柿P!! それ俺が言った!!」

騒がしく室内に入ってきた3つの影に、
知らず知らず、
楽しくなり、微笑んでしまった。

「ご苦労様です、凪、千種、犬。」
「む、骸さん!! 俺が一番頑張ったんですって!!」
「…犬は一番無駄に動いてたね。」
「うっせー女!!!」

騒ぎ始めた犬を、涼しい顔で見つめている凪。
いつもと変わらない光景に、
ホッと、息をついた。

「……骸様は…?」

静かに訊いて来た千種に、
部屋の奥に倒れている肉体に、感情のない視線を送る。

「…骸様、」
「ああ、大丈夫……殺してはいません。」

眠らせただけ。
そう、何度殺そうと思ったか分からない。

汚く転がっている肉が、何も知らない下等が、
僕の世界の中心を罵倒する度に、
なんど、その頭を潰したいと思ったか。

だが、

「……彼に、怒られますからね。」

呟いて、窓から離れる。
部屋に取り付けられている時計を見れば、
もうすぐ、彼に約束された仕事の終了時刻。

間も無く、彼の仲間が後片付けに来る。

「では、帰りましょうか。」
「はい。」
「ほら、凪も帰りますよ。」

まだ犬の相手をしていた凪の肩を抱いて、引き寄せる。
途端に犬が口をパクパクさせて、
本当に、
何年経っても分かりやすい態度。








「あ、骸…!!」

屋敷を出て、すぐに、
月明かりの下、
黒スーツに囲まれた、真っ白な存在。
淡い琥珀色に照らされた髪が、
風に遊ばれている、

「――ボンゴレ、」

思わず呟いた僕に、
笑顔で、
周りの他の守護者をおいて、
駆け寄ってきた。

「よかった…無事だったんだ。」
「無事も何も、僕があんな雑魚にやられるわけないでしょう?」
「そ、そうだよね…。」

苦笑しつつ、僕に笑顔を向ける。

「それよりも、どうして君がこんな場所に?」
「え…」
「一応君はボスなんです。特に、片付けたといっても此処の人間は君の事をよく思っていない。」
「う、うん。」
「そんな場所にのこのこ現れて、本当にバカですね。」
「う…うん、」

僕の言葉に、彼が肩を落とした。
ため息をついて、
あたりに視線を投げて、ボンゴレ以外の人間は居ないことを確認する。

「…君は、部屋で僕の報告を待っていればいいんです。」
「え?」
「ウッサギさーーーん!!!!」

僕と彼の間に飛び込んできた犬は、
その勢いのまま彼に抱きついた。

「け、犬!! ちょっと、血ぃついてる!!!」
「骸さんのこと褒めてくださいよ!骸さん、ウサギさんのために殺さなかったんれすよ!!」
「え…?」
「千種、犬をどかしなさい。」
「……バカ犬。」
「ぐえっ!!」

後ろから現れた千種に首を掴まれた犬が、
息絶え絶えに何か叫んでいる。

「ち、千種さん…それに髑髏さんも怪我ありませんか?」
「…問題ない。」
「平気だよ、ボス。」

いつもと同じ彼らの様子に、彼の表情が柔らかくなった。
その表情のまま、僕に視線が向けられる。

「……骸、ありがとう。」
「…なにがですか?」
「ちゃんと俺の言葉、骸に届いてたんだね。」



任務の依頼を受ける際、
適当に書類のみ受け取って部屋を出る直前、
背中に投げかけられた言葉。


『お願い!殺さないで!!』


以前世話になったファミリーだかなんだか知らないが、
本当に甘い。
自分が殺されるかもしれなかった相手すら、
生かせと、そう、彼は命じた。



「…生きていても、これから拷問で、死んだ方がましだと思うのでしょうね。」

わざと、彼が傷つくように言い放つ。
それに唇を噛んだ彼は、
しかし、
強い眼で、真正面を見つめた。

「…それでも、ただ殺すだけで終わりにしたくないんだ。」
「……つまらないですね。」

小さくため息。

「後処理は頼みました。報酬はいつもの口座に。」
「あ、骸…お前、ボンゴレに、」
「その話は断っているでしょう?僕はマフィアにならない。」

彼を見ずに言い、
だが、
擦れ違う寸前、



「――君のものであれば、いい。」



囁きは、彼に届いたのか?
確認はせずにその場を立ち去った。








君を傷つけた相手を生かした。
そんなことで、君は笑う。
ああ、
なんて甘い男。


けれど、
その甘い蜜に引き寄せられた僕は、君の腕から逃げられない。





五月蝿く汚い世界に見つけた、
唯一無二の、

光。












* * * *

2007/04/25 (Wed)

『萌えた俺が悪いのか?!(反語)』の咲祈様より、40000hitフリーでもう一本戴きました〜!!
ちょ・・・待ってくださいナンデスカこのおいしすぎる展開は・・・

骸さんが完全に新月の好みに仕上がってますよ?!!!

おっと、そろそろ眼がイカれてきたのかしら?
ごめんなさいね、ホントに好きすぎるんですが?!
あれ?何度見返してもただ悶えて涙目になるばかりなんです・・・

骸さん、骸さん・・・愛することはとても深くて・・・
背を向けても、本当は傍に・・・そう望むことの愛しさが・・・
何ともいえないこの切なさが・・・

死ぬほど愛しくて悶え死ねるっ!!!! (←今までの雰囲気、台無しだ!)

咲祈様、本当にこの小説、戴いても良かったんでしょうか・・・(眼が虚ろ)
あ、いえ、もう返しませんが!! (←最悪だなお前)
自分のサイトで極楽浄土見る日が来るとは思いませんでしたよ!!
ありがとうございます!!!
心の底より、感謝申し上げます!!!!


新月鏡