七色の帯

 

 

 

 夏

 

暑い日ざしが身体を焼き尽くすかのように降ってくる
遠く聴こえる蝉の声とか、おぼろげに立ち上る陽炎だとか
そんな夏らしい景色
夕暮れになれば、多少は涼しげになるものの
沈む夕日が目に眩しい

「でね、山本がいきなり水かけてきてさ〜、獄寺君怒り出すんだもん、心臓に悪いったらないよ!」
「狭量な男なんでしょうね、あの男は」
「でもね、水被ってるとすっごく気持ちよかったし、楽しかったなぁ」
「それはそれは、よかったですね」

 

いつもの下校時間
待っててくれる(待ち構えてる)骸と肩を並べて帰る道
他愛のない会話
それでも、たくさん聴いてほしくて、もっとずっと一緒にいたくて
まくし立てるように一方的に話す俺に、骸はただ穏やかに相槌をくれる

「あとね、ホースの先に虹が見えたんだ!小さかったけど綺麗でさぁ・・・骸と一緒に見たかったなぁ・・・」
「虹・・・ですか?」

きゃらきゃらと笑って話す俺に、骸は小さく首を傾げて少し考え込んだ風だった
そのシルエットが、夕日に映えて、俺は思わず楽しかったことなど忘れて見惚れてしまって

「・・・綱吉君?」
「ほぁ?」
「その分じゃ、聴いてなかったようですね・・・僕を前にして上の空とは許せません!」

むぎゅぅっと頬を引っ張られて、ぱちんと夢から醒めてしまう
目の前にあるのは、今まで目を奪われてた美貌
ずいっと寄せられれば、反射的にどくりと一つ胸が高鳴る

「む、むく、ろ・・・?」
「おやおや、顔が赤いですよ?」

可愛らしい、なんて言って軽くキスを落としてくるから、俺は慌てて距離を取って辺りを見回した
ところ構わずな骸は、そんな俺の行動がお気に召さなかったらしく、さっきより密着する形で俺を抱き寄せる


――――あぁ、もう・・・誰かに見られたらどうするんだよ!


そわそわしながらも、腕の中でおとなしくしてたら、骸は満足したのかふぅっと小さく息を吐いた
吐息が耳元をくすぐれば、ぞくりと身体が震える
近すぎる距離が、俺をこんなにドキドキさせる
まだ暑い空気の中で、より感じる相手の体温が、さらに俺の熱を上げて
真っ赤に顔を染めた俺に対して、にっこり微笑む骸は涼しげだから、少し憎らしく思えてしまう

 

「先程の虹のことですが・・・綱吉君、ちょっと空を見上げてくれませんか?」
「え?」
「よく見てくださいね」

そう囁かれながら、骸の肩越しに見上げた目線の先
広がるのは夕日の沈みかかった、日常的な空の色
電線やら、屋根やらに遮られながら、広々と腕を伸ばすグラデーション

 

 

 

「さぁ、君に魔法をかけてあげましょう」

 

そっと耳元で囁く甘い声
空に魅入られながら、この声に絡め取られる

 

 

――――あ・・・

 

紫鈍

藍色

水色

若緑

クリーム色

蜜柑色


そして、目を焼くような・・・朱色

 

 

 

「ね、もうずっと一緒に見てるんですよ?」

どうやら骸の言う魔法とやらに、俺は簡単にかかってしまったようだ

 

 

それまでただの夕焼けだった

それまでただの日暮れだった

それが、骸のたった一言で別物にすり替わってしまった

 

昼間見た虹とは違って、色が逆転してるけど

もっと曖昧で、もっと柔らかい色彩だけど

 

 

 

「ほ、んと・・・だ!すごい、綺麗・・・」

声を上げて、思わず骸を振り仰げば、蕩けるくらいの微笑を浮かべた骸が映る
嬉しさが込み上げてきて、俺は暑いのも、人目を気にするのも忘れて抱きついた
骸のくれた小さな幸せを、どう表現して良いかわからなくて、でも、気持ちだけでも伝わればいいと思った

「骸、ありがと!」
「クフフ・・・喜んでいただけて光栄ですよ」

 

 

 

 

 

――――『この空は、何色ですか?』

 

表すとしたら、確かにそれは虹色だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

2007/08/06 (Mon)  from diary

帰りの際に、空を見上げる癖があります。
朝なら雲の流れを、夕方ならその色合いを、夜なら月を目で追いかけたりします。
で、今日は夕焼け見まして、空のグラデーション具合が、虹色をひっくり返してパステルカラーにしたような空だと思ったんです。
見てみると、色々変化があって面白いものですよ!


新月鏡