「Missing child」
どうしていいか、わからないの。 間違ってないはずなのに、どうしてこんなに不安になるのかしら? 「マクスウェルは、こんなことをホントに望んでいるの?」 揺れる船の上で、疑惑の声が私に問いかける。 どうしてそんな言葉が出てくるのかが、わからない。 ただ、そんなくだらない戯言すら、こんなにも気に障る。 えぇ、だって当たり前のことだもの。 あの方が、望まないことのために『私』を生み出すはずないじゃない。 そう、私は私だけに課せられた崇高な使命のために生きている。 断界殻を守り、断界殻を知るすべてを闇に葬る。 そのたったひとつの使命を果たすためだけに、私はこの世に生を受けた。 だって、知られてはいけないって言ってたの。 この世界、精霊の楽園であるリーゼ・マクシアが壊されてしまうからって。 だって、大切な役目だって言ってたの。 私にとっては神にも等しいあの方が。 なのにどうして? 何も聞こえない、何も返してくれない。 たったひとつの肯定をくれるだけで、私は私の信念を保てるのに、どうしてそのたった一言をくれないのだろう。 周りをみれば、恐怖・困惑・焦燥・疑念、あらゆる感情が私を見つめていて、そのすべてが私を排除しようとしている。 どうして?これは必要なことよ。 貴方たちは知らないだけで、本当に大切なことなのよ。 ただ、貴方たちが知る必要はないわ。 邪魔をするなら、立ちふさがるなら、排除すればいいだけ。 かすかな希望にすがる人々に、私の使命を否定する者たちに、決定的な神の意思を示してやればいい。 だから、 「これを望んでおられたのですよね!」 今この場で断罪の意思を仰いだ。 強い確証が……私を支える意思がほしかった。 なのに……どうして何も答えてくれないの。 あの時も、今も、どうして? 怖いの、私が間違っているって……今までしてきたことすべてを否定されたら、私はどうなってしまうの? 私の存在理由がなくなってしまう。 どうすればこの息苦しさから解放されるの? イヤよ、イヤ……私のしてきたことがミラと同じように無駄なことだとは思いたくない。 振り切るように逃げ出して、一心に願いながら、あの方の元へと空を翔る。 行き場のない感情に翻弄されて、まともな答えが何一つ導き出せない。 懸命に冷静を取り戻そうと考えれば考えるほど、抜け出せない泥沼に嵌ってしまっているようだ。 断界殻を知る者が、こぞってあの方を探そうとしている。 それはとても危険なこと。 何故断界殻を知る人間が、あの方を求めるのかはわからない。 でも、断界殻に関わる重要なことに変わりない。 止めなければならない。 守らなければならない。 これが私の使命で、やるべきことで、それはとても大切で……それは…… ――――『本当に望んでいたの?』 やめて! 脳裏に焼きついた視線を思い出して、強く目を瞑る。 違う違う違う違う! 望んでいるのよ、望んでいなければいけないの。 この世界を守るために、絶対に必要なことなの。 ぐらつく思考を抱えたまま追われるようにたどり着いた霊山が、壁のようにそびえ立つ。 まるで拒絶されているようだと感じた。 私が帰るべき場所に一番近いはずなのに。 何より温かな場所だったはずなのに。 間違ってなんてないわ……ねぇ、そうでしょう? お願い……お願いよ、どうか答えて……応えて……。 「私がこんなに苦しんでいるのに、どうして何も応えてくれないのよ!」 たった一言すらくれないのはどうして? 私の声は届いていないの? 嗄れんばかりに叫んだ声があの方に届いていないというなら、私の声は何処へ行ったの? あぁ、前が見えない。 何度考えても、間違ってないはずなの。 だって、あの方が言ったんだもの。 でも、だったらどうして答えてくれないのかしら? そこまで考えると、今まで築いてきた自分自身が不安定に歪んで、もうマナを操る意識すらまともに機能しない。 必死に山頂に向けた足すらふらついてろくに進まず、ついには冷えた岩肌に崩れ落ちた。 進むごとに得体の知れない不安がこみ上げるの。 たったあれだけの言葉で、たったひとつの言葉をもらえないだけで、私のすべてが瓦解する。 降り注ぐ冷たい雨さえ責めるようにこの身を打って、なんて酷い有様。 「ミュゼ」 背後から重苦しい声が私を呼んだ。 マクスウェルを求めて、私をここまで追ってきた孤高の覇王。 真っ直ぐに私を見据える貴方なら、私の中でとぐろを巻く疑問に答えを出せるのかしら? 「お願い、貴方でいいの……」 もう、これ以上は耐えられない。 「私に……」 どうか、応えて。
ねぇ、私はどうすればいいの?
* * * * 2011/10/28 (Fri) 答えて→応えて。 マクスウェル爺のミュゼの扱いは酷すぎる。 せめて何かしらアクション返してやれよ、とホント思う。 次の『Decision』と対小説。 *新月鏡* |