「Shall you love me? -flirt with you-」

 

 

 

「で、なんでこんな回りくどいことしたのかな?訊かせてくれる約束だよね?」

伸したアルヴィンに腰かけながら、僕は頬杖を突いて問いかけた。
数秒前まで実はやたら甘い雰囲気だったとは、とてもじゃないが言えない現状。
ひどいあれだけいい雰囲気で何とかかんとか、と下敷きにしているアルヴィンはぐずっているが、こうなったのは全部彼のせいであって、断じて僕のせいではない。
確かに、少し前まで時間を遡ると、僕はアルヴィンの頬にキスをした。
自分でも何であんな行動取ったのかと恥ずかしくなるし、情けない彼の表情に絆された上にうっかり雰囲気に呑まれたせいだと言い訳もさせてもらうが、確かにした。
それは認めよう。
だが、問題はその後だ。
この男、調子に乗ってくちづけてきたのである。
戯れるような触れるだけの優しいキスに、まぁ、絆されていた僕はすんなり受け入れてしまったのだけれど、そんな僕につけこんでアルヴィンはさらに舌を絡めたディープキスにまで持ち込んできたのである。
さすがにこれには驚いて、まどろんでいた意識が一瞬にして覚醒した。
おそらく、あわよくばそのまま喰おうという魂胆だったに違いない。
瞬間的に身の危険を感じた僕は、すばやくのど元を手刀で突き、ひるんだ隙に掌低破を叩き込んで足払いをかけ、今の状態に持ち込んだ。
全く、油断も隙もあったものではない。
ソニア師匠、まさか仲間相手に師匠の護身術が役立つ日が来るなんて思わなかったです。

「むちゃくちゃいい雰囲気だったのに、なんでなんだよ!」
「僕はあそこまで許した覚えはないよ」
「いやいや!あの空気とあのキスは明らかにOKなサインだったじゃねーか!」
「勘違い甚だしいよアルヴィン。こんなんじゃ、先が思いやられるなぁ」
「……おたくさぁ、だんだん扱いが酷くなってない?ホントに俺のこと好きなの?」
「好きだよ。だから今ここにいるでしょう?」
「…………」

好きでもない相手にキスは許さないし、身の危険を感じた相手がいる場所に留まることもない。
そう宥めるように囁けば、ぐぐぐと小さく唸った後、ようやく観念したアルヴィンからどっと力が抜ける。
どうやらやっと諦めたらしい。
往生際が悪かったなぁなどと思いながら、僕は立ち上がってアルヴィンを起こしにかかる。

「なんだよ」
「話してくれるんでしょう?」
「……」
「違うの?」
「あー……はいはいわかったよ、全部話すって。まったく……おたくには敵わねーよ、ホント」
「ごめんね、アルヴィン」

ふてくされながら心底残念がる彼に小さく謝って、僕はそっと手を伸ばした。
座り込んでいるために僕より下にある頭を少し抱き寄せ、背中を数回優しく撫でる。
僕の唐突な行動に、腕の中のアルヴィンは一瞬固まってしまったが、しばらくするとおずおずと躊躇うように抱き返された。
いきなり手酷く線引きしてしまったために、どこまで許されるのか測りかねているのだろう。
自業自得とはいえ、可哀想なことをしてしまった。
しばらくまどろむような抱擁を交わしてアルヴィンが落ち着いてきた頃、もういいかな、と見切りをつけて僕は離れる口実を口にする。

「お茶淹れなおしてから、ゆっくり話そうか」
「あ」
「うわっ!」

飲み物を用意しようと立ち上がれば、すばやく腕を取られて凄まじい勢いで引き戻された。
雪崩れ込む僕の身体をアルヴィンに受け止められたかと思えば、すぐさま後ろから抱え込むみたいに羽交い絞めにされる。
把握の追いつかない展開に少し目を瞬いた後、ゆっくり首を反らして見上げてみると、情けなく心細そうな顔をしたアルヴィンがいた。

「一緒に淹れに行く?」
「いい」
「でも喉渇いちゃうし。せめて水が飲みたいんだけど」
「…………じゃあ行く」

……何、この人。
面倒くさいことこの上ないが、些細な行動ひとつひとつに心くすぐられて仕方ない。
アルヴィンってこんな人だったんだ、と新たに知った新鮮な一面を目の当たりにして、驚くと共に自然と笑みがこぼれた。

「……可愛いなぁ」
「ん?何?俺のこと?」
「意外に甘えたさんなんだね」
「俺からしてみれば、おたくのが可愛いんだけど」
「何処が?」
「こうやって甘やかしてくれる時の顔とか」

耳元で甘く囁かれたかと思った瞬間、ちゅ、とリップ音をたてて頬に軽くキスされた。
残念なことに羽交い絞めにされていて鉄拳は出せなかったが、これくらいは許さないとお茶も淹れさせてもらえない気がして黙認する。
今までもスキンシップ過剰な人だったのだ。
調子にさえ乗らなければ、これくらいのスキンシップは許容範囲内として許せるはずだ。
自分なりに理由をつけて納得すると、ずるずると頭ひとつ高い長身を引きずってキッチンまで足を運ぶ。
洗い置きしてあったグラスに手を伸ばして、そこへ水を注ぎ込んだ。
紅茶にしたかったが、この体勢だと準備するのにも疲れそうだったので、急遽水のみに変更した。
そして、

「いつまでやってるのさ!」
「えー、これくらいいいだろー?減るもんじゃなし」
「気が散るんだって!」

甘受してからずっと降り注ぐキスの雨に、僕の許容範囲がどんどん狭くなっていく。
何故、人が下手に出ていればこうもつけ上がるんだろうか。
本当にこの人は、調子に乗ることしか知らないのか。
甘やかす按配を早々に見極めなければ、きっと僕はアルヴィンの調子に呑まれて、そのうち後戻りできないとこまで攫われるに違いない。
小さな危機感に、いまだごろごろと抱きつくアルヴィンに向かって、ささやかな報復を試みる。

「えいや!」
「あがっ」

とん、と少しジャンプすると、ごちんと小気味いい音と共にアルヴィンの顎へ僕の頭が激突する。
うぉぉぉぉと唸りながら崩れ落ち、顎を押さえて蹲るアルヴィンを放って、僕は水の入ったグラスを片手にさっさとリビングへ戻った。


うん、これくらい許されるよね。

 

 

 

 

 

 

* * * *

2011/12/06 (Tue)

いちゃいちゃせずに、話してください。
にしても、ジュードが強すぎるw


*新月鏡*