「1・ケータイとヘッドフォン ―Neku side―」

 

 

 

俺はときどき
『俺を見ろよ!』と叫びたくなる。

 

 

 

目が覚めると、いつもあいつはケータイで電話してる。
相手はいつも羽狛さん。
まったく、何の話をしてるのかさっぱりわからないけど、とにかくアイツが電話してないときを見たことがない。
ミッションは何故か来ないし、話し相手もいない俺は時間を持て余して、ただ待ってるだけだった。
いつも、いつも、話がひと段落するのを、ただ待ってた。

 

それが、少し、嫌だと思った。

 

 

 

「お前って、いっつもケータイで電話してるよな」
「ん?あぁ、色々積もる話があるんだよ、僕はね」

手のひらでオレンジ色のケータイを操って、画面を閉じる。
そのとき初めて、あいつは俺を見る。
『やっと』、と言った表現が適するぐらい、ケータイ弄ってる時のあいつと、隔たりを感じてる。


――――…パートナーなのに


「おはよう、ネク君」

改めまして、の朝の挨拶。
それすら俺には無意味に思える。
もっと前に起きていたのに、あいつはそっぽ向いて羽狛さんと話してたんだと思うと、やるせない。

 

「ネク君?」
「…」
「…もしかして、拗ねてるのかい?」
「なっ、何でそうなる?!」

過剰反応してしまった俺を見て、フフフと笑うあいつは、ものすごく嫌味な顔をしてて。


――――見抜かれてる


言われてしっくり落ち着く感情、そう、『拗ねてた』んだろう。
気付けば気付くほど、みるみる頬が熱くなる。
何より屈辱的なのは、『こいつにほったらかしにされて拗ねてる』という事実を、よりによって本人に見抜かれてる、ってことで。

「じゃ、明日からは、ネク君が起きる前に済ませておくよ」
「うっ…」
「大事なパートナーに、寂しい想いはさせられないからね」

あぁ、もう、どうしてこいつは、顔から火が出そうなくらい気恥ずかしい言葉を並べてくれるんだろう。
でも、今の俺にはそれを跳ね除けるだけの、勢いがなかった。

 

 

分かり合えたパートナーを、シキを奪われた

2人分の命を掛けた再参加

一人じゃ勝てないこの状況で

取り残される感覚は、やっぱり寂しくて

 

 

 

「だったら、俺をしっかり見てろよ」

目を離すなよ

「フフフ、はいはい」

いつだって、俺は不安で仕方ないんだから…

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

2007/08/30(Thu)  from memo

桜庭と桐生で十五題より


*新月鏡*