「迎夢 ―Neku side―」

 

 

 

お前の仕組んだ最後の遊戯。

得たと思ったものを失った、そう感じたんだ。

めちゃくちゃに掻き回されたみたいに、頭の中も心の中も混乱してて。

ただ、酷く苦しくて、悲しかった。

 

 

 

 

 

倒れ込んでいる俺の周りを囲むのは、人の群れ。
ざわざわと、耳に残らない雑音を吐き出して、十人十色の表情で見下ろしていた。
誰も気付かないはずの俺に、取り囲む人は気付いてる。

 

ここはどこだ?

ここは、どこだ?


ここは…

 

 

 

「何なんだよ、これ!」

立ち尽くして、やりきれない想いを吐き捨てる。
心の中、痛みが全身を切り裂くように駆け上って、なりふりなんて構ってられない。
嘘だと思う気持ちと、戻ってこれたという実感のなさと、それでも確かな世界にあるのだという現実が、受け入れろといわんばかりに突きつけられて。
混乱し続ける俺に、UGでの出来事など全てなかったような顔をして、この世界はざわめきたてる。
なんて、無情。

知らず知らずの内に涙が零れた。
何が悲しいのか、何が苦しいのか、それすら把握できていないのに、涙はしっかり理由を持って流れていく。

 

今までの苦しみは何だった?

今までの悲しみは何だった?

シキやビイトたちと戦ったこと、痛くてつらくて、だけど大切だったもの。

全部、全部、何だったんだ?

 

「っ…ヨシュア…」


――――どうか、答えを

 

 

 

 

 

最後のゲームだと言った。
俺が勝てば俺の、お前が勝てばお前の望むように、と。
だけど、提案されたゲームは、あまりにも残酷で。

出来るわけがない

出来るわけがない

信じたくなくて、必死に否定して見せるけど、お前は軽く肯定していく。
ひとつ、ひとつ、真実を知るたびに崩れ落ちそうだった。
知ってたくせに、わかってたくせに、そんな非難ばかりが音にならずに溜まり続けて。

泥沼へ引きずり込むように重い拳銃が、奈落の底へと誘っていくよう。

それとは間逆に、銃口を構えたお前は、憎らしいほどの笑みを浮かべて、躊躇いもせずに引き金を引く。
それがどうしても、悔しくて。
諦めと悔しさの中で立ち尽くす俺に、かっと目を刺すような光の雨が降り注ぐ。

「っ!」
『…ネク君』

遠く、優しい声が俺を呼ぶ。
何処か、寂しい音を含んだ呼び声。
手をかざして、ぎゅっと瞑っていた目を開いてゆけば、光の中心に見知った姿を目に留めた。
不敵に微笑むお前と、いつだって見守っててくれたあの人。
おぼろげに薄らいでゆく意識につられて、掻き消える。


「ヨシュア…」


堕ちる声。
手放したくない、ただそれだけの想いを込めて。

 

 

 

 

 

立ち尽くす俺を、見知らぬ人が不思議そうに見やってくる。
煩わしかったはずの視線も、もはや気にならない。
変わらないはずの日常が、何処かですり替わったような気さえする。
晴れ晴れとしていて、それでも少しの冷たさを残して。
約束の場所で、再会する懐かしさに抱かれれば、心が閉鎖されてた場所から歩き出す。

 

UGに行ってよかったと思う。
UGに行ってつらかったと思う。
でも、もう戻れないんだと思うと、やっぱりどこか寂しくて。


「あのさ、ちょっと行きたいところがあるんだけど」

意を決して切り出した、俺の望むことに、シキが嬉しそうに笑ってくれた。
ビイトに、不安を吹き飛ばしてやる、と勇気付けのために叩かれた背中がジンジン痛むが、それすら心強く感じる。
一人じゃない。
隣を見れば、シキがいる。
向こうにはビイトとライムがいる。
だけど、やっぱり足りない。

「行き先は、決まってるね!」
「さっさと行こうぜ」
「あぁ」

 

 

 

ゲームはまだ終わってない。
終わることすら始まりなんだろう?

 

迎えに行くから
今度こそ、その手を離さないから

 

 

 

お前に出会ったあの場所で、もう一度…

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

2007/09/09(Sun)  from memo

うろ覚えED直後。
ヨシュア迎えに行けば良いじゃない!!!というノリです。
後々up予定の『 セ ツ ナ ―Joshua side―』が対の話。


*新月鏡*