卵を探せ!

 

 

この日、ボンゴレの幹部メンバーとツナはリボーンに呼ばれて、ボンゴレ本部の中にある、一室に集まっていた。
「お前ら、今日が何の日か知っているか?」
「何って、イースターだろ?」
リボーンの問いかけに、ツナが答えた。日本ではあまりなじみのないイースターも、キリスト教国ではかなり盛り上がる行事の一つだ。
しかし、イースターは子供向けの祭りであるイメージが強い。そのため、ツナはあまり積極的にイースターに参加した事はなかった。
「せっかくのイースターだからな。イースターエッグを隠してみたんだ。お前ら、探して来い。制限時間は今日の5時まで。見つからなかった卵は、全部俺のものだからな。
ちなみに、隠したのはボンゴレの敷地内部。建物の中だけじゃなくて、庭も入るから気をつけろよ。」
普通、イースターエッグとは、大人が鮮やかな絵を描いた卵を子供に探させるゲームである。本来なら、年齢的にいえば隠すのはツナ達の役目であって、探すのはリボーンのはずだ。
何故、その立場が逆転しているのだろうか。しかし、そんなのいっても意味のない事だとツナは学習していた。どうせ、「面白そうだから」の一言で済まされるに決まっている。
「なんで、僕達がそんな事しなきゃならないのさ。」
呆れたように、雲雀が言った。彼も、イースターは子供達の祭りだと思っている。
「まぁまぁ、賞品もあるぞ。」
賞品、という言葉に、その部屋にいる男達がぴくっと反応した。ツナの背筋を嫌な汗が流れ落ちる。
「本来ならチョコレートでもやればいいんだろうが、それだとつまらないからな。」
そう言って、リボーンはポケットの中から、折りたたまれたメモ用紙を取り出した。
「卵は七つ。それぞれに、プレゼントの書かれた紙が入っている。参考までに、中には『ツナに何でもいうことを聞かせる』『ツナのいうことを何でも聞く』『ツナの写真(幼稚園から小学校編)』なんかもあるぞ。
その卵を見つけて、中身の紙を俺に渡したら、晴れて賞品ゲットだ。もし、途中で紙をなくしたり、文字が読めないぐらいボロボロになったらその賞品は無効だ。ちなみに、ハズレもあるからな。」
キラリン、と守護者達の目が輝いた。
「リボーン!なんて条件出してるんだよ!俺そんなの聞いてないぞ!!」
「言ってねぇからな。」
「言えよ!そんな大事な事!」
「そんな事よりいいのか、もう皆とっくに出て行ったぞ。写真ならともかく、『何でも言う事を聞く』ってのが、獄寺や骸に当ったらまずいんじゃねぇか。」
言われて振り向くと、確かにその部屋の中にはもう、ツナとリボーンの二人しかいない。
「皆早すぎだって!なんでいきなり乗り気になってんだよ!」
慌ててツナも部屋を出て行った。
その様子を見て、一人リボーンは部屋の中でほくそえんだ。中々、楽しい事になりそうだった。

 

 

獄寺は、ひたすら、ボンゴレの屋敷の中を走っていた。
「せめて写真、せめて写真!」
血走った目をして走っている彼は、はっきり言ってかなり怖い。しかし、彼も必死だった。
そう、こと愛するボンゴレ十代目、沢田綱吉が関わっているとなると、彼は超人的なまでの力を見せる。
「ここか!」
キキキキキッと、ブレーキ音をさせて、獄寺は立ち止った。バン、と勢いよく扉を開けると、部屋の中にずかずかと入り込んだ。
ふっ、と天井を見上げると、シャンデリアの上に、卵らしき物が見えた。
「あれか」
呟いて、周りを見回す。都合が良い事に、あまり細々とした物はない。これなら大丈夫か、と獄寺は、ダイナマイトを一つ取り出した。
点火して、放り投げる。
投げられたダイナマイトは、丁度シャンデリアをぶら下げているチェーンのあたりで爆破した。衝撃で、シャンデリアが揺れる。
揺れたシャンデリアの上から、卵が音もなく転がり落ちた。獄寺は危なげなく、その卵をキャッチする。
いそいそと獄寺はその卵を割った。中から、丸まった紙が出てくる。ぺらっ、とめくったその紙には、『ツナの写真(幼稚園から小学校編)10枚』と書かれている。
「っしゃあ!」
叫んで、一目散にリボーンの元へと走っていく。周りにはピンク色のオーラが飛び交っている。もはや、彼の目には、今から手に入るはずの、ツナの写真しか映っていない。
だから、気付かなかった。
近くに立っていた多くの部下たち。彼らが皆、一様に微妙な表情で、走り去る彼を見送っていた事に。

 

 

 

雲雀は、屋根の上を歩いていた。下では何人かのボンゴレ組員が、信じられないものを見たかのように、目を丸くして彼のほうを見ている。それもそのはず。ボンゴレの屋根の上は決して平らではなく、しかもかなり風が強い。そのため、かなり歩きにくい場所の筈だが、まるでなんでもない事のように雲雀はすたすたと、との上を歩いていた。
しかし、そんな事は気づいていないのか、それとも気付いていて無視しているのか、雲雀は全く外野の事など気にもせずに、ひたすら卵を探していた。
彼の知っているリボーンの性格上、卵は決して取りやし場所にはない。見つかりにくい場所か、見つけやすくても取りにくい場所。そういうところを探そうと思った時、真っ先に思いついたのが屋根の上だった。
しかし、いくら探しても屋根の上には卵は見つからない。
諦めて帰ろうとした時だった。ふと、雲雀は思いついて、屋根の端から下を見下ろした。すると案の定、屋根から少し下りたあたりの壁にある出っ張り。その上に色鮮やかな卵が乗っていた。
考え込むまもなく、雲雀は屋根から飛び降りた。下からギャー、という叫び声が聞こえる。しかし、当の雲雀は慌てず騒がず、いつものとおりの無表情で、すかさず右手を出して、屋根のふちを掴んだ。
一瞬、体重とGの力が全て手に掛かる。反動で体が揺れる。
しばらく待ち、揺れが収まると雲雀は左手を伸ばし、出っ張りの上にある卵を手に取った。明らかにこれが探していた卵だろう。
確認すると、雲雀は右腕に力を入れ、体を持ち上げる。そのまま、右腕一本だけで彼は屋根の上に戻ってしまった。
ほーっと言うため息が、観客から昇る。いつの間にか、ギャラリーの数は30人近くに増えていた。
しかし、やはりギャラリーなど目に入っていない雲雀は、そんなこと気にせず、取った卵を割っていた。
なかから、一枚の紙が出てくる。風邪に飛ばされないように気をつけながら、雲雀はその紙を広げた。その中には、『ディナー招待券(二枚)』と書かれている。ということは、つまり好きな人物と一緒にデートして来いということだろう。
雲雀は、とりあえず、その賞品に満足すると、胸のポケットに、その紙をしまいこんだ。後は、ただもとの部屋に戻ればいいだけだ。予想以上に簡単だった、と少し拍子抜けしたような思いで、雲雀は建物の中へ向って、また屋根の上を歩き出した。

 

 

 

ランボは、ひたすら森の中を歩いていた。ボンゴレの敷地内には森がある。卵を隠すのなら森の中だろう、とランボは決め付けていた。
しかし森はかなり広く、探すべき卵は小さい。しかも、ランボは既にこの森の中で半分迷子になっていた。
猪に追いかけられ、熊に襲われ、スズメバチに取り囲まれ、逃げて、逃げて、逃げ切った結果だった。どうして猪や熊みたいな猛獣までがこの森の中に生息しているのか。ランボには不思議でならなかった。
そして、奇跡とも思える確率で卵を見つけた今、ランボは新たなる困難に直面していた。そう、卵はあった。しかしその場所が問題だった。
卵はよりによって、大蛇によって守られていたのである。
なんでこんなのが、この森の中にいるんだ、とランボは心の中で叫んだ。その心の叫びに気付いたのか、『何だコラ』と大蛇がランボを睨みつける。ビクッ、とランボは怯えて、あとずさった。その様はまさに蛇ににらまれたかえる。
その様を見て、蛇も流石に敵意をなくした。卵を渡されたときは、どんな猛者がくるものかと、身がまえていたのに、実際来たのはこんな、怯えて今にも泣き出しそうな子供が一人。
すっかり毒気を抜かれてしまった蛇は、威嚇するのを止めた。しかし、ランボは未だに怯えて動かない。
しばらくは、それでもずっと警戒は解かなかったが、あまりにも長い間、ランボがぐずついているのでさすがの蛇も少し同情的になった。
一方、ランボはランボで、蛇は怖いが卵も諦めきれず、後へも先へも行かなくなっていた。今まで頑張ってきたのだ。逃げてばかりいたとはいえ、ここで引くのはその苦労が水になってしまう。それは、どうしても嫌だった。
しばらく続いた無言の攻防の末、負けたのは大蛇だった。
守っていた卵を尻尾でつん、と押しやり、ランボのほうへ転がす。最初はきょとん、としていたランボも、やっと意味が分かったのか、大はしゃぎで、お礼を言うと、ダッとその場を立ち去った。
しばらくして、離れた所で立ち止まると、待ちきれないというように卵を割って、中身を取り出した。中には、丸まった紙が入っている。ドキドキしながら、紙を広げたランボの目の中に入ってきたのは、『ハズレ』の三文字だった。
それ以外、何も書いていない。それが更に無情さをあおる。
「そんなぁ・・・・」
ガクッ、と項垂れて、ランボはとぼとぼ歩き出した。疲労がどっと襲い掛かる。
肩を下げて歩くその姿は、まるで疲れたサラリーマンのようでもあった。

 

 

 

了平は、ボンゴレ本部の地下を走っていた。どこをどう来たのか、全く覚えていなかった。気付いたら、地下を走っていたのだ。しかし、そのどこかに、卵があるかもしれない。了平は、通りがかった部屋という部屋、全てを覗いて行った。
その地下の、かなり奥まで行った先で、了平はやっと卵を見つけた。かなり天井が高いその部屋の、一番天辺近くにある灯り取り用の窓。そこに、卵が置いてあった。
「あれだな」
呟いた了平のまん前に、突如、一つの影が現れた。
「キュイキュイキュイ!」
「・・・・・なんだこれは?」
機械音をさせ、了平の前に立ちふさがったそれは、まるでミニチュアサイズのゴーラ・モスカに見えた。姿形はほとんど同じで、サイズだけが違う。中学生のときに出会ったそれは、見上げるほどの大きさだったが、これは了平の腰ぐらいまでしかない。その所為か、かなり可愛く見える。
いや、これはあの恐ろしい兵器と同じ形をした物だ、油断はならない。了平が身構えると、相手もキュイ、と音を立てて、臨戦体制らしきものをとった。拳を握り締め、パンチを繰り出してくる。了平は、右手を前に出し、その拳に備え・・・・・・ぽこん、と間抜けな音が暗い部屋の中に響いた。
「な、ならこっちから行くぞ!」
シュッ、と了平が拳を繰り出す。その拳を避けた、と思った次の瞬間、目の前のプチ・モスカがころん、と転んだ。じたばたと、動いて、やっとの事で起き上がる。その様子があまりに一生懸命で、了平はついその行動を見守ってしまった。
起き上がったミニ・モスカが今度こそ、というように目のあたりに力を溜めた。大技が来る。反射的に遠くへ逃げ、攻撃をやり過ごそうとする。
力のたまったらしい、プチ・モスカの目が点滅している。「来る」、直感した了平が行動に移すよりも早く、後ろにある壁の、少し高い部分の壁が、えぐれていた。喰らっていたらまずかった。
ちら、と壁の様子を確認し、またプチ・モスカへ顔を向けた了平の目に入ったのは、またもや転んだプチ・モスカの姿だった。さっきと違うのは、仰向けという点だ。どうやら、発射の衝撃に堪えられず、倒れてしまったらしい。
しばらく、もがいていたプチ・モスカも、ついには諦めたのか、ウィーン、とどこからともなく、白旗を取り出した。
あまりに可哀想になった了平は、プチ・モスカを起こすとポン、とその肩に手を置いた。
「いい勝負だった。最後のあれが当っていれば、負けたのは俺のほうだったかもしれない。友と呼ばせてくれ。」
真剣な表情の了平に感動したのか、「キュイキュイ」と音を立てて、プチ・モスカは頷いた。そのままころころ、壁際まで歩いていくと、おもむろに手を伸ばし始めた。どんどん伸びる手は、ついに灯り取り用の窓と同じ高さになり、卵を掴むとまた縮み始めた。そして、見守っていた了平に向って、プチ・モスカはその卵を差し出した。
「なんていい奴だ!ありがとう友よ!」
「キュイキュイキュイ」
了平とプチ・モスカ、人間と機械の間にかなり特殊な友情が芽生えていた。
「さあ、戻るぞ!一緒にどうだ。ここよりも、上のほうが暮らしやすいぞ!」
そう言って、プチ・モスカの手をとって、了平は歩き出した。

 

 

 

山本は、ボンゴレの中にある、鶏小屋に向っていた。卵を隠すのなら、卵の中。ある意味一番オーソドックスだ。果たして、卵はあった。あっけないほど簡単に、卵は見つかった。しかし、卵のある場所が問題だった。
鶏小屋の主、一番でかい、強面の鶏の巣の中に、その卵はあった。鶏小屋の主を名乗るだけあって、彼女はこの小屋の中のすべての鶏のトップに立っていた。すべての鶏が、その羽や足の代わりとして動く。
その鶏が、山本のほうをじっと見ている。どうやら、何かを感じ取ったらしい。
『こいつ、出来る。』
山本は、そう直感した。さすが、ボンゴレの鶏をまとめるボス。女だからと、油断はならない。
「お前の持っている卵をもらいに来た。」
ビシッ、と竹刀を鶏に向けて宣言する。
「コケッ!(来るなら来い!)」
対抗するように、鶏が鳴いた。
「じゃあ、行くぜ!」
山本は、竹刀を握り締め、小屋の中を走り出した。
「コッコッコ、コケーッ!!(総員、攻撃!!)」
主が叫び、その声に反応するように、一斉に他の鶏が、四方八方から山本に襲い掛かる。
しかし、山本は焦らず騒がず、竹刀を振るった。あえて時雨燕蒼流は使わず、竹刀のままの状態で襲い掛かる鶏を叩き落とし、攻撃を避ける。
数分後、未だに動ける鶏は主だけになっていた。
「・・・・・・コッ(やるな)」
一つ鳴いて、主はおもむろに立ち上がった。その目にはオーラが浮かんでいる。
両者にらみ合い・・・・・・・勝負は一瞬だった。
「コケケッ・・・・・(負けたぜ)」
雄よりもよほど雄らしい鶏小屋の主(ジョアンヌ、メス2歳)は、潔く卵を山本へ手渡した。それを受け取った山本は、ふっと身を翻し、鶏小屋から出て行った。
「コケーーーーッ!!」
山本が立ち去った小屋の中に、ジョアンヌの号令が響き渡った。これから、彼女は更に自分を鍛え、部下たちを扱くのだろう。
さすが、襲いにやって来た狐さえ追い払う恐怖の集団だ、と山本は手に入れた卵を弄びながら、屋敷の中へ帰っていった。

 

 

 

ツナは、リボーンの部屋の前に立っていた。皆がそれぞれ時に行ったか、知らないが、リボーンの性格上、簡単に卵が取れる場所はほとんどないだろう。そういう意味で、ここは一番卵がある可能性が高かった。
何しろ、リボーンの私室。罠だろうが、何だろうが、部屋の主の作りたい放題だ。想像どおり、リボーンのベッドの上には、まるで罠です、といわんばかりに堂々と卵が載っている。
ツナは、懐に手を入れると、中から手袋を取り出した。キュっ、とそれを嵌めると、手袋はすぐにイクスグローブに変化した。
勝負はこれからの数秒、もしくは数分で決まる。
ツナは、すっ、と一歩足を踏み出した。途端に、上から何本もの槍が落ちてくる。
とっさに左に飛んで避ける。その着地地点の床がいきなりひっくり返り、何本もの刺の生えた床に変わった。慌てて、グローブの力を発動して、上に逃げる。
すたっ、と音を立てて、少し離れた床に無事着地する。視界の端に何か鈍く光る物を発見した。反射的にまた飛び上がる。カチッと言う音とともに、今までツナがいたあたりの空間を、何発もの銃弾が打ち抜いた。飛び上がったツナの上の天井がいきなり開いて、いきなりガスが噴射された。すぐに息を止め、その煙をやり過ごそうとする。嫌な予感がした。
一目散に、ツナは部屋の窓へ向って、走り出す。バリン、と窓からツナが飛び出すのと、かちゃ、と背後でで不気味な音がしたのは、ほぼ同時だった。
大音量を響かせ、リボーンの部屋が揺れる。
いつの間にかしまっていたドアに気付かなければ、危なかったかもしれない。
窓の外、腕一本でぶら下がったツナ深々と溜息をついた。
爆発が収まったのを見計らって、ツナは部屋の中へ戻った。服についた、ガラスの欠片を払い落とす。部屋の中は爆発の所為で、すっかり様変わりしていた。
その中、無事にベッドの上に転がっていた卵を見つけて、ツナは溜息をついた。
「全く、下手したら死んでるって、これ。」
下手したらどころか、これだけやられれば、普通は死ぬだろう。それが分からなくなっているだけ、ツナもすっかり普通離れした感覚の持ち主になっていた。
「この部屋の修理費も、どこから出ると思ってるんだよ。」
それだけ聞くと、まるで世のお母さんたちの呟きのようだ。しかし、スケールが違う上に、それをここで問題にするのは何かがずれているとしか思えない。
「とりあえず、リボーンのところに戻ろう・・・・」
呟いて、ツナは歩き出した。その足元の床が、いきなりぱかっと割れる。
すかさず、空いている方の手で淵を掴んで落下を止める。
「・・・最後の最後までっ!」
微妙に怒気のはらんだ声でツナは言うと、ドスドスと足音を立ててリボーンの部屋から出て行った。

 

 

 

リボーンの元へは、続々と人が戻ってきていた。
まず、大騒ぎしながら戻ってきたのは、自称10代目右腕の獄寺だった。
「ほらよ。」
彼の取ってきた紙を見ると、リボーンは以前、奈々から入手しておいた、ツナの子供時代の写真を渡す。
次に戻ってきたのは、山本だった。
「開けてみろ。」
リボーンに言われた山本が卵を開けると、中から『ツナの護衛券10枚』と書かれた紙が入っていた。
「ああ、それは好きなときに護衛できるって券だ。いつでも使え。」
「何だ、割合いいもんじゃん。サンキュな。」
それなりに賞品が気に入ったらしい山本が、笑顔で礼を言った。
三番目に帰ってきたのは、ツナだった。
「さすがにあの部屋は酷いんじゃない?」
青筋立てたツナの言葉を無視して、リボーンは勝手にツナの持ってきた卵を開けた。中に入っている紙には、『ツナの言う事を一つなんでも聞く』とかかれてある。
「俺、意味ないじゃん・・・・・・・・・・。」
はぁーっ、と疲れたような溜息をついてツナはしゃがみこんだ。
「お前、本当に運がねぇな。」
わざわざツナ用に、この賞品を考えたのに、まさか当人に当ってしまうとは。さすがのリボーンも、その運の悪さには呆れてそれ以上言えなかった。
四人目は、雲雀だった。
手に持った、『ディナー招待券(二枚)』というのを見て、リボーンは面白そうな顔をした。
「まさか、それがてめぇに当るとはな。」
この分だと、彼がツナを食事にどう誘うか、また楽しみが増える、とリボーンは笑った。
五人目は、少し時間を置いて、了平だった。なぜか、ゴーラ・モスカのミニバージョンを伴って、彼は部屋に現れた。
「開けてみろ」
と薦められた了平が卵を開けると、中から出てきた紙には、『何か一つ願いが叶う』と書かれていた。
「!なら、ぜひこの小さき友を俺の部屋に住まわせたい!」
と、了平はプチ・モスカの肩を叩いた。
「まぁ、別にいいが、本当にそれでいいのか。」
「ああ!」
熱い男、了平は思いっきり頷き、更にプチ・モスカとの友情を深めていた。
六番目に戻ってきたのは、ランボだった。
ボロボロになって、『ハズレ』と書かれた紙をリボーンにつき返す。
あー、と皆は一様に納得したように頷いた。ツナが、よしよしとランボを慰める。
「あれ、そういえば骸さんがまだですね。」
「呼びましたか?」
ツナの声に答えるように、いきなり骸が現れた。ギョッと、ツナが振り向いた。
「おい、卵はどうした。」
リボーンが言う。確かに、骸は卵を持っていない。
「あなたがそれを言いますか。卵は、ここにあるのでしょう。あなたは、卵はボンゴレの敷地内にあると言った。ということはつまりこの部屋も入る。
ゲームが始まれば、皆真っ先に、この部屋を立ち去るでしょうからねぇ。」
そう言って、骸はおもむろに部屋の中のとある壁に近付いた。突然壁が揺れ、ペンキが流れ落ちるように消える。その向うに棚が現れた。その棚の上に、イースターエッグが乗っている。
「これで全部、ですね。そして、僕の記憶が正しければ、残っているのは・・・・・」
その台詞にツナははっ、とした。そうだ、まだ『ツナに願い事を1つかなえてもらう』という賞品が残っていた。
このままでは何を命令されるか、分かったもんじゃない。
「ちょっ、まっ・・・」
止めに入ろうとしたツナよりも早く、獄寺がダイナマイトを骸に向かって投げた。雲雀と山本が骸に向かって突撃する。
「確か文字が読めなければ・…」
「賞品は無効なんだよな」
「卵ごと果てろ」
ダイナマイトが爆発した。その中に浮かぶ、黒い人影向かって、山本が竹刀を振るい、雲雀がトンファーを叩きつける。その攻撃を、さっと骸は後ろに逃げてかわす。
そこへ、獄寺の放ったダイナマイトの第二段が襲ってきた。骸は、その隙を付いて更に襲ってくる雲雀の姿を確認すると、獄寺のダイナマイトを雲雀の方へ向け、弾き返す。
仕方なく、ダイナマイトの攻撃に一瞬動きが止まった雲雀の横から、山本が骸に襲いかかる。その一線を、骸はやり過ごし、骸に向かって獲物を振るう。キン、と金属同士がぶつかる音が響いた。
その隙に、爆発をやり過ごした雲雀が一気に骸に近付き、トンファーを叩きつける。骸は、山本と獲物を交えているために動けない。誰もが取った、と確信した。しかし、その攻撃は、骸をすり抜けた。ふっと消えた骸の姿に、トンファーだけでなく、それまで剣を交えていた山本の剣までもが宙を切る。
「どうぞ、アルコバレーノ。」
骸の声に、三人がはっと振り向いた。そこには、『ツナに何でも一つ言うことを聞かせる』と書かれた紙をリボーンに渡している骸がいた。
「どこから?!」
「もちろん、最初から幻覚でしたよ。」
当然でしょう、骸は笑った。
ツナの顔が、真っ青になる。何故こんなときに限って、骸の幻術を見破れなかったのか、後悔してもしきれない。
「では早速、今夜僕の部屋に来て下さいね。」
クフフフ、と笑う骸に、ツナはヒィ、と悲鳴を上げた。
「自由にさせる訳がないだろう。」
「噛み殺すよ。」
「十代目は俺が守ります。」
三人が、ツナをかばうように立ちふさがった。
「良いでしょう。僕から奪えるものなら奪ってみなさい。」
このとき、ツナは悟った。今夜は、休めるとは思わない方が良い。彼らが衝突して、ツナが何事もなく、過ごせるはずがないのだ。
ため息を付いたツナは、リボーンが楽しそうにその姿を見ているのに気づいて、さらに泣きたくなった。
『神よ、俺に平穏を下さい。』
今日と言う日ばかりは、死んでも復活するイエスのご利益にもあやかりたい、と本気で思ったのだった。

 

 

 

 

* * * *
2007/02/02 (Fri)

『Lily of the Water』の氷鏡月様宅より、フリーと言うことで戴いて来ましたVv
一応背景・行間等、合わせた方が良いのかと思いまして、やってみましたが・・・どうでしょう?
にしても、大変素敵な小説をいただけたわけですよ!
何でも、復活祭(イースター)と5000hitの記念だそうで!!
お話もそんな復活祭の卵探しとは・・・皆それぞれのアクションが可愛いですよね〜!!
個人的には、可哀想なランボと、プチ・モスカと戯れる極限兄さんが大好きですVvv
勿論、最終的に全てを掻っ攫う骸さんは言わずもがな、ですね★
改めまして氷鏡月様、5000hitおめでとうございます!!!
そして、素敵な小説フリーにしてくださってありがとうございました!!!
宝として、大切に飾らせていただきますね〜Vvv

新月鏡