「セ ツ ナ -Joshua side-」

 

 

 

ざわめく無機質な足音が行き交う中、一人嘆く彼がいる。
悲痛なまでに心に響く声。
そんな想いをさせるために、僕はこの世界を残したわけじゃない。

「騙された、君はそう思うかもしれないね」

それが少し、寂しくて悲しかった。

 

 

 

 

 

「ゲームをしよう」

そう切り出したとき、彼は信じたくないという面持ちで僕を見てた。
一方的で、無理難題を突きつけて、挙句黒幕は僕でした、なんて酷な話だったね。
でも、これは必要なゲーム。
彼を送り返す上で、もっとも重要であり、僕にとっては大きな代償。

「エントリー料は貰っておいたよ、さぁ始めようか?」
「…っ!」

悲痛な色、零れんばかりの涙を溜めて耐える彼、今でも思い起こせば鮮明に思い出せる。
どれだけ促しても、彼はなかなか構えてくれなくて、僕は少し困ってしまって。
意を決して向けたとしても、やっぱり優しすぎて。

 

 

 

どれだけ疑っても、どこかで信じてしまう君
いや、信じたいのに、信じることを恐れてしまうんだね
君の隣にいて感じる躊躇いの気配
孤独に囲まれて、過去の悲しみに囚われた君を、救い出したくて


――――君を護りたいと想ったんだ


脆く優しい君だから

 

 

 

7日間で変わる否定しようのない想いから、世界へ彼を帰そうと決心したのに。
そんな顔されちゃ、一大決心が揺らいでしまう。
留めたいと思う欲が面を上げ始める前に、素早く銃口を構えて撃ち抜く。
あの始まりの日と同じように躊躇うことなく引き金を引いて。
違いといえば、彼に対する想いだろうか。
分離する世界は、容赦なく僕らを引き裂いて。

 

『忘れない』

 

たとえ、君の記憶から僕の存在が消えたとしても

君がくれた数日の出来事は、僕が覚えてる

この先、君が紡ぐ未来も全て

 

『ネク君…君が僕を忘れた頃に、また何処かで…』

 

聴こえるはずのない彼に向かって、囁きかけた。
積もる名残惜しさだけを置き去りにして、踵を返せば、共犯者の姿が光に浮かぶ。
時空の狭間、返って来るはずのない呼び声が聴こえた気がした。

 

 

 

 

 

「寂しそうですね」

あの頃と変わらず笑う彼らをぼうっと見ていると、隣人から、からかうように声を掛けられる。
そうだろうさ、今の僕は未練たらたらだからね。
寄越された皮肉に、小さな反感を覚えながらふてくされたように眺めやる。

 

そして、瞬間起こる世界の気まぐれ。

 

「…っ!」

慌てて僕は顔を逸らして地を蹴った。

なんて世界は優しくて意地悪なんだろうね。
気まぐれで慰めなんて欲しくないのに。

立ってた場所では、皮肉屋の天使が何か零してたみたいだけど、そんなのもう気にする余裕なんてなかった。

 

 

 

眩しげに細められた彼の眼が、空を仰ぐ一瞬

視線の絡む錯覚に、甘い衝動が駆けて行く

夢のような刹那の幻想

 

 

 

思わず泣きたくなるほどの切なさだけが、僕の心に広く響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

2007/09/21(Fri)  from memo

某方から『ヨシュアって、ネクが忘れてるだけで、事故って死んだ友人だったらいいよね』的なネタを聴きまして…衝動です衝動以外の何物でもねぇ!
ヨシュアは毎回ネクが忘れた頃に、逢いに行けばいいよ…うぉぉぅ…変態なのに純愛とか…ヨシュアぁぁぁっ!!!!(号泣)


*新月鏡*