夏の終わりのももいろほっぺ

 

 

 

ぱちん!
大きな音がリビングに響いた。
目の前の大好きな人の大きな瞳がさらに大きく見開かれ、しなやかな細い指の手でその頬に触れる。

「のわ・・・き・・・・」

一瞬にしてそのきれいな濃い琥珀色の目に、涙が浮かんだ。

 


 

 

 

 

ことの起こりは少し前。

久しぶりの“一緒にいられる”休日に俺はとても浮かれていた。
昨夜は連続勤務明けのテンションと、俺の中にたまりすぎていた大好きがバクハツしてしまって、
あの人にすこーし無理をさせてしまった反省から、
今朝は出かけるのが遅くなってもいいと思い、彼を好きなだけ休ませてあげたくて起こさずにいた。
その間、俺は洗濯と掃除と、ブランチの用意を済ませた。

 

「もうすぐ秋だなぁ」

洗濯物を干すと額に汗がにじむけど、それでも陽の光に季節の移り変わりを感じることができる。
背後に人の気配を感じて振り向くと、不機嫌オーラ全開の大好きな人が立っていた。

「あ、ヒロさん、おはようございます!」
「・・・・・・あつい」

いつもの俺なら、この時点で彼の機嫌が最低レベルであることを察知していたと思う。
おはようの挨拶を彼はしなかった。
それなのに、そのときの俺は、昨夜の可愛いヒロさんの潤んだ瞳と、
全ての家事をやり終えた達成感で、・・・かなり浮かれていたのだと思う。

無言で窓を閉めたあの人が、エアコンのスイッチを入れた。

設定温度は22℃。

何も考えないで言葉を発してしまった後、俺はいつも後悔することになるのだが。

 

 

「あ、ヒロさん!エアコンの風は良くないです!もう真夏ではないし、窓を開ければ涼しいですよ?」
「・・・・・・・・・あぁ?」

凄い目で睨まれた。
気だるそうにソファにそのきれいなからだを沈め、俺を睨み上げてくるその顔も凄く可愛いです!
じゃなくて、何故彼が不機嫌なのか、その理由が知りたい。

「俺は暑いんだよっ!水もってこい、水!!」
「はい!」

俺はキッチンへ行って、彼のために俺の愛情入りのミネラルウォーターを用意した。

「・・・もう11時じゃねーか」
「掃除まで終わってんのかよ・・・」
「俺だって手伝いてーのに・・・」

彼がなにかつぶやいているけれど、そのときの俺は気にとめることもなかった。
くしゅん、と、可愛いくしゃみをした、俺の大好きな人。
俺の愛は過保護なまでに、彼を愛しいと思う。だからこそ、言葉に気をつける必要があったのに。

 

「ヒロさん、風邪引いちゃいますから」

俺はローテーブルの上にあったリモコンのスイッチをオフにした。

「・・・風邪なんかひかねーんだ、俺は!」

俺の手から奪い取ったリモコンのスイッチをオンにする彼。

「ヒロさん、6月にも風邪引いたじゃないですか。ダメです」

彼のためを思っていったことだったけど、それが引き金だったのだと思う。

「てめーは俺のなんだ、母親か!?ガキ扱いしやがて!!俺は風邪もひかねーし、大体お前、起きてたんなら俺も起こせ!」

俺も言葉が足りない。けど、彼の言うことは時々わからない。
何故怒られているのか良くわからないけど、せっかく一緒に過ごす休日だから、本当はもっとイチャイチャ、とまではいかなくても・・・

 

なんてことを考えていたら、俺の視線は小さな小さな闖入者に釘付けになった。

ぷ〜〜〜〜ん

蚊だ!

しかも、こともあろうに俺のヒロさんの可愛いほっぺに止まった!

怒っていて、ちょっと桃色に染まった、可愛いほっぺに!!

このままではヒロさんのほっぺにキスされてしまう!そんなことは許せない!

ヒロさんにキスしたり吸ったりしていいのは俺だけだ!!

 

・・・ここまで考えるのに一秒もかからなかった俺は、ついつい行動を起こしてしまった。

 

 

 


 

 

ぱちん!

大きな音がリビングに響いた。
目の前の大好きな人の大きな瞳がさらに大きく見開かれ、しなやかな細い指の手でその頬に触れる。

「のわ・・・き・・・・」

一瞬にしてそのきれいな濃い琥珀色の目に、涙が浮かんだ。
ヒロさんからしてみれば、俺が突然平手打ちをしたようにしか受け取れなかっただろう。
生憎、俺の表情は、俺のヒロさんに手を出す憎き吸血鬼に対する怒りでゆがんでいたはずだ。

「ヒロさん!!!ち、違うんですっ!!蚊が、蚊がいてっ!!」

あわてて弁解して、俺は自分の掌を彼のほうへ向けた。
といっても、俺の掌の中には証拠はなく、
俺の大好きなこの人にキスした!?憎たらしい犯人は既に逃げてしまった。

 

 

 

「ヒロさーん、出て来て下さい!!俺が悪かったですから!もう小言も言わないようにします!俺、ヒロさんが不足するとマジで死んでしまいます・・・」

あの直後、自室に閉じこもってしまった彼を追いかけ、その扉の前で俺は泣きそうになりながら必死にヒロさんをなだめた。
二時間後、俺の愛の言葉に耐え切れなくなって、「てめー恥ずかしいんだよ!ボケカス!」と罵倒しながら、ヒロさんがやっと部屋から出てきてくれた。
怒りと羞恥で頬を真っ赤に染めた彼が可愛くて、ついつい俺の腕の中に収めてしまったので、夏の終わりの一緒に過ごす休日はおうちデートで終わった。
俺としては、彼と一緒にいられればどこにいてもいいので、とても満足な一日だったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

* * * *

2008/09/01 (Mon)

せーの、『蚊、グッジョブ☆』!!!!
というわけで、チャットから発展、初めてコラボさせていただきました!
発案者は、『Euphoria』の常盤様!
文章担当は、『純情ペシミスト』の泥河うな様!
という素敵な方々ですVvv

そして、恐れ多くもこの素敵文に絵を描きました管理人orz
全力尽したのですが、個人的に衝動描きしたのは2枚目の方です。
すみません、白状します、平手打ちに予想外の衝動起こすほど萌えました。


にしても、蚊ごときに嫉妬に狂う心狭い野分wwwww
うな様の書かれる野分は、いつもヒロさん命のストレート表現なので、読んでいてにやにやと羞恥プレイを味わっています(笑)
どんなヒロさんも、野分のフィルターが掛かれば可愛くて仕方ないように映るのでしょうVvv
恐るべし野分フィルターwwwww

さて、それはともかく、こんな素敵な企画を持ち出してくださった御二方。
本当にありがとうございますVvv
私って、ホント幸せモノですねVvv


新月鏡