「 i d e a 」
あいつはよく、意味深な言葉を置き去りにする。 無視できるレベルのことなら、それでいい。 なのに、どうしても無関係に思えないことばかり。 何で、そんなことを知ってる? どうしてそう思う? お前は何を知ってる? お前は一体何なんだ?
問いたいことは山ほどある。 際限なくあふれ出すほどに。
『パートナーを信じろ』 頭の中で、羽狛さんに言われた重い言葉が木霊する。 せっかくのパートナーなのに、俺は心からアイツを信頼できてない。 信じたいと思うのに、こうも疑問ばかりがフライングしてくるから、信じる思いがアイツへ走り出せない。 「信じ、たいのに…」 がむしゃらに、ただ傍らにいる存在に心委ねて。 まっすぐ前を向いていれたなら、もっと変われる気がするのに。
「どうしてお前は、いつもはぐらかしてばっかりなんだ」 「何のこと?」 「いつも肝心なことは隠したままだ!」 こっちは真っ白な白紙の状態なのに、こいつは逆に真っ黒で塗りつぶされてるみたい。 スキャンしたときの情景が、さらに俺を疑惑の渦へ巻き込んでいく。 戻れない。 何も知らない、疑うこともない白紙の頃に戻れない。 強まるばかりの不信感だけが、苛んでくる。 もう、耐え切れない。 「…全部、話さないと、分かり合えない?」 「お前はあまりにも胡散臭い」 「フフっ、酷いなぁネク君」 いつもと変わらず、さらっと受け流して、心外だなぁといった作り顔。 どれだけ俺が声に出して求めても、欲しい答をくれそうでくれない。
『だけどね』 不意に堕ちる空気。 相変わらずのオブラートな声色が、甘く心地よい。 だけど深淵の闇を思う底知れない感覚がまとわりついて。 俺の全てを絡め取る。
『どんなことがあっても、君は僕が護るよ』
そのとき、俺は場違いにも綺麗だと思ってた。 微笑んでいるのに射るような眼差しも、そっと手を差し出す動作も、何もかも。 こいつを構成する全てが、何故だか別世界のものに見えた。 触れる指先が頬をなぞる そっと優しく抱きしめられて アイツの体温に包み込まれて その温かさに、俺の世界が方向を見失う ――――だめだ、俺…
「不安なことがあるなら、僕が助けてあげる」 甘い、どこまでも甘い言葉が囁きかけてくる。 弱気になってた俺は、どこまでも付け入る隙があって。 だからだろうか、こいつの奏でるささやかな音が、余計に心に染み渡って仕方ない。 痛いくらいの優しさを、俺はどうして信じてやれないんだろう。
「安らかに、おやすみ…ネク君」 遠のいていく意識の片隅。 穏やかな音色が、俺を夢へ誘っていく。 明日には
何か
変わってるかな…
その日、最後に見たのは、綺麗に微笑むアイツの顔だった
* * * * 2007/08/31(Fri) from memo 日の変わり目でのひと時。 意味深なセリフでこじれた後に、いきなり終わってびっくりしたので。 こんなやり取りあっても?みたいな。 『イデア』=五感では感知できない、別世界の美しいものの原型 らしいです。 見た瞬間、ヨシュアじゃん!と思いましたアホです☆ *新月鏡* |