-追憶の問答- A

 

俺は、些細なミスをするたびに思い出す。

『無駄に撃ってんじゃねぇよ、この餓鬼がっ!』

忘れ去った鈍い痛みが疼き、記憶の端でざらついた罵声が木霊する。

 

あれは銃の扱いに慣れてきた頃だったか。
実践もそこそここなし始めて、恐怖も麻痺し、惰性的な感覚だけが芽生え始めていた俺は、敵を撃つにも乱雑だった。
目的どおりに足止めはしたし、情報を吐かせた後は始末だってした。
いつ見てもあっけない他人の死を、文字通り他人事のように眺めながら。
そうして仕事も終わり、切り上げようと振り返ると、驚くことに忌々しい叔父の姿がそこにはあった。
今でもはっきり覚えてる。
呼びつけられる以外、極力顔を合わせないように行動してきた中で、唯一叔父から赴いてきたのだから。
仕事終わりの後味の悪さに、俺がわざわざ何の用だと、おざなりに問うた時、容赦なく叔父の拳が飛んできた。
避けられなかった。
繰り出されたパンチが素早かったからじゃない。
避けなかったわけでもない。
ただ単純に、まっすぐ俺を射抜く爛々とした眼光に、足がすくんで動けなかった。
そして、把握が追いつかないまま無様に床に叩き伏せられ、浴びせられた罵声があの一言だ。
無駄なことなどしているつもりは毛頭なかった。
あえて無駄だと挙げるなら、俺の存在そのものが無駄なんじゃないか、と過去にちらりと考えたりしたことはある。
それくらい、自分が無力だと自覚していた。
しかしこの頃は、それを払拭できるほど銃も扱えるようになったと自負していたのだ。
だが、俺を見下す叔父――ジランドの視線は、どこまでも冷徹で、侮蔑の色すら含んでいた。
混乱に呆然としていると、高くそびえるように仁王立ちしていたジランドが、忌々しげに口端を歪めておもむろに告げてきた。

『お前が無駄撃ちした弾で、あと何人殺せると思ってんだ』

あの時の冷たい憤怒を纏った声は、地べたをゆっくりと這って絡みつくようだった。
返答を必要としない問いかけ。
その答えを、俺は未だに探し続けている。
あの時、ジランドが冷たく言った言葉の意味。
ただ単にそのまま受け取るには違和感が残るのだ。
表面上は、もちろん弾薬にかかる金銭の問題があるだろう。
あまり表立って動けない以上、入手経路は困難で、かかる値段も馬鹿にならない。
それを踏まえて、お前のせいで無駄金かかったじゃねぇか、と詰られたのかもしれない。
だが、あのジランドがわざわざ足を運んで殴りつけてまで言うセリフにしては軽すぎる。
あれは、いったい何のための罵倒だったのか。

 

 

俺は、些細なミスをするたびに思い出す。

フル装填されたシリンダーを閉じて、銃身を構え、狙いを定めて引き金を引く。

 

轟く銃声に、たとえばそれが、弾丸一つに込められた命の重さだったりするのかと考えながら。

 

 

 


 

 

 

-猫日和- 現パロ A

 

最近、猫を2匹飼いはじめた。
オレンジに近い金色の毛をした猫は『ミラ』、黒い毛で瞳が蜂蜜色の大人しい猫は『ジュード』だ。
女王様気質のミラは、この近所でよく見かけていて、餌をやるうちに懐かれた。
いや、懐かれたというより、餌を寄こせと家の前で待ち構えられるようになった、が正しい。
そしてジュードは、ある日突然ミラが連れてきた子猫だ。
何の前触れもなく、いつものように家の前で待ち構えているミラの隣に、震えた黒い子猫がいたのだ。
いつものように家の扉を開ければ、ミラは当然というようにするりと上がりこんでしまう。
取り残された俺は、ぶるぶると震えている黒猫をしばし見つめた後、小さな身体を抱えて帰宅した。
以来、この2匹は俺の家に住み着いてしまったのだった。

 

よくわからないままに拾ってしまった猫だが、観察すれば個性的でなかなかに可愛い。
子猫のジュードは、新しい環境に慣れていないせいか、おどおどと怯えたように歩くのだ。
ミラが少しでも離れていると、慌てて後を追いかけるのはちょっと可愛い。
でもミラは特に気にした様子もなく、むしろすげない態度で、自分の興味あるものばかりを気にしている。
手当たり次第に触ったり臭いをかいだりしていて、一向にジュードを振り返ることがない。
たまに気づいても、コミュニケーションらしいコミュニケーションをしているところを見たことがない。
健気に後を追うジュードが可哀想になってきた俺は、慰めも兼ねて心細そうなジュードをよしよしと撫でてやる。
すると、安心するのか、ジュードは気持ちよさそうに目を細めて小さく鳴いた。

「うっわ…!これは可愛い!」

俺はちゃんと構ってやるぞ、という意思表示だったのだが、予想以上の可愛さがとんでもない破壊力で返ってきた。
ぺろぺろと指先を舐められてしまえば、俺はその瞬間にハートを射抜かれノックダウンだ。
はぁ……これだから猫はたまらん。
っていうかジュードが可愛すぎる。
しばらくジュードを構い続けながら、俺はこれからの新生活に期待を膨らませていた。

 

 

 


 

 

 

-猫日和2- 現パロ A

 

ミラとジュードは今日も元気だ。
最近、ミラが結構どじっ子だと判明した。
先日も、ソファに寝転びながら雑誌を読んでいたら、風呂場から大きな水音がしてびっくりしたんだ。
何か落ちたかなって慌てて様子見に行くと、ミラが水の張ってある浴槽に落ちてバタバタしてた。
あまりの光景に呆然としてしまった俺の足元では、浴槽の側面をかりかりと引っかきながら、ジュードがみゃーみゃー鳴いてた。
……お前ら何してんだよ……。
可愛いけど!可愛いけど!何でこうなった!と思いつつ、とりあえず浴槽からミラを救出する。
ずぶ濡れになったミラを抱き上げたはいいが、パニックを起こしたミラが暴れるものだから、お気に入りのシャツも漏れなくお釈迦だ。
よしよしと暴れまわるミラを宥めながら、俺は状況から推測する。
おそらく、興味本位に浴槽の縁に飛び移ったミラが、うっかり足滑らせてドボンしたと思われる。
それをジュードは見てたから、縁に飛び移って様子を見るなんてことせずに、めいっぱい手を伸ばして何とか登ろうとしてたんだろう。
賢い子だな、お前は。
足元をうろつくジュードに感心しつつ、ごしごしとタオルでミラを拭いてやる。
その間もジュードは俺に纏わりつき、痺れを切らしたように小さく鳴いた。

「あーはいはい、ミラ様は大丈夫だよ、ジュード君」

腰を落としてジュードに見えるようにしてやると、タオルの間からきょとんと顔を出しているミラに、すりすりと頭をこすり付け、また小さく鳴いた。
ホント、ジュードはミラが大好きだな。
それでも一方通行なんだよな、とか思っていると、ジュードの健気さに、さすがのミラも絆されたのか、ぺろりとジュードの頬をひと舐めした。
おぉぉ、まさかの進展!?
今後の二匹の仲が楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

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2012/06/17 (Sun)

*新月鏡*