◆アマオト

 

 

『雨はじめじめしてるから嫌い』なんてことをよく耳にする。
雨の日は、洗濯物は乾かないし、外に出るとき傘はいるし、濡れたら濡れたで気持ち悪い感触がまとわりつく。
確かに、そうして列挙していけば、なんてうっとおしい、と思わなくもない。
プリントとか本とか、身体を犠牲にしても守らなきゃならないものが、俺には多いことだし。

でも、何となく嫌いになれない。

叩くように激しく降る雨音は、心細さを呼び起こすのに。
幾重にも重なる雨雲が、部屋をより一層暗く染めるのに。

 

「明かりもつけないで、どうしたんですか?」

不意に、背後のドアが開く音と、雨音に溶け込む声が耳に届く。
何も答えず、振り返らず、ただぼんやりとしていれば、今度はそっと抱き込まれた。
こいつの抱きつき癖はどうにかならないものだろうか。
俺の背中にずっしりとのしかかる重み。
全部預けるみたいに、ぴったりと隙間がないほど抱きしめて。
まるで大きな子供だな、なんて抱きしめられているのに、そう思えてしまうことが少しおかしくて。

「外、見てたんですか?」

ぽつり、野分の声だけが外の音と交じり合って波紋を描く。
何でこのとき、自分が声を発しなかったのか、頷くことすらしなかったのか、よくわからなかったけど、今思えば、アイツの音に聞き入ってたのかもしれない。
雨と、声と、抱きしめられた先から感じる鼓動。
夜のまどろみにも似たほの暗い世界で、ただそれだけを感じて。


「雨、綺麗ですね」


あぁ、やっぱり好きになればこそ、嫌いになんてなれるか。
お前が、こんな都会に降る雨を綺麗だと言うから、うっとおしいだけだ、なんて憎まれ口を叩く気にもなれない。
ただ、今しばらくこの時間が続けばいい、と願うばかりで。

 

もう俺の耳には、溶けるような甘音しか聞こえない。

 

 

 

* * * *

2008/10/05 (Sun)

雨を嫌いだと言う人が多いので。
私は好きだ、と言っておこう(笑)


新月鏡