「A*J×ICO -4-」
正門から引き返した道の先、アルヴィンとジュードは跳ね橋のある広大な敷地の中を歩き回り、別の場所へ続く入り口を見つけることができた。 そういえば、大量の影に襲われたせいで、ろくに調べることもなかったな、とアルヴィンは必死に逃げ回っていた記憶を思い出す。 この先は行ったことがないので、もしかすると運がよければ、ジュードが指し示したオーナメントに続く道があるかもしれない。 期待半分恐怖半分の気持ちを抱えながら、アルヴィンは慎重にその扉をくぐる。 扉の先は長い階段になっており、狭い通路を下りてしまえば、視界いっぱいに開けた場所に出た。 なにやら仰々しい石棺のようなものが並んでおり、何となく埋葬された墓に似た感覚を抱く。 日当たりがよく、のどかなように見えて墓地とは、なかなか巧妙に気分を上げて落としてくれる。 一番下の階層には閉じた扉があり、その扉を基点に対称となっているくぼみ2つがあった。 おそらく、あの2つを何かしら動かせば、扉が開く仕組みになっているのだろう。 くぼみが一体どういう構造になっているのかを知るために、一番下の階層まで2人で下りてみる。 試しに右側のくぼみへ足をかけてみると、ずずっと石の擦れる音がして足元が沈んだ。 「なるほど……で、同じ仕掛けが向こうにもある、と」 要は、二ヶ所のくぼみを同時に沈めれば、扉が開く仕掛けなのだ。 何かしら重しを乗っけておけばいいのだが、アルヴィンが辺りを見回して見つけることができたのは箱ひとつ。 一ヶ所はこの箱で代用することはできたが、残り一ヶ所はどうするか。 動くかどうかわからないが、石棺の蓋でも引き剥がすか、と罰当たりなことを考え始めていると、何かを見つけたのか、ジュードが走り寄ってきて上を指差した。 「Alvin, icxk!」 「……うっわ、あんなとこにあるのかよ……性格悪すぎだろ」 ジュードに示される場所を見上げれば、アルヴィンが望んでいた、くぼみにはめ込んだ箱と同じものが見つかった。 しかし、どう考えても、今いる場所からその箱を取りに行けそうにない。 粘り強くよく観察してみるが、どうしたってここからでは手の出しようがないことしかわからない。 試しに遠目から観察してみると、箱のある2階部分は扉の向こう側の部屋と繋がっているらしく、中へ入ってあの箱の元までたどり着くことができれば、上から箱を落としてジュードと一緒にこの意地の悪い扉をくぐることはできるだろう。 だが、問題はそこではない。 「…………」 「Alvin?」 「うぅ……マジでこの仕掛け考えた奴最悪だ」 2つのくぼみを起動させなければ開かない扉があって、ひとつしか箱がなくて、もうひとつは扉の向こうとなれば、選択肢はひとつしかない。 いや、一応選択肢としては二つあることはあるが、どう考えても自分が動き回った方がいいだろう。 もし扉の向こう側でジュード一人では対処しきれない難関でもあったら、即終わりだ。 やらなければならないことはわかっている。 だが、離すまいと決意した矢先に、どうしてこの手を離せるか。 悩むだけ無駄なことはわかっていても、離れがたいと思ってしまうのは当然だ。 この意地の悪い扉は、そんな人の心理を弄んでいるのか。 アルヴィンが頭を抱えるように唸っていると、不意にジュードがそっと背中を押してきた。 「ジュード?」 急な行動に顔だけ振り向くと、ジュードはアルヴィンの背中をぐいぐいと押して、くぼみに突っ立ったままのアルヴィンを追い出してきた。 無理やり追い出され、段差にこけそうになりながら、アルヴィンは何とか体勢を整え、振り返る。 「お、おい、ジュード」 「icxk!」 きゅっと唇を引き締めて、ジュードは真っ直ぐに扉を指を差す。 アルヴィンの代わりに、沈んだくぼみに立つジュードのおかげで、いまだ扉は開かれたままだ。 ジュードの示した意図に気づき、アルヴィンは扉からジュードへ視線を戻す。 だが、意志の強い瞳で頷くだけで、ジュードはそこから動こうとはしなかった。 そう、ジュードもわかっているのだ。 ここから2人で扉をくぐるためには、一度この場所にアルヴィンかジュードのどちらかを置き去りにしなければいけないことを。 そして、2人の行動力を比べれば、ジュードが残るべきだということを。 「ジュード……」 安心させるように僅かに口角を上げて見せるジュードの健気さに、アルヴィンは胸が締め付けられる思いだった。 たった一人残されることが、怖くないはずがない。 いつ黒い影に襲われるかもしれないこの場所なら、なおのこと。 けれど、ジュードはアルヴィンを信じて残ろうとしてくれている。 その行動だけで、ジュードがアルヴィンに向ける信頼の大きさは示されていて、アルヴィンはその信頼に後押しされる形で決断した。 ここまでジュードがしてくれたのに、自分がぐだぐだと情けない格好を見せるわけにはいかない。 「何かあったら、絶対呼べよ」 届かないとわかっていながら、願うように告げる。 だが、やはり伝わらなくて、ジュードはぱちりとまばたきした後、小さく首を傾げるばかり。 アルヴィンは、そんな届かない言葉を持て余し、思わず繋いでいた手を引き寄せ、祈るように唇を寄せた。 この城で出会って、初めて離れ離れになるのだ。 お互い不安にならないわけがない。 ジュードを安心させるためと、自分を奮い起こさせるために、この手の温かさを心に刻む。 そっと優しく握り返される仕草に励まされ、アルヴィンはひとつ深呼吸をすると、覚悟を決めた。 「すぐ、戻る」 名残惜しさを振り切るように、すばやく身を翻して扉へ駆ける。 忌々しい扉を潜り抜けると、真っ暗な部屋の中、アルヴィンの目の前に見慣れた石像の扉が現れた。 やはり、この意地の悪い扉は、ジュードと2人で通らなければ先へ進めないらしい。 粗方部屋の確認を済ませると、今度は二階へ上がるための方法を探す。 埃っぽく古めかしい建物だけに、使えそうな梯子かと思えば途中で腐り落ちていたり、なかなか上へ上る場所を見つけられず、スムーズに物事が進まない。 急き立てる感情に苛立ちがこみ上げてきた頃、ようやく上へ繋がる梯子を見つけて駆け上る。 あとは、箱のある場所まで行って落とし、ジュードの元へ戻るだけだ。 ようやく一安心できると、ほっと息をついたとき、 「yh!」 聞きなれた声が、扉の向こうで悲鳴を上げた。 途端、ごぉん、と大きな音を立てて階下の部屋の扉が無情にも閉まる。 何故扉が閉まったのか、簡単すぎるロジックに、ぞわりと背筋に悪寒が走り、呼吸が止まる。 「ジュードっ!」 アルヴィンは腹の底から叫ぶように呼び、一気に残りの梯子を駆け上がって外へ出た。 予測どおり、鎮座していた箱を駆ける勢いそのままに突き落とし、続いて自分の身も宙へ投げる。 扉の前へ落ちた箱の上に狙いを定めて着地し、すぐさま辺りを見回すが、仕掛けのくぼみに求めた姿はない。 「何処だ!ジュード!」 「……a, Alvin!」 か細い悲鳴が懸命にアルヴィンの名を紡ぐ。 その声を辿って視線を振れば、黒い影を呼ぶ真っ黒な巣の中に、一際白いものを見た。 ぽっかり開いた闇の穴へ押し込められながら、必死にもがいて抵抗しているそれは…… 「ジュードっ!」 かっと目の前が赤く染まるような激情が湧き起こり、アルヴィンは矢のように駆ける。 周囲の影を鋭く振り払い、躊躇うことなく穴へ手を突っ込み、白い腕を引き上げた。 ずるりと絡みつく黒い闇から、真っ白なジュードがこの手に還る。 アルヴィンは強くジュードの腰を抱き寄せて、手にした棒を的確に影へ叩き込み、影が怯んだ隙を突いて駆け出した。 落とした箱までたどり着くと、すばやく箱をくぼみへ押し込み、扉が開くと同時に滑り込む。 「ジュード、あれだ!」 さらに追ってくる影を避け、アルヴィンは目の前にある石像を指差す。 指し示された先に見慣れた石像を見つけたジュードは、すぐに扉へと駆け寄り、祈るように目を閉じた。 ふわりと立ち上る白い輝きに、呼応した石像から再びまばゆいの閃光が迸る。 炸裂音と地鳴りのような振動音が交じり合い、視覚も聴覚も奪われる感覚に、アルヴィンはぐっと耐えるしかない。 それから数秒後、辺りが完全に静寂を取り戻すと、ようやくアルヴィンの手から力が抜けた。 からん、と乾いた音を立てて床へ転がる木の棒は、ころころと数センチ転がって止まるが、アルヴィンはそんなことなど気にしていられなかった。 「ジュードっ!」 振り返り、両手を広げて呼べば、小柄な身体がすぐに腕の中へ飛び込んでくる。 呼吸を奪うほど強く掻き抱き、しっかりと抱きしめるが、アルヴィンの鼓動はなかなか落ち着かない。 ジュードも恐怖に駆られて気が動転しているのか、ぎゅうっとしがみつく指先から力が抜けることはなく、がたがたと震える身体もすぐに治まらなかった。 それもそうだろう。 あれだけ恐れていた影に攫われた挙句、暗い闇の穴へ引きずり込まれそうになったのだ。 頬をすり寄せ、髪を撫で、何とかジュードだけでも落ち着かせようとするものの、互いが強い恐怖に駆られたせいで上手くいかない。 「Alvin……Al,vi……」 「大丈夫だ。もう、平気だ……落ち着け、大丈夫」 「……a……Al,vin……」 切ないほど必死な呼び声に、アルヴィンは喉を締め上げられるような気分になった。 顔を埋めるようにしがみつくジュードの方が、アルヴィンよりずっと怖かったはずなのだ。 あの影は、黒い巣が発生してから姿を現すまでにタイムラグがある。 ジュードが攫われた黒い巣が、ジュードの立っていたあのくぼみからはっきり見える位置にあったことを考えれば、この子がどれほど恐怖に耐えていたかなど考えなくてもわかる。 じわりじわりと広がる黒い染みに、何を思っただろう。 黒い穴からゆっくりと現れる影の群れに、何を感じていただろう。 そして、ジュードの悲鳴が聞こえるまで、アルヴィンが通った扉が開いたままだった事実。 つまり、迫る影の恐怖に抗いながら、ジュードは最後までアルヴィンを信じて待っていたことになる。 逃げることもできただろうに、それもせず、ジュードはただひたすらにアルヴィンを待ち続けていたのだ。 そこまで思えば、アルヴィンは申し訳なさと苦しさで気が触れそうなほど泣きたくなった。 「ごめん、ごめんな……」 すぐに戻ると言ったはずなのに、それを実行できず、ジュードを危険な目に遭わせた自分が許せない。 この手に取り戻せたからよかったものの、あのまま失っていたらと思うと身が凍りそうだ。 恐怖に冷えてしまった身体を抱き寄せて、それでも足りない熱に腕に込める力が増した。 もう二度と同じ失態はできない。 「Alvin……」 「……どうした?」 離すまいと抱きしめ続けていると、不意にジュードがアルヴィンを呼んだ。 何事かと見下ろせば、開け放たれた扉をちらりと見やり、そして気恥ずかしそうにアルヴィンを見上げてくる。 どうやら、先へ進まないのか、という問いかけらしい。 確かに、影がいくらでも出没しそうな真っ暗な部屋に入り浸っているのも、気分的に晴れはしないだろう。 まだもう少しだけジュードを離したくはなかったが、アルヴィンが名残惜しげに身体を離し、床に転がったままの木の棒を拾い上げた。 先に何があるかわからないが、いつまでも立ち止まっているわけにもいかないのも事実だ。 「ほら、おいで」 両手を抱くようにぽつんと立ったままのジュードに向かって手を差し出し、先へ促す。 当然のように握り返される手の震えは止まっていて、アルヴィンはそっと息を吐いた。
慎重に石像の扉をくぐった先には、いい意味で2人の期待を裏切る光景が待っていた。 見通しのいい崖の上には、薄暗い城の中とは打って変わって、穏やかな日の光で溢れており、からからと回る古びた風車の足元には、透きとおるような水面が広がる。 先ほどまでの恐怖体験などあっさり吹き飛ばしてしまうほど、穏やかで優しい景色に、アルヴィンは少し呆然としてしまった。 ぼんやりとした意識のままぐるりと周囲を見渡すと、風車の対岸には途切れた道があり、伸縮可能な橋らしきものがある。 そこから続く道の先には階段になっており、風車の一番天辺と地続きになっているようだ。 道の途中に鎮座している石像の扉もあり、次はあの扉か、と小さくため息をついていると、アルヴィンの背後で、さくさくと草を踏む足音が駆け回る。 何事かと振り向けば、ジュードが白い鳥をぱたぱたと追いかけていた。 降りてきた鳥を追いかけ、逃げられては見送り、また追いかけて。 身体が跳ねるたびに、白い裾がふわふわと揺れる。 緊張感の欠片もない無邪気な行動に、アルヴィンは自然と口元を緩めて微笑んだ。 こうして自由に駆け回るジュードの姿はなんとも微笑ましく、穏やかな景色をより一層温かなものへと変えるようだ。 「崖には気をつけろよ」 一応そう注意をしたものの、ことりと首を傾げられただけでちっとも伝わりはしなかったのだが、大事なことすらまぁいいか、と軽く考えてしまったのは、こののどか過ぎる景色のせいだろう。 これほど穏やかで眩しい光の下ならば、影も出てこないのではないか、なんて、思慮深くあるべき自分ですら楽観的にしてしまうのだから。 とりあえず、自分のすべきことをやろうと決めて、アルヴィンは探索を開始した。 一番の目的は、途切れた道の向こうにある石造の扉へジュードと2人でたどり着くことだが、どうにかして向こう側まで渡り、収納された橋を起動して架ければ達成できるだろう。 「問題は、これだよなぁ……」 仰け反るように見上げた風車の天辺に、どうやってよじ登っていくかだ。 入り口らしきものもないので、完全に外側から登っていくしか方法がないのだが、正直自分にできるかどうか怪しいところである。 ぐるぐると風車の周りを歩いて見ると、登っていけそうな箇所も点在しており、勝算としては五分五分と言ったところだろう。 だが、やらずにここでのたれ死ぬつもりもないので、結局やるしかない。 ロッククライミングの要領で、石造りの台に足をかけ、造形の出っ張り部分を掴んで少しずつ登っていく。 木ではなく石で作り上げられた土台のおかげで、しっかりとした足場は崩れる心配がなかったが、もう少しで登りきると思った瞬間、 「う、わっ!」 ぶわっと吹き付けた潮風に、気の弛みも相まって、アルヴィンは足を滑らせてしまった。 空を掴むばかりの手が何かを捉えるはずもなく、重力に逆らえない身体は、風車の足元に広がる冷たい水面に打ち付けられる。 ばしゃんと盛大な音を立てた水飛沫に呑まれ、気泡に視界を奪われながら、アルヴィンは空気を求めてもがくように水面へ向かって泳いだ。 「ぷはっ!……げっほ、うぇぇ……痛ぇ……」 大きく息を吸って咳き込むが、入った水がなかなか抜けない。 耳にも鼻にも水が入っていたらしくつきんと痛み、水面に打ち付けられた背中がひりひりする。 さらに全身ずぶ濡れとくれば、2重3重の災難だ。 「Alvin!」 切羽詰ったような呼び声と、慌しく駆け寄ってくる足音に振り向くと、心配げな表情をしたジュードがこちらへ向かってくるところだった。 その姿に、アルヴィンは痛みも忘れてほんのりとした温かな感情に満たされる。 池から這い出しぐったりと横たわるアルヴィンの傍で、駆けつけたジュードは濡れた髪を優しく撫で上げ梳いてくれた。 労わるように滑る指先が心地いい。 不謹慎だが、心配して駆け寄ってきてくれたことが嬉しくて、自然と頬が弛んでしまう。 「……やっぱ可愛いな、お前」 「?」 ぱちりと瞬いて首を傾げるジュードの頬に指を滑らせて眩しげに笑えば、ジュードもまた笑い返してくれた。 風にふわふわと揺れる服が降り注ぐ日差しを受けて、さらに白く透けるようだ。 真っ白で、眩しくて、優しい気配。 不思議だ。 言葉の意味など一切伝わっていないのだとわかっていながら、湧き起こる感情ばかりが確かな繋がりを示してくれる。 いつ襲われるとも知れないこの場所で、たった2人だけで感じる穏やかさ。 眠気さえ呼び起こしそうな優しい空気に、ジュードの手を引いて一緒に横たわって眠れたらいいのに、とうっかり甘い願望が脳裏にちらつく。 「あーダメだ!先に進んで早くここを出るんだろう!馬鹿か俺!」 手招く甘い夢に抵抗するように叫ぶと、ごろごろとジュードから引き離すように転がって自分を叱咤する。 突然の奇怪な行動に、ジュードは目を丸くしていたが、すばやく立ち上がったアルヴィンの瞳を見つめてにこりと笑った。 その笑みに少しの気恥ずかしさを感じながら、アルヴィンは再度石造りの風車へと手をかける。 登るルートはもうはっきりしていて、あとは先ほどのような強い潮風に気をつけて油断しなければ、すいすいと登っていけた。 ようやくたどり着いた風車の天辺にまで手をかけ、一気に体を押し上げる。 からから回る風車の羽と同じ高さまで登りきると、そこは驚くほど美しい景色が広がっていた。 「……すげぇ……綺麗……」 暗い部屋を抜けて最初に見た時より、ずっと視界の広くなった景色は圧倒するものだった。 薄い雲に覆われた空から降り注ぐ陽光は相変わらずだが、それを受けて反射する海の輝きは別格だ。 孤立した城の外壁が遠くまで見渡せ、この城がとてつもなく広いのだと実感する。 高さを確認するように下を見下ろせば、先ほど落ちた池の水面もきらきらと輝いており、海よりずっと透明度の高い輝きを放っていた。 そして、輝く水面に映る白い姿。 胸元へ手を寄せて、風車を見上げながら静かに佇むジュードの姿に、アルヴィンは言い知れぬ充足感を感じていた。 のどかすぎる景色に、ジュードがいる。 ただそれだけで、完成された絵画のような印象を受けるのは何故だろうか。 「おっと、いけね、橋架けないとな」 ぼんやりと数秒見入ってしまったアルヴィンは、慌てて頭を振って現状を思い出す。 ここに連れて来られてから、ジュードに視線を奪われすぎではなかろうか。 自分の情けなさに呆れつつ、地続きになっている道を下っていく。 風車の対岸まで来ると、橋の開閉スイッチを起動して収納されていた橋を架ける。 がたがたと古めかしい音を立てながら架かった橋からジュードを呼び寄せ合流すると、アルヴィンは石像の扉を素通りして再び風車の天辺まで戻ってきた。 連れてこられたジュードが石像の扉を振り返り、不思議そうな顔をしたが、アルヴィンが行く先にあるものを見つけて納得したようだ。 風車の天辺にそっと置かれた白い長椅子。 この長椅子で休憩したのはずいぶん前で、シャンデリアのあった広間で仮休憩は取ったものの、ほんの数分足らずだったことを思い出せば、やはり無理はさせられない。 仮休憩から起こった出来事を反芻すればなおさらだ。 それに、石像の扉が近くにあるので、いざ影に襲われることになったら、真っ先に扉へ向かえばあの扉が助けてくれる。 「ちょっとだけ休憩、いいだろ?」 隣にジュードを座らせて髪を梳けば、ふわりと微笑んで寄り添ってくれた。 駆け回ったり水に落ちたりした身体は疲労を訴えていて、長椅子に身体を預けた途端、優しく包むような眠気が襲ってくる。 あぁ、ダメだ、眠い。 起きなきゃ、と思うのに、重い目蓋はゆっくりと下りてきて。 やんわりと絡んでくる指先に、何より心を満たすぬくもりを感じながら、アルヴィンはそっと目を閉じた。
* * * * 2012/04/09 (Mon) 風車の景色好きです。 このペースだと、EDマジ遠いんだけどw *新月鏡* |