同じだったのですね

違うと信じていたのに

あぁ、なんて愚かな結末

君など、信じなければよかった

 

 

降り積もるのは嘆きの雨

 

 

 

贖いきれぬ無垢な罪

 

 

 

 

少し油断しただけ。

まだ逃げ切ってなかった人質の悲鳴に、ほんの少しだけ意識を殺がれたのが致命的だった。

 

 

 

管理下にあった一部のマフィアの密売が表沙汰になり、被害が出始めたため、仕方なしに殲滅の許可を出したのは昨日の話。

数人の部下を連れて自ら赴くことが俺なりの責任の取り方だと主張し、それに良い顔しない守護者たちを無理やりねじ伏せて此処に来た。

情報によれば結構な人数が配置されているようだが、しっかり見極めれば簡単に片付く範囲だった。

しかし、それを大きく覆したのは、予想外に一般人の姿があったから。

遊び半分でやってきた輩が不幸にも見つかってしまっていた。

急遽計画を変更し、裏手に回って人質を解放した後、盛大に突入サインを出して総攻撃を仕掛ける。

途中までは上手くいっていた。

だが、


「ぎゃぁ―――っ!!」


突然上がった悲鳴に、思わず意識も身体もそっちへ持っていかれた俺は、誰が見ても隙だらけの状態になっていた。

相手にしていたのが雑魚とはいえ、仮にもマフィアの一員だった連中なのだ、決定的な隙を逃すはずがない。

とっさに身構えようと意識を戻すがもう遅い。

 

 

 

構えられた銃口にかちりと引き金の音が連動する。


「しまっ・・・」


バァンという独特の爆発音と硝煙のにおいを纏った弾丸が凄まじい速さで迫り来る。

が、その弾丸は俺の身体を貫く前に、突如現れた火柱に溶け込んだ。


「熱っ・・・こ、れは・・・」


 

「だから反対したんです」

 



轟々と燃え盛る火柱の影、ふわっと何もない空間から声の主が現れた。


手にした三叉をくるりと反転させて構えなおし、背後に迫った敵をあっさり薙ぎ倒していく。

その動作のあまりの鮮やかさに、ここが戦場だということが消失しそうになる。


「むく・・・」

「しばらく眼を閉じて、じっとしていなさい」


名前を呼ぼうとして口を開くが、すっと冷たい手で遮られたせいで視界に闇が訪れた。

鋭く刺すような命令に自然と身体が硬直して、上げかけていた手がだらりと下がる。


「いい子ですね」


甘ったるい声で囁かれ、眼を塞いでいた手がするりと頬を撫でて去っていくだけで、内側の熱がくすぶり始める。

 

 

 

そんな俺をそっと護るように抱き寄せて、骸は2、3度、トン、トン、と床を小突く。

すると辺りには誰ともわからぬ悲鳴だけが交じり合って、俺の耳を突き刺してきた。

飛び交う悲鳴に、事態の把握が出来ない俺は不安に駆られる。


「うっ・・・骸、何が・・・」
「あと少しで済みます」
「骸っ!」


現状を教えない骸に焦れて、俺は閉じていた瞼を押し開く。

 

 

 

開いた視界

真っ先に映し出される冷たい美貌

紅く輝く瞳が何処か遠くを見つめていた



――――・・・骸?何処を、見てるの?



視線の先に不安を覚えて、そっとそちらへ顔を向ける。

だが、不安のその先を確かめることすら俺には出来なかった。


俺の行動に気付いた骸が、遮るように唇を塞いできたからだ。

噛み付くような荒々しい接吻に、俺はぎゅっと眼を瞑って受け入れ、与えられるがままに翻弄される。

解放される頃には、骸の腕に支えられながら、ぐったり身体を預けるしかなかった。


 

「全く、君は変なところで油断ならないですね」

「んっ・・・、骸が、教えないから・・・だろ」


何度も荒い呼吸を繰り返し、ぎゅっと胸元を握り締めて答を返す。


「見せて、くれないし・・・」

「感覚汚染にかかりたいんですか?」

「だったら、教えてくれたっていいだろ!」


「教えたら止めるでしょう?」

 



止められたくないから教えないのだという骸の言葉に、俺ははっとなって周りを見渡した。


「っ・・・ぁ・・・」

 

 

 

広い倉庫の中

黒い波のように折り重なる人の群れ

蒼白とした顔に眼球はぐるりと上を向いて

口からは泡のようにだらだらと唾液が滴り落ちる

イカれた意識に廃人と化してしまった憐れなガラクタ

沈黙と静寂と虚無が満ちて

 

 

立っているのは俺と骸だけ

 

 

「っ!」


ぐっと振り返って、澄ました顔を睨みつける。


「クフフ・・・ね、君は絶対止めるでしょう?」


うっとりと微笑んで楽しそうにそう言う骸に、俺は絶望にも似た暗い感覚で染められた。

 

 

わかりきってたはず

こいつには闇があると

 

それでも俺は沸き起こる感情を抑えることなんてできなかった。

「骸っ、ここまでやることなかっただろう?!」

「だったらどうしろと?生きて返せば報復に来るに決まってます」


――――その後の被害を君はどう贖う気ですか?


冷静で最もな意見に、俺は言葉を失った。

 

骸の言うことはどこまでも正しい


傷つけることを恐れる俺のためにファミリーが傷つく


被害を受けて、対処するのは俺一人じゃないということも知ってる

 

 

「でも、誰も傷つかないで済むならその方がいい!」

「・・・いい加減、その甘さを捨てないと死にますよ」

「余計なお世話だ!」


振り払うように骸の身体を押し退ける。

その冷めた眼が気に喰わない、とさらに睨みを利かせて見据える。

頭に血が上ってしまって、もはや自分が感情のみで言葉を投げつけていることすら気付けない。


「これしきのことで死に掛けたくせに?」

「どうせ俺は甘いよ!骸みたいに楽で便利な能力ないし無情にもなれない!」

 

「ほう・・・楽で、便利・・・ですか」

 

 

 

瞬間、取り巻く温度が急低下する。

はっとして顔を上げたときには、もう遅い。

完全に冷めてしまった無機質な眼が、何の感情も表すことなく俺を眺めていたから。

 

「っあ・・・」


無意識に怯えた身体は一歩後退る。

口許に添えた手と唇が震えて、圧倒的な後悔と恐怖が俺を喰らい尽そうとしてくる。

 

 

 

くっとつり上がった口角が

暗く笑う低い声が

纏う気配が

俺の恐怖を掻き立てて

 

 

 

「だったら・・・」

 

 

 

すっと持ち上がるしなやかな右手

なぞるように己の右目にそっと添えて


永久に思える一瞬

 

「だ・・・ダメっ!」

 

ぐっと力を込められた指先に、紅く染まった花が散る。

ぼたぼたと止め処なく滴り落ちる雫に、錆びた香りが立ち込めて。

ぐちゅぐちゅと生理的に嫌悪感を沸き立たせる音が耳から離れない。

指を一気に引き抜けば、ぶちっと千切れる音と共に吐血する洞の眼。

 

 

 

「・・・差し上げますよ」

 

 

 

狂気に満ちた笑みで差し出されたそれ。

血塗れた手のひらに転がる紅い瞳。


「ひっ・・・」


反射的に恐怖で身がすくみ、自分を護るように腕を上げて壁を作る。


「どうしたんですか?君が欲した楽で便利な能力ですよ?」

「いっ・・・やだ・・・」

「あぁ、手術は嫌ですか・・・なら、他の誰かにでも移植すればいい」


差し出される手のひらは、嫌がる俺の意思に構うことなく距離を詰めてくる。

俺が何に対して嫌だと言ってるのかすら知った上での行動。

 

骸がその眼をどう思って保持し続け、どう感じているのか・・・俺は知っていたはずなのに。

決して言ってはならない禁忌を犯した俺への罰。

 

怯えた手を掴んで、包み込むようにして、血みどろになった紅い球体を手渡す。

取り落とさぬよう、そっと指で包ませながら去っていく優しくて怖い指先。

 

 

 

「所詮、ボンゴレでの存在意義はこの能力でしたし・・・残念ですが、これでもう居座る必要もありませんね」

「まっ・・・」


待って、という制止は音にならず、涙で滲む視界が求める姿すら歪ませていく。

その場に座り込んでしまった俺を蔑むように眺めて、骸は小さく別れの言葉を落とすと、緩やかな足取りで扉の奥へと姿を消した。

 

 

 

残されたのは俺の身体と

緋色の眼

 

 

 

複数の足音が到着する頃、狂い壊れた俺だけが嘆いて・・・

 

 

――――たとえ望まれたものを失ったとしても・・・どうか愛して・・・

 

 

 

 

俺が犯した最初で最後の重罪

 

 

 

贖いきれぬ無垢な罪

 

 

 

 

* * * *

2008/05/06 (Tue)

え〜……2007.2.28付けの発掘小説★
たしかこれは、別館やってたときの相方に見て貰って、どうしよう…載せて平気?とか聞いてたやつです。
ケータイで見やすいように編集かけたんで、きっとPCだと奇妙。(直す気皆無)
んで、内容の方は、一言で。

救 い よ う が な い !!

さらに加えて意味不明な文章になった・・・orz
一応骸ツナは両想いデスヨ?(U SO DA !!)
ただ、ツナが地雷踏んで両者ともに救いようのないところまで逝っちゃっただけです。
ぶっちゃけ、骸さんに眼を抉ってほしk(←死。
ス ミ マ セ ン で し た !!


新月鏡