Lucky Number 5555!

 

 

 

「ヒロさん、朝ですよ。起きてください」
やさしくて甘い声が上條弘樹に降り注ぐ。
いつもと同じ朝。
上條の同居人兼恋人の草間野分は一足先に目覚めていとしい人に呼びかける。
すると決まって”……ん”とちいさく返事が返ってくる。
でも、上條はまだ目覚めてはいない。コレも日常。
 野分はそんな朝の時間が結構好きだ。
普段は人の話を聞いていないときでも異常に明瞭な受け答えをする上條が洩らす ぼんやりとした寝ぼけ声。
側まで歩み寄って穴が開くほどじっと見つめても目を覚まさない上條。
自分に対して無防備に心を開いていてくれている証拠だ。
野分はこっそり誇らしく思う。
今朝も10分ばかりずっと上條の顔を見つめていた。
伏せられた瞼。起きているときだとまじまじとは観察の出来ない部位のひとつ。
ながい睫毛。目の下のやわらかな皮膚にうっすらと影を落とす。
うすく開かれたくちびる。そのくちびるがどれだけやわらかいかを彼は知っている。
さらされたのど。この中を通って、あの少し低くて艶のある声が発せられる。
そして、寝間着の隙間から覗く鎖骨。眠る上條が僅かに身じろぐたび連動する。
ぜんぶなめてしまいたい、野分は上條を見つめながら思う。

 

 そんな事を考えている場合じゃなかった。
野分ははっと我に返り、再び呼びかける。今度は先程よりは少し大きな声で。
「ヒロさーん。朝ですよ。起きなくていいんですか?」
「…う…ん。起き、る」
珍しく二度目にして意味をなす反応があった。
上條は瞼を少しふるわせて薄く目を開けた。
野分はそんなかの人を見て、ああ、やっぱりかわいいなぁと愛しさがこみ上げる。
気持ちがそのまま表情にあらわれた状態で言った。
「おはようございます、ヒロさん」

 海棠の眠り未だ足らず、といった風情の上條をとりあえず残し 野分はいそいそとキッチンに向かう。
「朝ごはん、出来てますよ?一緒に食べましょう」
言いながらつくった朝食を手早く皿に盛る。
起きた時に点けてからずっと流しっぱなしだったテレビが天気予報をやっている。
今日の降水確率は午前0%、午後0%。
窓の外にちらと視線をやると澄んだ青空が広がっている。
ああ、今日もいい天気だなぁと野分は思う。

 「わるい…朝メシ。いっつもおまえまかせで」
眠そうな顔をしたまま上條がダイニングテーブルまでやってきた。
野分はこだわりのない笑みを浮かべて返答する。
「いいんです。俺、朝に強いほうですから」
まじうらやましーわ、と上條は呟きながらコーヒーメーカーから カップに二人分のコーヒーを注ぐ。
忙しい時や二人揃わない時は使われないコーヒーメーカーだが、 今朝みたいな日は野分がコーヒーを淹れて、上條がカップに注ぐという 暗黙の分業が二人の間にはある。
上條としては”注ぐだけ”の分担に情けないやら申し訳ない気持ちになるのだが、 野分は一向お構いなしで”ヒロさんが注いでくれたからおいしいです”と言う。
 コーヒー独特の香りがふんわりと広がった。
「食べましょうか」
野分が二人分の皿を食卓に置いた。途端、上條の目が点になる。
「…チャーハン?」
そこに置かれたのはどこからどう見てもチャーハンだった。
二人の朝食は通常トーストに卵料理、サラダとごく平凡なものだが、 なぜか今日に限ってチャーハン。
上條は訝しげな表情を向ける。
野分は申し訳なさそうに
「コーヒーに合いませんでしたね、すみません。 コーヒーメーカーのスイッチを入れた後にチャーハンを作り始めちゃったんです」
と言う。だがしかし、問題はそこではない。
「っていうか、何で朝からチャーハンなんだよ」
と上條が尋ねると大真面目な顔で
「五目チャーハンです。あ、嫌ならトースト焼きましょうか」
と返ってきた。だがしかし、やはり問題はそこではない。
「いや、嫌じゃねーけど。って、だからそうじゃなくて…」
そう言いながら、上條はスプーンでチャーハンを掬って口に入れる。
「お昼のお弁当も作っておきましたから、ヒロさん持っていってくださいね」
悉く噛み合わない野分と上條の会話。
「だから何で朝からそんな手間かけてチャーハンを作ったのかって聞いてんだよ。 俺は別にかまわねーけど、オマエに無駄な負担かかってんじゃねーのか?」
少し苛立たしげに上條は言う。
「それはですね、今日ヒロさんの…」
野分の返答に唐突に点けっぱなしにしていたテレビの声が割り込んできた。
「あ、これです」
「は?」
見るとテレビでは天気予報が終わり、星座占いのコーナーに突入していた。
再び目を点にして、テレビを見る上條。
「俺、これ一回前の放送見たんですけど、ヒロさんの星座のところ、 よく聞いておいて下さいね」
野分が付け足した所で上條の星座の一日の運勢が読み上げられた。

”…座さんの今日のラッキーナンバーは5555!これで幸運は身近な所に!”

 「…で?今日の俺のラッキーナンバーが5555だと?」
「はい。だから今朝は”五”目チャーハンにしようと思って」
「なんだそれ。駄洒落?かよ。っつーか、5555とか数大きすぎだし」
「俺もそう思ったんですけど、だったら俺がヒロさんに5555回何かをすれば ヒロさんラッキーナンバーに関連のある一日が過ごせるかと思って。 あ、因みにお弁当には17品目入れておきましたから、 あと5533、ヒロさんに何かします!」
野分がにこにこと言う。一方で上條は心底あきれて返す。
「…なんだそれ。オマエ、ばっかじゃねーの?占いなんかに左右されやがって。 くだらねー事で朝っぱらから手間増やしてさ」
途端に野分が言葉を受けてしゅんとする。見えない尻尾がへろりと垂れ下がった。
「確かに、下らない事かもしれないんですけど、俺何かヒロさんにしたいんです。 俺の自己満足なんですけど。ヒロさん。残りの5533回、迷惑 ですか…?」
しゅんとしてしまった野分を見て、上條は内心うろたえる。
いつもの事ながら、この顔に弱い。
「ああ、もう、こんなくっだらねーことでいちいちしゅんとした顔すんな!」
あの顔をされると、どうしても野分をはねつける事が出来なくなる。
「別に俺は嫌でもねーし、迷惑でもねーよ。 ただ、オマエに余計な負担かかんのが嫌なだけだ」
上條はぶっきらぼうにはき捨てると、野分はぱあっとほころぶように笑った。
「負担になんてなってないです!俺が好きですることなんで!」
「バカか…」
「ヒロさんバカですから」
「…ったく…」
上條は耳朶を赤く染めて付け足す。
「…あと、5528だからな」
「え?なんか減ってますよ?」
野分が不思議そうな顔をする。
「オマエ、俺を2回起こしたろ。そんで朝食昼食作ってコーヒー淹れたじゃねえか」
「そんなことも数に入るんですか?」
「当たり前だろ。オマエが”俺の為”にしてくれることなんだから」
上條ががつがつとチャーハンをかっこむ。
野分は、照れてるんだなぁ、かわいいなぁと動きを見つめる。
そしてふと疑問が頭に浮かんだ。
「あ、ヒロさん。例えばキスを俺がした場合はどうなるんでしょう。 これは”ヒロさんの為”というか、俺の為だからカウントしないのかな」
この時、チャーハンを一時中断してコーヒーをすすっていた上條は その言葉を受けて盛大にむせ返った。
「わ、ヒロさん、大丈夫ですか!?」
上條はげほげほと咳き込みながら涙目になって相手を睨みつける。
「…て…めー。なんじゃそら。そういうのはひとりの気持ちでするんじゃなくて ふたりでするんだから数に入れるにきまってんだろ…!…って、あ」
まくし立てたあとで自分の発言する所の意味を理解し、一気に首まで羞恥で染まる。
「ヒロさん…俺、嬉しいです!それだと5528回なんてあっという間ですね!」
「あっという間ってオマエ一日で何回する気だ!」
羞恥に体を真っ赤に染めながら上條が怒鳴る。
それが彼なりの照れ隠しであるという事もとっくに了解済みなので これ以上相手を刺激するような事は言わずにおく。
代わりに、
「ヒロさん、すきです」
と野分は自分の中のいとおしさを込めて言った。

 

 「じゃあ、悪いけど俺、先行くわ」
気がつけば家を出ねばならない時間になっていて、上條はドタバタと身支度を整える。
野分はどうやら時間にまだ余裕があるらしく、弁当箱を弁当包みに包んでいる。
「あ、ヒロさん。お弁当です」
言って差し出されたそれを上條は受け取る。
平素よりも一段と礼を言うのが照れ臭くてただ一言だけ洩らす。
「5527」
野分はその言葉を受けて嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、これで5526ですね」
恋人の頬に口づける。
「な…」
再び頬が染まるかの人に満面の笑みをおくる。
「帰ってきたら残り、しましょうね」

 してあげたい事をして、してもらって。そうやって日常を積み重ねて。
幸福ってこういう事をいうのかもしれない。
野分は大好きな人の赤らんだ顔を見ながら思った。

 

 

 

 

 

 

* * * *

2008/08/01 (Fri)

dear 常盤様→

 

わぁ〜い!!!『Euphoria』の常盤様から素敵小説戴きましたーVvvv
キリ番じゃないのに報告しましたアホですごめんなさい、運命だから許して下さい。(生意気)
えー、タイトルもありますとおり、5555ってカウンター踏みました。
嬉しさ思い余って、『運命なんだ!』って言ったら、『ならば責任を取らねばなるまい…』って!!!
さすがは俺の宮城!!!!格好いいぃぃぃ!!!!(えぇぇぇ;;)
スミマセン、調子乗りました。

さて皆様、しっかり読みましたか?!!!
ね?超可愛いでしょう?!!
なんだろうな、ホントに常盤様の書かれる野分は可愛くて仕方ないですよ!
ヒロさんへの愛が駄々漏れすぎてwwwww
ヒロさんもナチュラルにいちゃいちゃしてるので、もう読んでるこっちは、イイ笑顔で砂糖吐きまくりですね★
一生砂糖まみれでいい…幸せだ!!!
フフフ…大好きですVvv

えと、今回、常盤様宅のブログから戴いてきたので、出来る限りそのままの雰囲気で改行してます。
場面が少し変わったかな?というところは、ちょっと長く改行してみました。
直せ、って言われたら直します、ごめんなさい。
あと、行間って難しいね。
ブログの普通の行間、21ptとかいう微妙さだった新事実。(すごくどうでもいいトリビア)
読みづらいわぁっ!!!ってなことございましたら、仰ってくださいね。

常盤様、素敵な小説をありがとうございましたVvvv


新月鏡