「2・ずっと見ていたからね」

 

 

 

そういった時、意味がわからない、といった目で彼は僕を見てた。
そうだね、わかるはずもない。
わからないほうがいい。


彼にとっても

僕にとっても


でも、とっさにその言葉がついて出て、少し後悔したのは事実。
訝しむ彼の表情が、離れたままの心がその証拠。
できれば君とは、スムーズな流れでパートナーになりたかったけどね。


どうしてあの時言ってしまったのだろう。
たぶん答えは簡単。
僕が認めれば、すぐにでも形になる。

 

 

 

 

 

「気付いて、ほしかったんだよ」
「ん?何が?」

飲食店の中、もぐもぐと口を動かしてクレープを平らげていく。
それほど好きではないらしいのだが、それでもコレだけ美味しそうに食べてもらえれば、クレープとて本望だろう。
僕はというと、生ぬるくなった珈琲を持て余している感じ。
これは珈琲に恨み言を言われても仕方ないね。

「いや、本当に美味しそうに食べるなぁ、と」
「…悪いかよ」
「とんでもない」

くすっと笑って彼の口元に指先を送り出す。
ぎくりと固まった唇にそっと触れて、名残惜しげに手元へ戻す。
ついでにくっついてきた生クリームを、これ見よがしに舐め取っておけば、予想通り顔を真っ赤にして硬直してしまう彼の姿。

「甘いね」
「〜〜〜…お前なぁ」

がっくりと肩を落として、テーブルに倒れこむ。
ホントに一々可愛い反応をしてくれるから、やめられそうにない。

「ったく、言ってくれれば自分で取るのに」
「いいじゃない、減るもんじゃなし」
「恥ずかしくないのかよ!」
「別に?」

『僕とネク君の仲じゃない』と、にっこり笑って見せれば、さすがに諦めたのかな。
そっぽ向いて、隣に並んでるコーラをちびちび飲んでいく。
どうせあと10秒ほどで、全て水に流して、またこれからどうするか、とか話してくれるんだろうけど。


その前に、僕は冷めてしまった珈琲に口をつけて飲み干した。

 

 

 

 

 

恋にも似た焦燥感が、僕を急いて仕方ない


――――気付いてほしかったのさ

 

 

 

 

ずっと、僕が君を見てたってことに

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

2007/08/30(Thu)  from memo

桜庭と桐生で十五題より


*新月鏡*