※ジュアルを目指したアルジュのような突発SS。

 

 

 

「Realize your error!」

 

 

 

きっとそれは本質的なもので。
生きてきたベクトルが違うだけで、彼と僕とはよく似ているのだ。
内側に向くことのなかったそれが、たった一つのきっかけで壊れてしまって。
あれだけ距離感をうまく操っていた彼は、とうとう自分の心地よい距離すら忘れてしまったようだ。
僕らの視線が何を意味しているのかも、顔を上げなくなった彼は気づかない。

いつになれば、気づくのだろう。

いつまで僕は、こうして待っていればいいのだろう。

じれったいような心を抱えたまま。
一向に縮まらない悲しい距離で。

 

「俺は後でいい」

いつの間にか、それが彼の口癖になった。
何でもかんでも後回しにして、振りかざす建前を順当に並べ立てて、そうして一歩後ろで佇むのだ。
当たり前のように告げるそれは、戻ってきてから始まったもので。
原因も、その想いも、何となくわかってはいるのだけれど、結局僕たちが具体的に彼に干渉してやれることは少なくて、ただ待つしかできなかった。
だが、あまりにそれが長く続くので、どうしたものかと思った矢先、

「いい加減にしてよねっ!」

キン、と耳をつんざく声がしたかと思えば、引きずられるように奥底から溢れる感情に思考が吹き飛ぶ。

「「巻空鏡舞っ!」」

合わせるように叫んだものの、吹き飛ばした対象を見つけて青ざめた。

「わぁぁぁアルヴィンっ!」
「決まった!」
「レイアっ!」

どさっ、と重々しい音と共に地面へ落ちたアルヴィンに駆け寄り、慌てて治癒功をかけるが、アルヴィンの焦点が合わずにふらふらしている。
渦の丁度ど真ん中で喰らったらしく、やや目を回しているようだ。
頬を軽く打つと、少し飛んだ意識が戻ってきたのか、ようやく視線が安定した。

「大丈夫?」
「……あれ?何で俺……」
「レイア、謝りなよ」
「ヤダっ!悪いのはアルヴィンじゃん」

ぷいっと顔を背けて怒りの態度を解かないレイアに、一方的に共鳴術技を喰らったアルヴィンは、僅かに肩を揺らした後、悲しげに目を伏せた。

「っ……そう、だよな…………きっと、俺がまた何かして」

怒っていいところで下がる視線に、僕はまた、彼が自分の内側へ原因を探しに行ったのだと気づくも、口を開く前に横から怒声が飛んだ。

「違う!馬鹿っ!馬鹿馬鹿アルヴィンの大馬鹿わからず屋っ!」
「ひでぇ言われようだな、俺」

違うと言いながら連投される罵倒に、さらにアルヴィンの背中が丸まってしまって。
弱りきってしまった子犬のような態度に、僕は胸を突かれる思いだ。
どうにかしてやりたくて、まだ発散し足りないといわんばかりのレイアを見上げて口を開く。

「…………レイア、ちゃんと言わなきゃわかんないよ」
「ジュードはわかるじゃない」
「僕は一緒に見てる側だからね。でも、アルヴィンは本人なんだから、わかんないよ」
「おい、何の話だよ?」

当事者を置き去りにしての会話に、しょげきっていた視線が僅かに上がる。
いつもは一歩下がっていようとするくせに、完全に蚊帳の外になるのを嫌がって。
恐る恐る踏み込んできた瞳は、割り込んできたわりに強引さの欠片も見当たらないほど弱々しくて。
きょろきょろとレイアと僕を交互に見やる視線は、まるで迷子のようだ。
その心もとなさに、僕は殊更優しく響くよう意識しながら、アルヴィンにひとつの質問をした。

「ねぇ、アルヴィン。エリーゼとアルヴィンが怪我してるとするでしょ?」
「何、いきなり」
「黙って聴いて」
「……ハイ」
「2人が怪我してる状態で、エリーゼが『アルヴィンの方が酷い怪我してるので、先に治してあげてください』って頑なに言ってくるとする」
「うん」
「どうする?」

きっと返されるだろう答えを、僕はわかっている。
だが、そうであってくれるなという願いもあって、こんな問いかけをしたのだが、

「どうするって……俺より、エリーゼのが身体も小さいしか弱いんだから、治療するなら俺より先にエリーゼだろ?」

返ってきた言葉に、やっぱりという確信と言い知れぬ寂しさを感じる。

「じゃぁ、ローエンだったら?」
「老体鞭打ってんだから、爺さんだろ」
「ミラは?」
「あのミラ様が怪我するなんてよっぽどだろ?だったらミラ様のが一大事じゃねぇか」
「……僕やレイアは?」
「おたくらは無理して隠してそうだし、俺より年下だし」
「結局、僕たちが先ってこと?」
「そう、なるか?」

質問の意図がつかめずにいるアルヴィンをよそに、僕とレイアは同時にため息をついた。

「…………言い切ったね、躊躇いもなく」
「やっぱりもう一発ガツンとやった方がいいんじゃない、ジュード?」
「レイア、これじゃぁ、何度やっても治りそうにないよ」
「え、何?なんでこんな質問してくるんだよ?」

ひとり理解できないアルヴィンは不安げで、どうにかしてやりたいものの、彼が陥っている状態は、きっと言っても治らない病気みたいなものなのだ。
身に沁みて後悔するほど、強く自覚しなければ治りようもない。
それがわかっているから、僕もレイアも他の仲間だって、彼に直接注意することがないのだ。
はぁ、とひとつため息をついて、未だ困惑に捕らわれているアルヴィンを見つめる。

「アルヴィン、よく聞いてね」

きっと傷つけるだろうけれど。
悲しい顔をさせてしまうだろうけれど。
でも、一緒に変わっていこうって約束したから、僕は言わなければならない。

「嬉しくないよ、そんなの」
「え……?」
「嬉しくない。エリーゼも、僕たちも」
「……俺、また……間違えた?」
「うん、大間違い」

きっぱり言い切れば、驚愕に見開いていた瞳が一気に細められ、情けないほど泣きそうな表情で俯いた。
あぁもう……馬鹿だなぁ本当に。
怒ってるわけでも、嫌ってるわけでもないのに、どうして気づいてくれないのか。
自己嫌悪のあまり閉じこもる背中をそっと撫でて、隣に佇むレイアを見上げる。

「罰として、しばらく回復最優先の刑だね。レイア、お願いできる?」
「任せて!みんなに伝令だね!」

端的な言葉だけで、すぐさま頷き返してくれるレイアには、こんなに簡単に伝わるのに。
どうしてアルヴィンにだけは伝わらないのか。
くるりと踵を返して、他の仲間の下へ走り去るレイアを眺めていると、

「ジュード」
「ダメ。何を言おうが許さないよ」

縋るような声音を神速で一刀両断する。
ぐだぐだと言い募る言葉などで、この意思が覆せると思ったら大間違いだ。
レイアが先に業を煮やして爆発してしまったが、いい機会だ、ここでひとつ荒療治を受けてもらおう。
痛い、苦しい、きっとそんな風に心が叫ぶだろうけれど、僕たちだって味わってきた気持ちだ。
共鳴ですら伝わらないことも、痛いほど実感してくれれば変わるだろう。
不安がったり、怯えたり、つらい気持ちにさせてしまうけど。
それでも僕たちが傍を離れることはないのだから。
うろたえた瞳で見上げてくるアルヴィンの髪をやんわりと梳いて、囁きかける。

「わからず屋なアルヴィン。最初は僕をどんな風に見てたの?」
「どんなって…………えっと、優等生でお人よしで……?」
「詰ったくせに忘れてるなんて」
「……悪ぃ」
「わかってもないのに謝らないでよ。じゃぁ、わかるまでの宿題だね」
「宿題?」
「そう、宿題。それが解けるまで回復最優先だから、覚悟してね」

よしよしと頭を撫でてにっこり微笑めば、腑に落ちない表情でアルヴィンは首を傾げていた。

 

 

 

その後、

 

「下がれアルヴィン!」
「いやいや、ミラ様のが傷だらけじゃねぇか!おたくが下がれよ!」
「ヒール!」
「ちょ、待て、俺よりミラ様のが」
「リカバー!」
「だから俺の状態異常より、ミラ様の回復を」
「治癒功!ミラ、今行くよ!」
「うむ、すまないジュード、回復を頼む」
「なぁ、今もさっきも俺ちょっとしか掠ってな」
「危ないアルヴィンさんっ!」
「爺さん紙装甲なんだから、物理攻撃の壁になろうとすんなっ!」

 

 

十数回の戦闘の後、

 

「……ごめんなさいごめんなさいお願いします許してくださいもう二度と馬鹿なこと言いません許してくださ(エンドレス」

傷ひとつない状態のアルヴィンが、この世の終わりかと思うほど切羽詰った表情で謝り倒して、やめてくれと泣きついてきたのは言うまでもない。

 

 

「自己犠牲って、聞こえはいいけど、される側はたまったものじゃないよね」
「ごめ」
「もう謝らなくていいよ。僕だって、アルヴィンにそれを教えてもらったんだから」
「ジュードぉ……」
「はいはい、よしよし、怖かったね、よく頑張りました」

 

 

 

 

 

 

* * * *

2012/02/17 (Fri)

最終決戦前の話で、相方リクエストのジュアル……を目指した何か。
……どうよ、むっちゃ頑張ったけど、どう見ても普通に我が家のアルジュじゃね?
アルヴィンがヘタレて格好悪さ全開の時のアルジュじゃね?
…………え、ジュアル……orz
どうやってアルヴィンをジュードで攻めればいいのかなっ!?


*新月鏡*