-モーニングコール- ED後 A*J すやすやと気持ちのよさそうな寝息を立てて眠る。 そのベッドサイドに、じわりとにじり寄る影一つ。 そろり、そろりと足音を殺して近づき、大きな影はおもむろに飛んだ。 「ジュードっ!」 「わっ!」 ぼすん、と音を立ててジュードの上に突撃してきた影に、健やかな眠りから叩き起こされたジュードはがばりと起き上がる。 慌てて寝起きの頭で現状把握を試みると、唐突な衝撃を与えられた場所には、人好きのする笑顔が乗っかっていた。 にこりと爽やかささえ醸し出す笑みに、つられてジュードの顔も柔らかくなってしまう。 だが、上掛けごと腰に手を回されて抱きしめられれば、理解不能の行動に疑問が口を突いた。 「……どうしたの?」 予期せぬ急展開と心地よいぬくもりに半分寝ぼけながら、ジュードは叩き起こした原因であるアルヴィンに小首を傾げて問いかける。 まだまどろみの中にあるのか、言葉尻があやふやで怪しい。 だが、そんなジュードの仕草も可愛いの一言で歓迎するアルヴィンはというと、 「愛が暴走したんだよ」 ドヤァ、と効果音が付随しそうな決め顔で言ってのけた。 あまりにも誇らしげな言い訳に、まどろみからも醒めたジュードは思わず噴き出してしまう。 人の眠りを妨げておいて、なんて言い訳だ。 だが、そんな行動すら彼らしくて微笑ましいと思えてしまうあたり、ジュードもずいぶん染まっている。 「じゃぁ、お返しっ!」 にっ、と口端を引き上げて、ジュードはまるごと抱きしめられていた上掛けを引っ張り上げた。 「うぉっ!?」 突然の逆襲にひっくり返りそうになるアルヴィンに、押し返すように布団を覆い被せ、抱きしめる。 もぞもぞと出口を探してもがく大きな身体を封じ込めて、ジュードは耐え切れなかった笑い声を上げた。 今日も朝から幸せです。
-モーニングコール2- ED後 A*J 大きなベッドの上で、上掛け布団を抱き込みながら幸せそうに眠るアルヴィン。 そんな微笑ましい寝顔を、ジュードはじっと見つめていた。 忙殺されていた仕事から解放され、今の彼はどんなに物音を立てようとなかなか起きない眠りに落ちている。 先ほどから声をかけても、うーんと唸り声を上げるだけで起きる兆しが見えないのだ。 暖簾に腕押し、柳に風、こうも効果が見えないと、さすがに起こす気も削げ落ち始めてしまう。 「どうしよっか……叩き起こすにしてもなぁ……」 自分がちょっと本気を出すと、たぶん『起こす』では済まない。 数日の痣と痛みに耐えてもらう羽目になってしまうという予想は容易くて、力加減の難しさに小さく息を吐く。 自分が起こされる場合なら、難しいことなどひとつもないのに。 そんなことを考えていると、 「あ、そうだ」 ひとつ、いい方法を思いついた。 先日、我が身に降りかかった出来事に倣って、模倣してみようと考えついたのだ。 アルヴィンに対しては一度も試したことのない起こし方なので、どんな反応が返ってくるかはわからない。 だが、物は試し。 ジュードは僅かに身を屈め、ごろりと寝返りを打って大の字になったアルヴィンに向かって飛んだ。 「アルヴィン、起きてっ!」 寝転ぶ腹の上に容赦なく着地すると、ぐえっと耳障りな悲鳴が上がった。 極力、肘や膝でアルヴィンの身体を抉らないように身を捻りながらダイブしてみたのだが、当たり所が悪かっただろうか。 おかしいな、と首を捻っていると、悲鳴を上げたアルヴィンが寝ぼけ眼でふらふらと見上げてきた。 「…………なに?」 わー……機嫌悪い。 ただでさえ寝起きで低い声に、さらにどすの利いて恐ろしい。 ついでに眉間にこれでもかと皺が寄っていて、人相まで凶悪面になっている。 どんな反応でも叩き起こしてやろうと決めていたジュードだが、あまりに機嫌の悪い表情に、僅かに怯んでしまった。 どう考えたって、いつまで経っても起きそうにないアルヴィンが悪いのだが、ここまできつく睨まれると、なんだかこちらが悪いことをしたような気がしてくる。 「えーっと……なんとなく」 視線に耐えかねてしどろもどろに答えて返すと、返答を聞いたアルヴィンははぁっと忌々しげにため息を吐き出した。 これ見よがしの盛大なため息に、さすがのジュードもやや怯えを抱く。 完全に怒らせてしまった。 さぁっと顔を青くしたジュードは、触らぬ神にたたりなし、と慌ててアルヴィンの腹の上から降りる。 「……ご、ごめんねアルヴィン、疲れてたのにね。えっと、うん、なんでもない、忘れて!お、わぁっ!?」 『おやすみ』、と言いかけて、急激に視界が揺らぐ。 急に左手を掴まれ、強制的な力に傾ぐ身体をを立て直す間もなく、容易くジュードの身体はベッドへ引っ張り込まれる。 シーツにダイブする衝撃に目をきつく瞑っていると、上体を起こすより早く、さらに腰を引き寄せられた。 その素早い行動に、ややパニックになった頭で抗うが、その小さな抵抗はことごとく封殺される。 さらに、ベッドからはみ出た足も、器用に動く足で絡めとられ、気づけばアルヴィンに雁字搦めにされていた。 「う、え……ア、アルヴィン?」 ぼふん、と上掛けを被せられてしまえば、もはや抜け出すことを許さない、と物言わずして語られているようなものだ。 起き上がろうにも抱き込まれてしまっているし、足で蹴飛ばそうにも、これでもかといわんばかりに足を絡めて密着されている。 唯一自由な口で抵抗を試みるも、あまりに近すぎるアルヴィンの顔を見れば、罵るべき言葉もなし崩しに形を失った。 あぁ、なんて卑怯な人だ。 「朝ごはん……」となけなしの抵抗で呟いた声すら、あっさりとその唇で奪っていく。 せっかくの朝ごはんも、きっと昼ごはんになってしまうのだろう。 そんなことを思いながら、ジュードは歓迎できない幸せな眠りに身を投じた。
-運命なんて信じない- 現パロ A*J あなたの最高の恋人になれる人は、【パン屋で、残り1個しかないクリームパンを取ろうとしてる人】です。 ガン見しましょう。 いいコトが起こりますよ! 寝ぼけた頭に、そんな女の声が滑り込む。 ちらりと視線を向けた先で、朝のテレビがありもしない運命の行方を占っていた。 くだらない。 興味も失せた視線はすぐに現実へ舞い戻り、俺は慌しく仕度を開始した。 だが、シャツのボタンを留めている間も、吐き出しきれなかった鬱陶しさを追って思考が回る。 占いなんて、女が遊び半分で夢想する、都合のいい運命だ。 そもそも、どこもかしこも人だらけの世界の中で、たった12枠で区切られた運命が的中するはずもない。 どんぴしゃで条件に当てはまる奴が現れるって、どんな確率だよ。 苛立たしげにワックスをつけた手で髪を掻き揚げ、大雑把に整える。 寝坊した挙句に夢物語を聞かされては、今から気分の急降下する現実へ挑む身としてはなかなか癇に障るものだ。 姿鏡の前で手早くチェックを済ませると、ひったくるように鞄を拾って家から飛び出す。 その頃には、運命の囁きなどすっかり忘れていた。 全速力で駆けたはいいが、結局のところ遅刻した。 さらに、上司から鬱陶しい嫌味をさんざん頂いた午前を過ぎて、ようやくつかの間の休息である昼休憩が訪れる。 出社してからずっと、嫌味を浴びせられて、さすがの俺も心が折れそうだ。 そんな陰鬱さとは対照的に、ぎらぎらと灼熱の日光が降り注いで、暑さは温度計のレッドラインをとうに超している。 なんて真夏日。 俺はぐったりとした身体をふらふらと運びながら、二重の意味で息を吐いた。 今日は厄日か。 そんな俺をよそ目に、昼食のために訪れた行きつけのレストランは、相も変わらず景気がいいらしい。 美味いパスタ1皿の値段で焼きたてパンの喰い放題がついてくる、とくれば、そりゃ人気も出るだろう。 常連客の俺は、いつも食べる3種類の焼きたてパンをキープしてもらっているので、気まぐれにメイン料理を選ぶだけだが。 さてさて、今日のオススメはなんだろうか。 そうして店内の立て看板の前で順番待ちしている俺の視界に、ふと人影がよぎる。 何となくその人影を追って視線を上げてみると、15,6の少年がトレイとトングを片手に、パンがずらっと並んだ棚の前に立っていた。 近所の有名私立学校に通う学生だろうか。 ぼんやり眺めて所作を追ってみるが、何故か少年は一向に動かない。 少年は棚の一点をぎゅっと見つめたまま、時折うぅんと唸ってばかりだ。 何してんだ、あいつ。 と、僅かに眉根を寄せてしまったが、よくよく観察してみれば、少年の前には数量限定の特製クリームパンが鎮座していた。 おぉ、なかなかいいところに目ぇつけてんじゃねーか。 あれ美味いんだよな。 女子に大人気で、あっという間に完売する魅惑の数量限定品。 俺もお気に入りのため、キープしてもらっている3種類のパンの中に含まれているくらいだ。 だが、パンのわりにそこそこな金額を表示されていれば、なるほど学生には手を出しづらいか。 はっはっは、学生は金銭のやりくりが大変だなー。 なんて、微笑ましく見守っていると、ついに少年がクリームパンを購入する決意をしたのか、トングをそっと向ける。 その瞬間、 「あ、これこれ!」 「わー最後の一個じゃん!あたしら超ツイてるー!」 「あと何するー?」 と、横からキンキンとした大声で喋る女子高生3人に、特製クリームパンをあっさり掠め取られていた。 うっわ、どんくせぇ! 何ぼけっと見守ってんだよ、きょとんとしてる場合じゃねーだろ! 思わず前のめりに足を踏み出してしまったところ、ぴくりと揺らいで現実に舞い戻った少年がこちらに顔を向けた。 途端、ばっちり絡んでしまった視線に、少年はぱっと顔を赤らめて俯いて、今度はそわそわと挙動不審になってしまった。 何あれ、どんくさいシーン見られて恥ずかしかったとか? 隣の女子3人のガサツさが目立ってしまったせいか、少年の仕草がやけに可愛らしく見えてくる。 って、おいおい、大丈夫かよ俺の頭……ないない、さすがにない。 暑さでやられたか? などと考えている間に、購入を諦めた少年がトレイとトングを戻しに足早に過ぎ去ろうとしていて、 「おい、待てよ!」 「っ、え……!?」 俺はとっさに少年の手を掴んでいた。 あ?何してんの俺。 ぽかんとした表情でお互い疑問符を掲げてみるも、妙な沈黙の空白に、じわじわと汗が吹き出てくる。 無意識に細っこい腕を掴んだはいいが、俺はいたいけな少年を捕まえて、いったい何をしたかったのか。 ぐるぐる頭の中を引っ掻き回して言葉を探す俺を見つめる少年はというと、掴まれた腕と俺とを交互に見やって困惑している。 その仕草もまたかわいく…………はっ!? 「あ、あの……?」 自分の思考回路に疑念を抱くと同時に寄こされた困惑の声に、とりあえず俺は何か言い繕おうと口を開く。 が、 「なぁおたく、今から俺とランチしない?」 俺の口から出てきたのは、俺史上最低のナンパ文句だった。
* * * * 2013/03/08 (Fri) *新月鏡*
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