「1・ケータイとヘッドフォン ―Joshua side―」

 

 

 

僕はときどき
『僕の声を聴いて』、と叫びたくなる

 

 

 

「ねぇ、それ止めない?」
「それ?」
「ヘッドフォン」

指ですいっと指し示せば、あぁ、と気のない声が返ってくる。
しかも外す様子もない。

「ネク君、そんなに干渉を受けるのが嫌なの?」
「…別にいいだろ、聞こえてるし」

全く、そういう問題じゃないんだけどね。
彼はさっぱりわかっていないようで、少々苛立ちが立ち込める。
問題なければ、『外せ』なんて言いはしないって、どうしてわからないかな。

「それね、ホントに聴いてもらえてるか不安にさせるんだよ」

小さな棘を含ませて、僕は息を吐くようにひっそりと零す。
すると、微かにたじろぐ気配が漂ってきて、少し考えてるみたいだ。
誰かを思い出してるように視線が空を彷徨って。
今度はぴたりと僕にピントを合わせる。

 

「…シキにも、そう…言われた」
「あぁ、前のパートナー?」
「『ちゃんと聴いてる?』って怒鳴られた」

溜まらず小さく笑い出す彼。
遠く、大切な彼女を思って零す微笑みは、稀に見る優しげなもので。
それすら僕は、少し寂しく感じる。

「じゃぁ、僕も怒ればいいのかな?」
「お前、そんなキャラじゃないだろう?それに、怒らなくてもちゃんと聴いてる」
「確証もないんじゃ、信用できないよ」
「……(こいつ、ムカツク)」

はぁっとわざとらしくため息をついて、おどけるように肩をすくめてみせれば、明らか不機嫌顔が現れる。
そうそう、『元・パートナー』じゃなくて、僕を見てくれないとね。
だって、今は僕がパートナーでしょ?


――――しっかり聴いてよ、ネク君…じゃないと寂しいでしょう?


「ん?何か言ったか?」
「信じてるよ、って言ったのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

2007/08/30(Thu)  from memo

桜庭と桐生で十五題より


*新月鏡*