「4・勝手に決めるな!」

 

 

 

とある店の中。
キラキラと誇らしげに並ぶ衣服は、色とりどりの花をかき集めたように華やかに列を成す。
ところかしこでは、きゃらきゃらと可愛らしい賑やかな声すら飛び交っている。
その広い店内の中で、俺は放心状態で立っていた。


――――ば、場違いすぎる…


女性向けの煌びやかな服が並ぶこの店で、男子一人ならまだ『彼女に付き合わされて待ちぼうけてる』で済んだだろう。
だが、だが・・・

「ねぇネク君、どれが良いと思う?」

タイミングよくかけられた声にがっくりと肩を落とす。
今の状況では、誰がどう見ても全くの異質でしかない。
真剣に、しかも至極楽しそうに服選びに専念している自分のパートナーを見て、ぐらぐらと絶望感に似た頭痛がしてきた。


――――…帰りたい…

 

 

 

 

 

こんなことになったのは、対先ほどのことが原因だった。
ノイズとの戦いに没頭するあまり、自分を顧みてなかったネクの服装を見て、『いい加減着替えない?』と言ってきたのがことの始まり。
どうやら傷を負ったりいろいろしている間に、2人ともズタボロになってたらしい。
言われて見れば、確かに酷い有様で、他の人には見えないといってもみすぼらしいものだった。

「僕のパートナーには、それなりに相応しい格好してほしいからね」

そう言って、なにやら張り切ったように手を取って店内へ引き込まれたのが、ほんの数分前。
そして今は、吟味してるアイツを他所に、ものすごく居心地悪い空気に苛まれていたのである。

「お、おい!別にこの店じゃなくてもいいだろ?」
「何言ってるのさ!色々見てみないと…できるだけ楽に戦いたいでしょ?」
「いや…それは、そうだけど」

うぅっと俺が口ごもるのを、異議なし、ととったコイツは、これまでにないほどの輝かしい微笑を浮かべた。
そのとき俺は何が何でも、そう、たとえコイツをたこ殴りにしてでもその店から出なければならなかったのだが、気付いたときにはもう遅い。
あの微笑が、確信めいた最悪な印象を与えていたというのに。

 

 

 

「い、いやだぁぁぁぁ!」
「フフフ…観念しなよ、ネク君」
「このっ、変態!」
「酷い言われようだね〜、でももうあとには引けないんじゃない?」

アイツの手の中、ひらひらとはためかせるのは俺の着ていたはずの上着。
試着室の中、表に出ることのできない俺の眼の前で、アイツは楽しそうにその服を切り刻んでいく。

「うわぁぁぁ俺の一張羅がぁぁぁ!」
「また今度オーダーメイドで作ってあげるって言ってるじゃない」

ふん、っと機嫌を損ねたように口を尖らせて、切り刻んだばかりの俺の服をゴミ箱へ放り投げる。
とんでもないことをする奴だ。
人の都合なんてお構いなしか。

「さぁネク君、僕からのプレゼントにその身を包んでみせてよ!」
「お前が着るためにここに来たんじゃないのかよ?!」
「僕は一言もそんなこと言ってないからね〜♪」

くるくると踊るようにステップを踏んでアイツが持ってきた可愛らしいワンピースを見て、俺は絶叫した。
確かに質が良く、その点では申し分なかったのだが、一時の着替えに、材料が必要な商品を、何故あえてチョイスするのかさっぱりだ。

「お、俺に、そんな勇気は、な」
「ダメダメ、僕の眼は誤魔化せないよ…ネク君こんな服軽く着れるでしょ?」
「な、なんでそんなこと」
「ずっと見ていたからね」

フフフ、と笑うアイツがいつも以上に気味悪い。
確かに勇気はあるが、当然、理性がそれを拒絶するのだから仕方ない。
試着室の中で一人、外から感じる視線に耐えつつ、手にした可愛らしいリボンのワンピースとにらみ合う。


そうしていること数分。


さすがに痺れを切らしたのだろう、アイツはさらに俺を追い込むように、何より絶大な効果をもたらす一言追加した。

「はぁ…ネク君、そんなに言葉攻めをご希望なのかな?」
「へぁ?」

 

 

 

『さっさと着替えなよ…この場で犯すよ?』

 

 

 

瞬間、空気が凍りついた。

 

きっとコイツに逢って、コイツに勝手に契約された時点で俺の人生は終わってたんだ。
そう、変態で理不尽で自分勝手なコイツに見初められたことが、運の尽きだ。
もし、シキの命が関わってなかったら、コイツとは速攻縁切りしてやるのに。
そんな絶望感を背負ったまま、俺は廃人のようにのろのろとワンピースに袖を通し始める。
女物の服を着ることになるなんて、誰が想像しただろう。

 

しかし、それ以上に想像外の出来事が起きた。
まだ袖しか通してないときに、突然、シャっと音がして遮られてた光が一気に差し込む。

「さぁて、お披露目ターイム☆」
「あっ!」

 

半端に着替えてる俺

眼の前にはアイツ

その後ろには驚いている店員さん他

 

瞬間、にこやかにカーテンを引き開けるアイツに、これ以上にないほどの殺意を覚えた。

「おやおや、生着替え御開帳☆サービス満点だね!」
「かっ…勝手に決めるなぁぁぁぁ――――っ!!!!」

 

 

 

その日、華やかな店内が、紅く染まったとかそうでないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

2007/09/21(Fri)  from memo

桜庭と桐生で十五題より
ヨシュアが変態ですスミマセン、楽しかったですっ!!!
お店はナチュラル・パピー
ヨシュアからのプレゼントは『愛されワンピ』(笑)


*新月鏡*