「8・独りぼっちと独りぼっち」

 

 

 

何処かで聴いた話
あまりにも思想的で、呆れたけれど
尾を引くように、酷く焦がれる音が胸いっぱいに響き渡って

忘れられない、些細な話

 

 

 

 

 

しきりにメールを気にして、まだかまだかと待つ彼を、僕はいつものように腕を組んで見やってた。
無駄だって言ってるのに、ちっとも聴いてくれやしない。
しかも、UGでは僕と彼しか近くに話せる人なんていないのに、彼はミッションばかり気にしてる。
久しく感じる苛立ちに、思わずその手からケータイをむしりとった。

「な、何するんだよ!」

びっくりしたように慌てて取り返そうとする彼を、軽くかわして手のひらで彼のケータイを弄ぶ。
機能が充実してないらしくて、まったく面白みもない機械だったけど、『返せ!』と叫ぶ彼の反応を見てればそれだけで十分だった。
でも僕は何も返してやらない。
このケータイも、反応も、声も、何もかも。


――――…僕を放っておいた君が悪い

 

 

 

「ヨシュア!」
「!」

一際鋭く耳を突く声。

 

まるで言霊


まるで呪い

 

たった一言、名を呼ぶだけで、全身支配されてしまったよう。
おとなしくなった僕へ近づいてくる彼の足音だけが、時間を刻んで。
主導権を奪われたように凍りついた僕の手から、ケータイの重みが消え去った瞬間、呪縛は消えた。

「…ネク君なのかなぁ?」
「はぁ?何言ってんだよ?」

意味がわからず、と言った顔で軽く見上げてくる視線をかわして、迷わずこの腕に彼を捕らえる。
背後から抱きしめる形で囚われた彼は、状況把握に追いつかないらしい。
目を白黒させて暫し放心状態。

 

「人はね、元は2人でひとつだったんだって」

動けずにいる彼の耳元に囁きかける。
普段と違った声色に、彼がぴくりと反応するのが可愛らしい。

「他人を求めるのは、自分の半身を探してるから」
「離し…」
「交わるのは、一つに戻りたいから」
「…な、に?」
「独りぼっちが嫌で、必死に失った片割れを探すのさ」

 

 

『ネク君は、僕の半身かもね』

 

白い首筋を唇で緩やかになぞって、できるだけ甘い声で彼の思考を奪っていく。
まだ何の経験のないであろう彼を堕とすのは容易い。
それこそ、ここに繋ぎとめる術にさえなる。
7日間という束の間の縁に、僕は密かな焦燥感を覚えていたらしい。
いずれ決別の日が来ること、それが何より嫌だった。

 

「好きだよ、君が誰より好き…」

 

 

 

UGで独りぼっちだった僕

RGで独りぼっちだった君

出会うはずのない僕らが出会えた、このシナリオという名の奇跡に感謝しよう

 

僕を刻み込めるなら

心を繋ぎとめられるなら

どんなに君を傷つけても手にしたい

 

 

「堕ちておいで…ネク君」
「っやめ、…!」

 

 

 

人ごみの中、嫌がる彼を組み敷いて

ただ求めて

ただ満たされたくて

止めようのない欲を彼に注ぎ込む

 

――――『…ヨシュ、ア…』


彼のか細い呼び声が、いつまでも耳に残ってた。

 

 

 

 

 

静寂の中

隣で眠る彼の髪を撫でて、小さく息を吐く

喰い散らかした後の空気が、酷く苦いものに思えて

渇ききった自嘲だけが、風に消えた

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

2007/09/20(Thu)  from memo

ヨシュアが途中で暴走しました。
『本来、人は2人でひとつ』というのは、どっかの哲学者が掲げてた思想というか理論。


*新月鏡*