届く言葉は優しくて
私の中で霧散する
声だけが聴こえる
心地よい貴方の声だけが
私は現実に引き戻され
貴方に微笑む
「TEAR」
目覚めたあの日、私の中には虚無しかなかった。
何かが足りなくて、でもそれが何なのかわからなくて。
知らない人、知らない風景
そして
「私は・・・?」
わからない。
空っぽのこの心。何もわからず生かされ続けた。
食事を摂り、服を着て、知識を与えられ、平凡な生活を過ごす。
与えられた「家族」と呼ばれる人たちの中で、私は虚無を忘れていった。
日々の生活はとても穏やかに過ぎていく。
楽しくて、それが幸せなのだと思った。
大好きな人たち、大好きな風景。
ほかの人たちと同じように、ただ日々を過ごしていく。
虚無を忘れた私は、記憶がないということにあまり疑問を抱かなくなった。
知らなくてもいい。
必要ない。
友達と学校でたわいのない話をし、家に帰って家族と話す。
たまに不安になるけれど、私の大事な「家族」であるあの人たちが「いろんなことをゆっくり知っていけば良い」って言ってくれる。
それが今の生活を支える言葉で、私はその言葉がうれしくて。
その言葉に支えられて生きてきた。
やさしい日常。やさしい時間。
「家族ごっこに一生懸命なのはわかるけど・・・」
そんなセリフに心が痛む。
ほかの人から見ればそう見えるのだろうか。本当の「家族」でいるつもりだったのに。
当たり前だと思っていたことに疑問が生まれていく。
記憶喪失な私
「家族」のことを知らない私
身元のわからない私
・・・誰も私を知らない
悲しくて、悔しくて。何より自分がわからなくて怖い。
気付かなければよかった。
知らないフリしていればよかった。
「私はいったい何なの?!」
憤りが胸を突く。もどかしくて仕方がなかった。自分のことで精一杯。
だから私は気付かなかった。傍らに現れた存在に。
いったい何が起きたのかわからなかった。
急に奏でられた穏やかな音色が不安に揺れる私の心を静めてゆく。
『・・・私・・・知ってる、この音を・・・』
そう、知ってる。前にもこの曲を聴いている。
あの時も今のように向かい合って、貴方が奏でるその音色に引き寄せられて。
広いあの古城で、貴方を見つけて。それから・・・
「・・・お捜ししました、小夜・・・」
ふわりと切れた音色の代わりに頭の中で貴方の声がする。
低く穏やかな声で、安堵とも感じられる表情で貴方は私の前に立つ。
緩やかに差し出された手を見たとき、夢の中にいた私の足元が崩れる音を聞いた気がした。
それと同時に眠っていた冷たい現実が私の中の虚無を呼び覚ます。
忘れるな、忘れてはいけない、忘れることは赦されない。
自分が何をしたのか、私という存在の意味、
貴方の存在。
私は知ってる、この人を。
虚無がどうしてくすぶっていたのか、今ならわかる。
貴方だ。
私の傍に貴方がいない。
冷たい現実でも、血に染まるあの世界でも、懐かしい古城にいたときも、ずっと貴方は傍にいたのに。
いつの間にかたった独り、暗い墓の中で眠り続けて。
孤独に蝕まれていく
血に染まる夢を見ながら
虚無が私の心に穴を開ける
貴方が足りなくて、自分では塞ぎきれなくて。
恐怖から、孤独から、私は忘れることを無意識に願った。
抜け落ちてゆく記憶の欠片
忘れてゆく、血の世界
霞んでゆく、貴方の面影
・・・貴方の声が聴こえない
目頭が熱く、耐え切れなくて流れる涙。
おぼろげな感覚と共に込み上げるこの想いをはっきり捉えることはできなくて、わけもわからず、ただ流れるに任せて泣いていた。
この後に戦慄の幕開けがあることを密かに感じ取りながら、
それでも無意識に心が求め続けた孤独の消失に、ただ涙した。
『もう独りじゃない』
思い出される記憶の欠片
失ったはずの貴方の声
変わらない心地よい貴方の声
差し出された手と共に
私は現実に引き戻され
貴方を想って涙を流す
* * * *
2005/12/24(Fri)
ついに手を出してしまった――――!!
はい、どう考えてもハジ小夜しかない。ん?小夜ハジかなぁ?
B+でシリアスって言ったらこれしか思い浮かばないし。
ってか小説じゃないよコレ!稚拙すぎる!!
しかも小夜の独白じゃん?!
セリフ少ねぇ(泣)。まぁ、comic版B+の出会い方だし?
ハジは無口だし?ページ的には数ページだし?
・・・言い訳です。
次こそはもう少し小説っぽいもの作りたいです。
新月鏡
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