熱中症

 

 

 

じりじりと焼きつくアスファルトに、色濃く翳る人影。
青味のかかった黒髪が頬に張り付くのを手で払いのけて、射るように降ってくる日差しを睨みあげる。
恨みたくなるような暑さは、世界が自分を全力で排除しに掛かってる錯角に陥れてくるから、余計憎らしくて。

「暑、い・・・いつになったら・・・」

騒ぎ立てる蝉のアンサンブルが、思考回路をかき回す。

 

うだるような熱射に


軽く

 

眩暈

 

 

 

 

 

「・・・っかりしろ!今すぐ日陰に・・・!」

遠くで耳に心地よい声が、切羽詰ったように叫び倒す。
引きずられるような感覚を覚えたまま、ふわふわと他人行儀な意識でぐるりと視線を上げれば、心配げに寄せられた眉と情けないくらい泣きそうに潤んでる瞳が映る。

 

――――・・・可愛い・・・

 

思わずくすっと笑ってしまえば、ぴたりと動きを止めて訝しがる。

「ちょ、ホントに大丈夫か?待ってろ!今すぐ冷やすもの持ってくるから!」

そう言って、木陰に引きずってきた身体を放置すると、一目散に何処かへ駆けて行ってしまった。
そんな彼の一生懸命さがますます可愛くて。

さて、どうしてくれましょう。

 

彼が戻ってくる頃には、のぼせ上がるような暑さは少しマシになっていて、手渡された水で一気に留まる熱を追い出す。
一息つく頃、何故か缶コーヒーを額に押しやられたのには、さすがに驚いて。

「・・・何ですか?」
「熱さまし」

真剣な目つきで視線を絡めてくるから、いつまで経っても熱が引きそうにない。
ひんやりしていて、気持ち良かったのは認めますがね。

 

 

 

そんなこんなでしばらくすると、ようやく体温が正常化したようで、クリアな意識が舞い戻る。

「心配かけましたね」

そう言って切り出せば、何ともいえないような顔で、彼はふるふると首を振った。

「俺が待たせてたから、俺が悪いよ・・・骸、日本の夏は初めてだったのに」
「まぁ、何の考えもなしに出てきた僕も悪いですから」

 

夏休みもそろそろラストスパートに入りかけたこの時期。
夏休みが終わる前に、何処かへ一緒に出かけよう、という約束をしたのが、つい昨日。
午前中は彼の家庭教師が強制的に宿題をさせていたらしく、待ち合わせの時間はお昼の1時だった。
空気中の温度が最高に暑くなるこの時間帯。
僕は、嬉しさによる思考麻痺と、初めて日本の夏に遭遇していたため、何の対処もしていなかった。
そのため、彼が到着した頃にはぶっ倒れていた、という情けない姿を披露していた。

 

「君のせいじゃないですよ」

恐る恐るといった動作で見上げてくる彼に、にっこり微笑み返して、柔らかな髪を撫でる。
撫でられるままになっていた彼も、安心したように微笑んで身体を預けてくれるから、ただそれだけのことが嬉しくて仕方ない。

心配されることも

安心してくれるのも

頼ってくれるのも

彼から与えられる全てが、枯渇した心を満たしていく。

 

 

 

「さて、何処へ行きましょうか?」
「骸、平気なの?」
「えぇ、君がいるだけで、気の持ちようが違いますから」

そう言って、すっと眼を細めて見つめれば、のぼせていた僕より真っ赤な顔でうつむく彼。
僕の本心ですよ、なんて囁いてしまいのを必死に抑えながら、拾い上げるように華奢な腕を引き上げる。
言えば、気恥ずかしさのあまり、僕から逃げてしまうと知ってるから。
つられて立ち上がる彼の手に、自分の手を絡めてしまえば、驚きに満ちた愛らしい顔が僕を見上げた。

「む、むく、ろっ!な、何っ・・・!」
「デートでしょう?だったらこうしてた方が雰囲気出るじゃないですか」

楽しげに、心底嬉しそうに笑って返せば、彼はもう抵抗することはなく、ただ顔を赤らめるばかりだ。
まぁ、最初から、手を離す気など彼にもないのだから、気を引くための愛らしい抵抗にしか見えない。
この暑さで身体が弱っていなければ、このままここで押し倒すところだ。

「にしても暑いですね、何か冷たいものでも食べましょう」
「さ、さっき、お店でアイス売ってたよ!」

ぱっと顔色を変えて、振った話題に食いついてくる。
どうやら食べたいアイスでもあったようだ。
キラキラ期待に満ちた瞳が眼に眩しい。

「では、決まりですね」

行きましょうか、と促して、涼しい木陰から熱世界へと踏み込む。
日差しや騒がしさはさっきと変わらないはずなのに。
ほら、君の存在を感じるだけで、こんなにも違う。


――――・・・あぁ、どうしようもないくらい君が好き・・・


汗ばんだ手が離れないように、しっかり絡め合わせて、寄り添うように歩いていく。

 

 

『太陽さえも、僕らに中てられてしまいますね』

なんて、今なら言えてしまいそうですよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

2007/08/26 (Sun)

ささやかながら、残暑お礼の品をひっそり潜ませてみました。
本来絵でお返しするのが良いはずなんですが、どうにも時間が掛かりまして・・・;;
失礼ながら、小説という形を取らせていただきました。
えと、祐野さんから戴いた残暑見舞いの絵を見て、ピン!と来た話なんです。
なので、祐野さんに少しでも気に入っていただければ幸いですVv

爽やかだけど暑い残暑。
骸さんは海外出身者さんなので、日本の蒸し暑さと灼熱の日差しにノックアウトしそうだなぁ〜とか、思ってました。
まさか、日傘は差さないですよね(笑)
あと、スイ●バーは美味いですね、好きですVv
何はともあれ、素敵な残暑見舞いをありがとうございました!!!
よろしければ、この下にしょうもないおまけもありますので、気が向いたら見てやってください。
本当にありがとうございました!!


新月鏡

 

 

 

 

 

 

* * * *

アイス談議

 

「な、何ですかそれは・・・まるでスイカのような」
「味もスイカ味なんだよ、知らない?ほら、一口!」

「ん・・・水っぽいというか、甘ったるいというか」
「アイスだからね〜」

「この緑の部分は皮の味なんですか?不味そうです」
「ここ?ここはね、メロン味」

「っ!!邪道です!スイカと断りつつもメロンを使用するなんて・・・潔く全てスイカで構成するべきです!」
「何言ってんだよ、皮味のアイスなんて誰も食べないよ!」

「だったら、ウリ科バーとでも名付けて統合しておけば良いでしょう」
「ネーミングセンス全くねぇ!」

 

 

 

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お粗末さまでした!!