「I know... but」

 

 

 

きっと全部切り捨てる。
どれだけ心許しても、どれだけ好ましく思えても、いつか必ず切り捨てて、その残骸を踏み越える。
このやり方を選んだとき、俺は言い訳はしないと決めた。
他人に誇れるものなどない自分に、嘘まみれでもケジメをつけると誓った。
全部、背負っていくって、受け止めるって。
贖罪にも何にもならないけれど、それが俺にできる精一杯のことだと思ってる。
だから、少しだけ……ほんの少しだけ意外だった。
今、自分がこんなにも動揺していることが。
どんな反応されても、どんな目を向けられても、何でもないように振舞う自信はあったんだ。
ものすごく胡散臭いことに変わりはないが、もう既に不審な要注意人物だって思われてたし、さして不都合なことはなかったんだ。
なのに……揺れる視線にどきりとする。
じんわりと潤んだ蜜色の瞳が俺の意識を捕らえて放さない。
まばたきすれば大粒の涙が零れそうなくらい、傍目にも泣きそうな顔。

「なんだお前……泣いて…」
「泣いてなんかない!」

泣く寸前の揺らいだ声が強く否定する。
そんな声で、そんな目で、いくら怒鳴って否定しても無意味だ。
思わずこの手を差し伸べそうになる。
お前の期待をわかっていながら裏切って、散々傷つけたはずのこの手さえも、無意識に触れようとしてしまう。
触れて、何をしようというのだ。
傷つけるしかできないこの手で、ジュードに何がしてやれる。
平静を装いつつとっさに自分の手を押し止めたものの、あまりにも必死に耐えている表情だったから、つい見つめてしまって頭が上手く働かない。
言いよどむジュードから視線を逸らせないまま、何か言わなければと口を開けば、話す予定のなかったことまで話している自分に驚いた。
プレザに関しては、線引きが難しいだけに結局最後はうやむやにしてしまったが、ジュードは一応納得したと言ってくれた。
信用したわけじゃないとか、可愛い牽制までくれる辺り、まだまだ大人な思考は持ち合わせていないらしい。
大人は卑怯で狡猾で、表と裏を上手く使い分けてこそ世渡り上手なんだぜ?なんて言おうものなら、横から剣を突きつけられるのが判りきっているので、ここは大人しくしておく。
今は、何を言おうが簡単には信じないってのはわかってるし、余計な手間を増やすのも得策じゃない。
だから、ミラが問う『メリット』にも素直に答えてやったのに、

『嘘つきやがってー!』

は、酷くないか?
なまじエリーゼの言わない本音だとわかっているだけに、結構ぐっさり来た。
しかも、それに何のフォローもなく宿屋へ移動する面々を見れば、追いすがるわけにもいかなくて、少し距離の開いた最後列でみんなの後に続く。
見ないフリして茶化してはいるが、本当は自分の滑稽さに項垂れたくなる。
自業自得で、覚悟もしてて、甘んじて受けるつもりなのも変わらない。
だけど、所詮人間だ。
訴えるように胸の奥が痛むのは、誤魔化せない。
みんな、個人的に嫌いじゃないから余計困る。
ローエンの爺さんは、年寄り特有の面倒くささがあるけど、あの性格はなかなかに面白い。
レイアがジュード一筋で追いかけてる姿は、空回りしてるところもあるが可愛いもんだ。
エリーゼは、からかい甲斐のある素直な子だし、彼女の生い立ちにはそれなりに同情する。
ミラは、一応標的なんだが、それを抜きにして見れば、存外気の合う奴なんじゃないかって思える。
そして、お人好しな優等生、ジュード。
違った形で出会えれば、なんてそんな叶いもしないことを願う年じゃない。
もう出会ってしまったし、変えようがない。
それが事実で、現実だ。
壁に寄りかかって、どこともつかぬ場所を眺めて考え耽っていると、

「アルヴィン君、これ部屋の鍵だって」

軽やかに駆け寄ってきたレイアに、はい、とひとつ鍵を渡された。
ぐるりと眺めた面子の手にそれぞれ鍵があれば、今日は個人部屋なのかと納得する。

「今日は奮発したのかよ」
「3人部屋なかったんだって。2人ずつでもよかったけど、そう分けると問題あるでしょ?」
「あぁ、確かにな」

2人ずつに分けると男女1組が必ずできる。
ローエンの爺さんとエリーゼでも構わないんだろうが、お年頃なエリーゼとしては少々遠慮したいところだろう。
ならばミラと、と考えても、色々無頓着な彼女が問題を起こさないわけがない。
なるほど、無難な選択だ。

「あ、そうだ」

この機会に話しておこうとお目当ての人物を探すものの、見当たった光景に口端が引きつった。
お目当ての人物、ジュードはあっさり見つかった。
というか、ロビーのソファのど真ん中で和やかにローエンと話している。
だが問題はそこではない。
ジュードを挟むようにして、恐ろしく油断ならない視線が2対寄こされていれば、さすがの俺でも特攻しようとは思わない。
腕を組んで仁王立ちしているミラと、何故か使命感に燃えるエリーゼ。
おいおいミラ様、エリーゼに何吹き込んだんだよ。
試しにそろっと壁に預けていた背中を正すと、ミラは組んでいた腕を解いて前に出していた足を僅かに動かし、重心をやや前に移動させる。
え、モロに殺る気じゃないですか、その構え。

「ジュード!」
「わっ!い、いきなりどうしたのエリーゼ?」
「ジュードは、私が……守ります!」
「……う、うん?」
『まっかせてー!』

ぎゅうっとジュードに抱きついたお姫様は、守るべき本人の意思を置いてけぼりにしたまま意気込んでいる。
さらに、その2人と俺を遮るように、ティポがうろうろと宙を舞う。
なんという鉄壁、これは近づけない。
たぶん、近づいたら窒息寸前までティポにへばりつかれる。
というか何で俺がこんなに警戒されてるのかわから……いや、仕方ないか。
思い当たる節がめいっぱいある上、先ほど裏切って帰ってきたばかりだった。
裏切り慣れというのは恐ろしいもので、裏切れば裏切った数だけ、自分の中の罪悪感がどんどん薄れていく。
やればやるだけ、『仕事の都合上仕方ない』で済ましてしまうようになる。
それは、自分の心を守るための防衛機能なのだが、言い訳にしかならないのでちょっと反省する。
一方、堅固な守りに囲まれているジュードは、自分の置かれた状況に理解が追いつかないらしい。
隣を見上げて小首を傾げる。

「どういうこと、ローエン?」
「そうですねぇ……この辺をうろつく魔物を警戒しているのかもしれませんね」
「え、シャン・ドゥって夜になると魔物がうろつくの?」
「えぇ、それはもう恐ろしい魔物がいるそうですよ。何でも、人を散々いたぶり弄んだあと、何食わぬ顔で食べてしまうとか」

おい、爺さん。
何でこっち見るんだよ。

「ジュードさんは一番注意しなければいけませんね」
「僕……そんなに弱そう?」

がっくりと肩落としてる割に、秘奥義じゃ倒せないかなぁなんて物騒なこと言ってる!
怖い!何このパーティーメンバー!
さっきの泣きそうな可愛い顔した優等生は何処行ったの!?
なんだか話の方向がおかしなことになってきたため、せめて話すきっかけを、と声を上げるが、

「おい、ジュー」

ド、と言いかけてた言葉は、鋭く飛んできた風圧に消し飛んだ。
ついでに背後にあった飾り布も、綺麗に真っ二つにされている。
あまりのことに一瞬フリーズした後、ぎこちなく視線を振れば、ミラが冷たい眼差しでこちらを眺めていた。
なるほど、背筋が凍るほどの鋭利な真空の刃は、ミラ様でしたか。
気配から推し量ると相当逆鱗に触れてるらしく、あと一歩でも前進しようものなら間違いなくウィンドカッターでは済まないものが返ってくるに違いない。
文字通り、アリーヴェデルチでさよならだ。

「ジュードを泣かしたアルヴィン君が悪いんだから、しばらく反省してよね」

顔を青くしていれば、諌めるような声でレイアが言った。
明るい声音ではあったものの、目が笑ってないことに気づいてはっとする。
これは、女性陣が一致団結しての行動らしい。
友達想いのエリーゼが、使命感に燃えているのも納得がいった。
一番最初に得た大事な友達が泣かされているのを見れば、全力で援護しにくるのは至極当然な流れだった。
愛されてんねー、優等生。
涙ひとつでここまで人を動かしてしまうとは感服する。
追っかけのレイアだけならともかく、あのミラすら味方につけてしまうんだから、今回の自分の行動は相当許しがたいことだったんだろう。

「はぁ……んじゃ俺は先に休ませてもらうぜ」

対抗策を考えるのも億劫になって、俺は逃げるように客室へ繋がる階段に足をかけた。
名残惜しげに振り返れば、さっきと変わらぬ要害堅固な守りの中に、エリーゼを抱えたままきょとんと見上げてくるジュードの姿。
数分前まで隣にいたはずなのに、今はずいぶん遠く感じる。
だが、話したくてもこんな状況だ。
話しかけるきっかけすらもらえない。
だから今は流れに逆らわず、しばらく大人しくしていればいい。
いつものように時間が経てば、夜にはこの包囲網も解かれるだろう。
居心地の悪くなった場所に見切りをつけて、振り切るように背を向けた。

 

 

 

だが、俺の予想とは裏腹に、夜になっても過保護包囲網は解除されることはなく、俺は受け続ける妨害の数々に意気消沈気味だった。
廊下でジュードを見つければ、呼びかける前にレイアに持っていかれ。
買出しを指名されて出かけようとしたとき、ジュードの方から声をかけてくれたものの、こっちが切り出す前にすぐさまエリーゼに持っていかれ。
夕食の卓を囲んでる時に、思い切って全員いる前で声をかけようとすれば、隣に座っていたミラがおかわり連発し始める。
妨害だけを目的とせず嬉々として皿を平らげてるので、俺には抗議のしようがない。
タイミングを逃し続けて、言いたいことの欠片も伝えられない状態というのは、いささかつらいものがある。
宛がわれた一室で、お気に入りのコートをベッドへ投げ捨て、頼んでおいたワインに手をかけた。
八分目まで注いだグラスを片手に、いつものように窓のふちに腰かける。
いまだにぎやかな街並みを眺めながら一口煽った後、重いため息をゆっくりと吐いた。
さわさわと乾いた風が頬を撫でるのは心地いい。
感傷を引き起こす薄暗いオレンジ色の空に、引きずられるようにフラッシュバックするカン・バルクでの出来事。
吹雪く白の視界に、惑い揺れる幼い瞳。


――――嘘はイヤだからね


思い出される硬い声は、釘を刺すというより願いに近かった。
ジュードはそうは思ってないかもしれないが、彼の示した意思は、嘘をつくなというより期待を裏切らないでくれという切望。
そして、俺はわかっていながらそれを切り捨てた。
知ってたさ。
こんなふざけた男を、信じて頼りにしてくれてたことは、ちゃんと知っていた。
だが、それでも俺は利を取った。
そのことに後悔はない。
言い訳も、弁解も、謝罪すらする気はない。
だから、切り捨てた仲間から受ける制裁も覚悟してたし、当然だと思っていた。
なのに……

「普通、あんな顔するかよ……」

涙に揺れる蜜色の瞳が、脳裏に焼きついて離れない。
額に手を押し当てて振り払うように頭を振るも、鮮明に残る記憶が消えるはずがなかった。
目を閉じれば、あの時のジュードの視線が俺を責める。
思い出すたびに突き刺さる視線は、口で罵られるより相当きつい。
奥歯をぎゅっと噛み締めて、何とか平静を保とうと画策していると、控えめなノックが耳に届いた。
宿屋に着いてからの妨害工作の順番を考えると、次はローエンのお小言だろう。
予想に気が重たくなるものの、このまま仲間としてい続けるためには無視を決め込むわけにもいかない。

「勝手にどうぞ、開いてるよ」

再びため息をひとつ盛大に吐くと、投げやりに応えた。
だが、ドアを開けて入ってきた予想と異なる人物を目にして言葉が詰まる。
なかなかお目にかかれない、いつもの上着を脱いだラフなスタイル。
少し俯き加減なため、ぬばたまの黒が蜜色の瞳に影を作る。

「少しだけ、いい?」
「……ジュード」

おいおい、よりにもよってこのタイミングでこいつが来るのはおかしいだろう。
神様とやらは馬鹿なのか?
今の自分の精神状態はあまり良好とはいえない状態だ。
メンバーから受けた執拗な妨害工作で疲弊してるだけに、自分の理性が何処まで制止をかけられるかわからない。
ちょっとしたことでまた苛立つ気がする。
そんな俺が、ドアの前に佇むジュードを傷つけないわけがない。
今回のことで、すでにジュードは傷ついたんだ。
これ以上はさすがにまずい。

「どうした?ミラたちと一緒じゃなかったのかよ」
「うん、ちょっと撒いてきた」
「ま……?」

撒いてきた?どういうことだ。
不穏な予感に背中がぞわりとあわ立つ。

「アルヴィンに会いたかったんだけど、さりげなく遠ざけられてる気がしたから……思い切って気配消して集中回避で撒いてきたんだ」

後ろめたそうに扉を気にするジュードは、過保護な仲間を振り切って自分に特攻してきたという。
本人は自分が悪いと思っているのかもしれないが、これがバレたら間違いなく俺が断罪対象である。
想像容易い未来予想図に、俺は慌ててグラスをベッド脇のサイドテーブルに置いてドアの鍵を閉め、部屋の電気を消した。
お、恐ろしすぎる。
今日は心身ともに散々痛めつけられたんだ、これ以上は勘弁してほしい。
室内にジュードと一緒にいるとバレでもしたらドアをぶち破られかねないので、居留守を決め込んで後でこっそり部屋に帰すしかない。
どきどきと恐怖に早鐘を打つ心臓を宥めつつ息を吐くと、見守っていたジュードは不思議そうに小首を傾げる。
口元に人差し指を当てて『静かにしてくれ』とジェスチャーで伝えれば、意図の先に気づいたのか神妙な面持ちでジュードは頷いてくれた。

「まぁ……なんだ、適当に座れよ」
「うん、ありがとう」

ジュードに届くか届かないかの小声で指示すれば、ジュードはひとつ頷いて窓側のベッド縁へ腰かけた。
サイドテーブルに飲みかけのグラスとワインがあるため、おそらく気を遣ってこの場を選んだんだろう。
ホント気が利く奴だ。
そんなことを思いながら、窓のレースカーテンを引く。
夕暮れ域にある街のため窓の明かりで十分差し支えはないものの、居留守を決め込む以上さすがに外から丸見えはまずい。
窓から死角になる場所を選んで椅子を持って行き、ジュードの座るベッド脇に並ぶ形で落ち着いた。

「それで?」
「え?」
「だからどうしたんだよ?わざわざミラたち撒いてまで俺に訊きたいことあったんだろ?」
「……どっちかっていうと、アルヴィンの方が僕に話あったんじゃないの?」
「は?」
「え?……だって、お昼に呼ばなかった?」

違った?と見上げるように問われて、記憶を逡巡する。
たぶん、ミラにウィンドカッター喰らったときのことだろう。
それ以外に、自分がジュードに話しかけるきっかけはなかったはずだ。

「あー、それか……んでジュード君は、わざわざ訊きに来てくれたわけ?」
「何か呼ばれてたなー、ってずっと気になってたんだ。アルヴィンが買い物行くときに訊こうと思ったんだけど結局訊けなかったし」
「あぁ、あの時ね」

エリーゼにワイバーンを見に行こうと手をぎゅうぎゅう引かれていたジュードを思い出して、小さく笑みがこぼれる。
一生懸命俺からジュードを引き離そうとするエリーゼの行動は、こっちとしては歓迎できないものの微笑ましかったのは確かだ。
しかも、ワイバーンを怖がってるくせに見に行きたいなんて可愛い嘘までつくときた。
買い物から帰ってきたら、ジュードにしがみついて震えていたのは記憶に新しい。

「それで……どうしたの?何かあった?」

視線を合わせてジュードは問う。

「んー……まぁ、たいしたことじゃないんだが、なんだ……その、おたくには言っておかなきゃなーって」
「何を?」

何となく言葉にしづらくて、言葉を濁したままジュードの頬に指を伸ばして目じりをそっとなぞる。
見つめ返す瞳は、もう涙に濡れてはいない。
改めて確認しなくてもわかっていたけど、あの時伸ばせなかった手で、指で、実際に触れると安堵に似た感覚が溢れ出る。

「アルヴィン?」
「泣いて、ないな……」

何を示して零した言葉なのか、ジュードはすぐにわかったようで、すばやく身を後ろに引く。
触れることの叶わなくなった指先が、心もとなく虚空をなぞった。

「話を蒸し返したいの?僕はまだ許してないよ?」
「知ってる」
「本当に、わかっ」
「わかってる。怒ってるのも、許してないのも……信じきれないことを、泣くほど悲しんでることも」

最後の一言に、ジュードの動きがぴたりと止まる。
言葉の真偽に戸惑いながら、驚愕に打ち震えた瞳で俺を見つめるばかり。
馬鹿だな、ジュード。
お前はわかりやすい上に優しすぎる。
あの時も、今も、もっと怒ってよかったんだ。
もっと責めてよかったんだ。
それくらい手酷くジュードの期待を裏切った自覚はある。
なのに、お前は怒っているといいながら俺のために泣くんだ。
過去に心分かち合っていたプレザですら、俺に涙は見せなかったのに、お前はあっさり心許して涙する。
言われただろう?裏切られるから気をつけろって。

「……アルヴィン」
「わかってるよ……けど、それ以上は応えてやれない」

期待の滲む呼び声に、残酷な線引きを睦言でも歌うように甘く囁く。
これが、俺の今できる精一杯の誠意の示し方。
俺のために心砕く愚かで甘い優等生に、せめてもの譲歩。
じっと真意を求めるように見つめてくるジュードの瞳は相変わらず綺麗で、イル・ファンの幻想的な光を思い出す。
心の薄暗い部分さえも優しく抱きしめてくれる夜の景色は、きっとジュードによく似てる。

「……その言葉を……信じて、いい?」

時を忘れるほどの沈黙の後、ぽつりとジュードは俺にそう言った。
その言葉に、今度はこちらが目を見開く番で、予想外の返答に戸惑う。
まさか、ここまで酷いお人好しだとは思わなかった。
いい加減に疑えよ。
責めて、詰って、突き放せ。
受け入れっぱなしもいい加減にしろと苛立ちがこみ上げる一方で、その言葉に感じたことのない幸福感も満ち溢れる。
憎からず想う相手を散々裏切りながら、これほど想い返されるなんて幸運、めったにない。
あぁ、イライラするのに嬉しいなんてどうかしてる。
くしゃっと前髪を掴んで俯くと、不安げな声が俺を呼ぶからたまらない。

「……好きにしろ。だけど、俺は忠告したからな」
「うん、わかった」

ふわりと和らぐ気配に顔を上げると、ジュードが安堵するように微笑みながらそう言った。
微笑にまぎれて揺れる瞳に気づけば、もうこっちは気が触れそうだ。
こんなことで泣いてくれるなよ。
どう足掻いても、俺はまたお前を傷つける。

 

 

そう、きっと全部切り捨てる

 

どれだけ心許しても

どれだけ好ましく思えても

 

いつか必ず切り捨てて

その残骸を踏み越える

 

 

 

それでも……お前が好きだと言ったら、お前は俺を許すだろうか。

 

 

 

 

 

 

* * * *

2011/11/04 (Fri)

シャン・ドゥの裏切りアルヴィン出戻りサブイベのあと。
やっとまとも(?)にアルジュっぽいのが書けました。
泣いちゃうジュード君マジヒロインwwww


*新月鏡*