「waltz on shadow」

 

 

 

好きとか、嫌いとか、憧れとか、妬みとか。


きっとこの胸には、色んなものが渦巻いているのだろうけれど、目に映る景色を愛しいと思う気持ちに嘘はなかった。

 

 

 

散々人の期待を裏切って、それ相応の痛みを負って、何とか自分の立ち位置を確保して。
ようやく帰って来た自分だけの場所。
居心地がいいのか、と問われれば、即答で『いい』とは返せないけれど、それでも、今この世界の何処より厳しく優しい場所なのだと思う。
そんな場所に立ちながら、俺の胸のうちにはさまざまな感情が溢れていて、どう処理していけばいいのかと悩んでばかり。
痛い、後ろめたい、怖い。
14歳年下のエリーゼにすら恐怖を抱くのだから、もはやこれは心に根付いた病魔だろう。
20年間大切に大切に育てながら封じ込めてきた病魔は、今ようやく芽吹いてこの身を食いにかかっているのだ。
情けなく戻ってきたとき、逃げていただけだと叱られたけど、寄り添おうとしてくれた仲間たちは、俺の忌まわしい過去を責めることはなかった。
いつだって、『現在』の俺の行動を責めて、怒って、叱ってくれてた。

ミラは、俺が見ようとしない問題を突きつけて。
ジュードは、俺が自分で気づくように、それとなく促して。
エリーゼは、たぶん、同じ痛みを感じてくれてて。
レイアは、振り返りそうになる背中を押してくれて。
ローエンは、決定的に間違う一歩手前で釘を刺してくれる。

俺は、仲間にものすごく気を遣わせているのだ。
寂しくて、怖くて、踏み出すのも躊躇うけれど、きっと仲間は俺がたどり着くまで待っててくれる。
だけど、立ち止まる時間だけ距離は開くのだと気づいて、俺はようやく逃げ回っていた自分と向き合った。


信頼と、淡い恋情。


逃げ出そうと暴れまわる恐怖を押し留めながら、胸のうちに形を成した感情。
気づかなきゃよかったのに、このどうしようもない感情は、だいぶ前から自覚していて。
許されない裏切り行為を行いながら、心寄り添ってもらえる幸福に、俺はずっと、たった一人を望んでいた。
一度は自らの手で葬るつもりでいた存在。
紆余曲折あって同じ場所へ帰ってきてしまった今、特別に振り分けられた感情を止める術など俺にはない。
ただ、離れたくなくて、縋るように追いかける毎日。
この心は、一度殺し、諦めた。
なのに、再び傍にいることを許されてしまえば、錯覚しないはずがない。
諦めなくていいのだと促された気がして、恐怖や後ろめたさの陰に隠れた恋情はざわめくばかり。
自分の身勝手さと都合のいい解釈に項垂れたりしたが、それで消えてくれるはずもなくて。
たとえ、それがどうしたって実らない恋だと知っていようとも、俺にはどうしようもない。
取り巻く世界を破壊しても手に入れたい、なんて、そんな物騒な気持ちなど俺は持ち合わせてないのだから、中途半端な気持ちだけが育っていく。
視線を流して眺める先に2人の姿を見止めれば、自分の気持ちの把握が間違っていないと実感するから、なおさら言葉になどできない。

「ジュード、こちらへ」
「なに?」
「動くなよ、……よし、これでいいだろう」
「え、なにこれ、花?」
「綺麗だろう?といっても君には見えないか。エリーゼが見つけてな。私にくれると言ったので、私の好きなようにしてみた。よく似合っているぞ、ジュード」
「こういうのは、ミラの髪につけた方が綺麗だと思うんだけど……」
「何を言う!君のぬばたまのような黒髪あってこそ、その花の色が引き立つんだ。私の髪では花の色とごっちゃになって引き立たんだろう」
「そうかなぁ?絶対ミラの方がいいよ。ふわふわで綺麗な髪だし……あ、そうだこれを」
「ジュード、今それを取ったら酷い目にあわせるぞ」
「えぇぇ!?」
「私がエリーゼからもらったのだ、私の意に添うのが正しい」
「……何か違う気が」
「ん?」
「いえ、何も」
「ならばいい。うむ、やはり君は可愛いな」
「うぅぅ、何だろう、嬉しくない……」

偉大なる精霊の主と、その主を慕い、主に愛される少年。
穏やかな光景に溶け込むような微笑ましい2人の姿に、嫉妬心を抱かないのかと言われれば、もちろん羨ましいと思う気持ちはある。
だが、2人の仲を裂いてジュードを自分のものにしたい、なんて気持ちは欠片も湧かない。
それ以上に、自分の傍で、2人がこうして笑っていてくれることの方が嬉しいと思う。
俺はジュードが好きだ。
それに間違いはない。
だが、ミラのことだって、俺は人並み以上に好いているのだ。
特別な女性と、好きな少年と、そこに自分がいられるなら、それでいい。
疎外感のような寂しさを味わうかもしれないが、2人が向ける自分への好意も知っているから、その世界のあり方が一番自然なような気がするのだ。
何より、目に映る光景は、この世のどんな場所より優しくて、愛しくて、居心地のいい場所なのだと実感する。

 

「絶対、可愛くないよ!錯覚だよ!」
「いいや、君は十分可愛い!なぁ、アルヴィン、お前もそう思うだろう?」
「そんなことないよ、ねぇ、アルヴィン!」

 

2人の瞳に俺が映る、それだけで。

 

「俺は、おたくら2人のやり取りが可愛いと思うわ」

 

 

 

 

 

 

* * * *

2012/03/05 (Mon)

最終決戦前の話。
ミラ様いる状態で、嫉妬対決とかあるのかなーって考えたけど、終盤のアルヴィンはそんな気持ち抱く余裕なかったwwww
むしろ2人に縋って依存してる感じに仕上がってて、あぁぁぁなんてヘタレwwww
ミラジュでアル→ジュなんだけど、ものすごく円満です。


*新月鏡*