「刹那」
貴女が崩れ落ちる そのことで全ての景色は消えうせた ただ、貴女の傍へ行かなければと思う、そのことだけが私を突き動かす まだ戦いに慣れていない貴方を護らなければと しかしそれが逆に貴女を苦しめ、悲しませる結果を与えてしまった 敵に捕らわれ、逃れる術もなく、貴女を護ることすら今の私にはできない 目の前に差し出され、触れてくる少女の手を払うことすらできない なんと無力なことだろう 私にもっと力があれば、こんな事態にはならなかっただろうか 悔しさに打ちのめされる 『家族』であるあの少年、カイといったか 彼もずっとこの感情を感じてきたのだろう 無力な我が身が呪わしい あの戦火の中で味わった感情が再び舞い戻ってくるとは・・・ あの時も、私は貴女を狂気の中から取り戻せなかった
ディーヴァは歌う かわいそうな黒のシュヴァリエ 主が記憶を失ってもなお従い続け 無力な少女に成り下がってもなお愛しみ続けるのね 貴方がこんな扱いを受けてはいけない 私が貴方を解放してあげる かわいそうな黒のシュヴァリエ さぁ、抗わず受け入れて 貴方は私のものになるのよ・・・
流れ込む歌はひどく優しい しかしそれは私を内側から喰らい尽くす 受け入れてしまえばきっと楽でいられるのだと、囁きかける 確かに楽かもしれない でも、私には考えられない 貴女のいない世界など あの孤独だった30年間 貴女がこの世に存在するとわかっていたから生きてきた ただ早く逢いたくて 傍にいたくて たとえ記憶を失っていても本質的なものは変わらない たとえ別の絆を持っていても、再び傍らに存在できる ただそれだけで私は満たされる 私の主はただひとり
ディーヴァなどに喰われるわけにはいかない 抗う意思が明らかとなったとき、酷い痛みが駆け上る その痛みに耐え切れなくて、私は自身の身体の支えを失った 「・・・だめ・・・」 声が微かに聞こえる 意識が朦朧としていて、思考がうまく定まらない 気付けば歌は止み、ディーヴァは何事かを告げる この者の言葉は人を惑わす そう伝えようとしても、貴女にこの声が届いているのかがわからない 歌が止んでも苛むこの痛みが、私をさらに無力化する そしてひとたび歌が響きだせば、その痛みは更なる激痛を与えてくる 貴女以外受け入れることはできない ただそれだけが私を支える けれど、どれだけ抗ってもソレが去ってゆく気配はない ディーヴァに呑まれてしまえば、私が貴女を傷つける存在になる 私の手で・・・ そんな未来など耐えられない 喰われた後のことは手に取るように理解されるだけに なんとしてもそれは避けたかった だから私は回避するための方法を思い出す 決して使いたくはない方法 だが、貴女を傷つけるだけの無残なマリオネットと化したくはない ただ想うことは・・・ 「だめ、ハジ!!」 貴女の声がする 視界薄らぐ中に、淡く貴女の影を追う 懸命に手を伸ばし、私の名を呼び続ける愛しい人 ――――あぁ、やはり貴女をこの手で傷つけるわけにはいかない 貴女は私にとって何よりかけがえのない存在だから どうか、無力な私を許して下さい 身勝手な私を許して下さい 私にはもうこれ以上は考えられない 貴女を傷つけるくらいなら・・・ 「・・・小夜・・・」
ただひとつ、私は想う・・・―――― 『貴女を独りにしてしまう』 ただそれだけが・・・
* * * * 2006/01/19(Thu) 「Diva」の補助小説・ハジ編。 ものすごくハジ→小夜の形式でハジの想いを書きなぐった品です。 小夜もまた、セリフや行動から多少ハジ←小夜(?)みたいな。 ひたすらハジは小夜のことばっか想うわけですが、あえて『小夜』とは出しませんでした。 「Diva」ではひたすらセリフの少ないハジさん(本編でもそうだけどね!)の微かな表情の中に、これだけ感情が溢れてるんだよ!!ってのを目指しました。 そして、もうわかってしまわれたと思うんですが、「Diva」でハジが最後に言った言葉は、もちろん愛しの君の名(笑)。 で、ディーヴァに喰われるって表現は、意識を喰らう、みたいなイメージでお願いします。 「Diva」で三人称出しすぎたんで控えたんですが、逆に今回『私・貴女』と言いすぎだと反省中。 そして、今回ちょっと重要なのが、ハジのカイについての理解。 うん、なんかありきたりかしら?でもまだ続きます。あと二つくらい。 よろしければそちらのほうもお付き合い下さいませ。 新月鏡
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