「Sleeping Beauty on a crossroads」

 

 

 

(ネクside)

 

――――そう、その件なんだけど…

…だからやっといてよ

僕が?無理だよ…――――

 

 

 

遠くで声がする。
でも、身体が起きてくれない。
しかも悪いことに、起きたくないと思ってしまうくらい、今日は寝心地が良い。
何故だろう。
いつもの冷たいアスファルトの感触がない。
疑問が湧くのに、眠気にずるずるまた引っ張られていく。

 

すると、途端に寝心地よい場所が勝手に動いて、少し落ち着きが悪くなってしまった。
まったく、俺の意思を無視して、勝手に移動するってどういうことだ。
許せない。

「んん…」

俺は抗議の声を上げて、隣にある何かを引っつかむようにして身を寄せた。
戻ってきた心地よい暖かさに、再び意識が落ちていく。
最後の意識が伝えてきたのは
誰かの優しい指だった

 

 

 

 

 

 

(ヨシュアside)

 

「…写メ撮りたいなぁ…でも起こしちゃうよね」

人がごった返すスクランブル交差点。
信号機のポールの片隅。
片膝を折って座るのはケータイを弄る少年
そんな彼に、抱き込まれて眠っているのは、ヘッドフォンをつけた少年。
傍から見れば、完全に奇妙な絵柄だが、周りは誰も気にしない。
健やかに眠る寝顔は、普段の彼からは想像もつかないほど愛らしく、それを見てるのは傍らにある存在だけ。

 

――――フフっ、これって役得?

 

上機嫌でいる義弥は、ひっそりと幸せ気分を味わっていた。
さらさらと眠る彼の髪を撫でる。
よほど気持ち良いのか、ふにゃっと顔が緩むのがまた可愛らしくて。
時折する身じろぎすら、より密着するための動作でしかない。
そしてはっと気付く事実。

 

――――…役得どころじゃないね…これ、試練だ…

 

想い人が腕の中にいる。
それだけで今にも衝動に任せて何かしてしまいそうな自分を、必死な思いで抑えつける。
拷問のようで、それでも何より嬉しい事態に、身の振りようが思いつかない。
先ほど電話していた相手が、待っていろ、と何か慌てた風だったので、どうにかしてくれることを祈るばかりだ。

 

――――眠り姫を起こすには…

 

心満たす寝顔を見つめて、ふとポピュラーな童話を思い出す。
美しい姫君が描く夢物語。
茨の城で深く眠りについた彼女を、目覚めさせるのは決まってて。
共に生きる伴侶と目覚めた瞬間恋に落ちる。
さて、彼はどうだろう…?

 

 

「羽狛さん、お願いだから早く来てよ…」

頼りない声で、空めがけて声を吐く。
深く広がる想いに翻弄される自分が、どうしようもなくおかしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(通話中 in ワイルドキャット)

 

『そう、その件なんだけど…あ、ちょっと待って』

「ん?どうしたヨシュア?」

『何も、ただネク君がね…いや、それより本題だけど、やっといてくれる?』

「俺もそんなに暇人じゃないんだけどなぁ」

『今度お礼するって、言って、る、じゃない、だからやっといてよ』

「わかったよ、じゃぁ今すぐ俺の店に来い、用意しといてやるから」

『僕が?無理だよ…今は、ちょっと、取り込んでるからね』

「…お前、今何やってる?」

『え?別に座ってるだけだけど、ネク君が……フフっ可愛い…』

「よ、ヨシュア?!」

『ねぇ羽狛さん、僕ってフィンガーテクニックすごい?』

「はぁ?!」

『…んん…』

『…ホント、ネク君って可愛いよね…』

「おい待て!お前、間違いは起こしてくれるなよ!」

『気持ち良いのかな…イイ顔してる』

「実況中継なんかすんじゃねぇ!いいな、俺が行くまで何もせずに待ってろ!」

『フフフ…約束はできないね』

「このやろぅ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

2007/09/01(Sat)  from memo

副タイトル『走れ羽狛さん!』(笑)
いつも目覚めるのがスクランブル交差点なので、ヨシュアに抱きしめててもらいました。
何気に前作の『idea』の後日談っぽい。
とりあえず、超楽しかった!


*新月鏡*