体温

 

 

 

傍にいるのに
手を伸ばせば届く場所にいるのに
どれだけ歩み寄ったとしても
どれだけ触れたとしても
決してそれ以上近寄れはしない


なんて、憎らしい距離

 

 

 

心がここにないのだろう
きっとこの身体には『想う』なんて『ココロ』がないに違いない
だから、君がどれだけその想いを僕に注いでくれたとしても、決して僕とは交じり合うことはないんだろう

『溶けてしまえばいいのに』

皮膚と皮膚が触れ合う
それ以上に
触れるその先から、君も僕に溶けてしまえばいい

そうすれば

そうすれば

『この肌寒さも消えるのに』

 

 

 

腕の中、幸せそうに眠る君

その表情に

その体温に

僕は胸が温かくなる
けれどそれは、こうして君に触れている間だけ
君が去った後の僕の身体は、感じた熱さえ留めて置けない


なんてガラクタ


冷たく凍るだけなら、そこらへんの物さえできる
僕はどうすればいいですか

『望むものはその温かさだけなのに』

手に入れたと思っても消え失せてしまう
思わせぶりな現実が憎い

 

『俺はここにいるのに?』
『足りないんですよ』


足りない

足りない

足りるはずがない

 

僕は君が思う程、温かな人間ではない
だからこそ、誰より熱を放つ君を求めるんだ
この冷たさをかき消すため

邪魔なものなど全てなくなればいい
空気も距離も時間さえも
全てが無に還ればいい

 

『ダメだよ、骸』

そっと伸ばされた小さな手
あまりの細さに触れることを躊躇ってしまうくらい

『俺と離れてると寒い?』
『はい』
『俺に触ってると温かい?』
『はい』

『だったら、その寒さは必要でしょ?』

寒いと感じられるから、その分ずっと温かく感じるんだよ

 

頬に触れる指先から、じんわりと伝わる欲した熱
じっと見上げてくるのは、驚くほど意思の込められた瞳
時折君が見せる、誇り高い眼差し

『馬鹿だね、骸』
『・・・そうですね、おかしいんですよ』

常識なんて必要ないと思うくらい
君の温かさに焦がれてるんですから

馬鹿でいい

愚かでいい

『それでも僕は、この距離が憎くてたまらない』


――――君と僕を隔てる絶対的なこの距離が


『うん、そうだね・・・だから、こうしてると嬉しいんだ』
『・・・』
『温かくて、嬉しくて・・・』


これが幸せって言うんだよ

 

 

 

抱きつかれて、隙間すらないほど密着すれば、望んだ温かさが触れた場所から広がっていく


――――あぁ、これをそう呼ぶのか・・・


殺伐とした日々を過ごしてきた僕だから
君は『当たり前なこと』を教えてくれる

それはとても些細なことで

とても嬉しいことで

幸せなことなのだと

 

 

『幸せ・・・ですか』
『そう、幸せ』

擦り寄るように顔を埋めるから、自然と腕が華奢な身体を抱きしめる
触れたところから、より一層温かさが広がって


――――なんて心地の良い感覚


そんな感覚をくれる君がそういうのなら

 

『悪くないですね』

 

 

 

触れる以上に近寄れないとしても

離れてしまえば去ってゆく熱だとわかっていても

こうして全てが満たされる

 

 

 

『・・・なんて幸せ』
『ね、いいでしょ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

2007/02/23 (Fri)  from diary

人の体温は一番安心する温度らしい。
些細な幸せを知らない骸さんに、ツナがいろいろ教えてやればいい。
可愛いなぁ・・・骸さんVv


新月鏡