貴石
やっとのことで探し出した簡素な部屋は、異常な色で埋め尽くされていた。 ベッドの上から机の上、床に至るまで、眩むような輝きが散りばめられていて、うっかりどこかの宝石店に迷い込んだのかと思ってしまう。 「……」 「おや?そこにいるのは綱吉君ですか?」 呆気に取られて呆然としていると、遠くの方から聴き慣れた声が寄こされた。 いつ聴いても心地の良い声色。 外国出身とは思えないほどの見事な発音をしてのけるその人は、奥の扉からひょっこりと現れた。 忘れもしない、昔騙された、ぱっと見ただけでは見抜けない人のよさそうな微笑み。 今では何より嬉しく思う表情なのだけれど。 「骸…これ、何事?」 俺と彼との間に広がるのは無数の輝き、俗に言う宝石というやつだ。 見れば大きさは店頭に並ぶものの比ではなく、売り出せば軽く万という単位が吹き飛ぶくらいの代物。 そんなものが無造作に転がっていることに、俺は小さく恐怖を覚えた。 「綺麗でしょう?」 「俺にしてみれば邪魔な障害以外の何物でもないんだけど」 「おやおや、そんなに僕が恋しいですか?」 「言ってろ」 照れ屋なんですから〜なんて楽しそうに彼は言いながら、踊るように優雅な身のこなしで輝きの波を渡ってくる。 一歩、二歩、三歩... まるでダンスのステップを踏んでいるよう。
そうして数えているうちに、俺の眼前に彼は舞い降りてきて。 流麗な姿に眼を奪われていた俺を、これまた流れるような自然な態度で抱き寄せて。 「寂しい想いをさせましたね」 なんて言って、わざと音を立ててキスまでしてくるから油断ならない。 しかし、それが様になるから厄介で。 「…だったら宝石なんて転がしとくなよ」 そんな彼の異色の双眸に見つめられると勝手に熱が込み上げて。 愛しむような柔らかい眼差しに耐え切れないあまり、あっさり許してしまう俺も俺なんだけど。 どう足掻いたって最終的には幸せだと感じてしまう。 ぎゅっと抱きしめ返した身体から与えられる安堵感がその証拠。 俺からは離れられないし、離れようとも思わない。 「今日はホントに積極的ですね」 「……2週間」 「ん?」 「…2週間もどこ行ってたんだよ…」 擦り寄って、間の隙間をゼロにして、俺はのどに引っかかる声を無理やり押し出した。
そう、それが俺の訪問理由。 彼の家などに来ることはない俺が、わざわざ見知らぬ道を迷いながらやって来た最大の理由。 場所なんて知らなかったから、リボーンにめちゃくちゃ頭下げて割り出してもらったこのひっそりとした隠れ家。 はっきり言って、外からじゃ人が住んでるとは到底思えない家だ。 しかし、廃屋同然の出で立ちにも関わらず、部屋の中は彼らしいシンプルなデザインで綺麗にまとめられているから驚く。 ――――どれだけ金掛かってるんだろう…ってか骸ってホントに中学生? そんなことを思いながらも、やっぱりどこか寂しくて。 シンプルであるからこそ、そこに生活感が感じられなくて、ここに本当に彼がいるのかどうかさえ不安に思ったのだ。 ひょっこり現れたときには、安堵のあまりそれはもう足が崩れ落ちそうだった。
「いえ、あの・・・君に合うものを探してたんです」 「…で?」 「僕には何も形に残せるものなんてありませんから…あ、と…2週間掛かったのは、海外に出ていたからで…」 しどろもどろになりながら、困ったように彼は言う。 けれど俺にその言葉は届かなかった。 彼同様、俺自身も自分のことでいっぱいいっぱいだったから。 「イラつくくらい傍にいたのに、いきなり何も言わずに勝手にいなくなって…しかもいるのに連絡一つ寄越しもしない」 「それは…」 驚かせたかったという彼の言い分を斬り捨てて、内側に渦巻く言葉を思いつく限り連ね続ける。 告げられる言葉は全て俺を想う故のことだとわかっていながら、ぶつけてしまいたい想いは際限なく。 次から次へと言葉を落とすたびに、次第に目頭が熱くなって潤み出して。 吐き出す言葉さえ涙で震えているような気さえする。
「何で…いなく、なるの?」 怖いよ… 寂しくて、心が寒くて、こんなにも不安なんだ 本当にお前が消えてしまうんじゃないかって 怖くてたまらない 「形に残るものなんていらない!そんなの…必要ない!」 形だけの繋がりなんてほしくない 形がなければ消えてしまう絆なんていらない 「傍に、いてよ…」 お前という形があればいい それだけでいい それしか願わない だから…
「っ…綱吉君…」 弱々しい俺の願いに、戸惑ったような骸の声が俺を呼ぶ。 抱きしめる腕だけが、彼を此処に繋ぎとめておく唯一の術のよう。 手放せばすぐに夢幻に還ってしまう気がして。 離すまいと必死で抱きしめて、もう完全に涙を落とし始めている俺に、彼は静かに『すみません』とだけ返してきた。 その声に視線を上げれば、泣いてる俺以上に泣きそうな表情が映し出されて。 ――――あぁもう、馬鹿だな…お前が泣かないでよ 実際泣いてるのは俺のはずなのに、彼の方がよっぽど苦しそうで。
「もういいよ、骸…謝るくらいなら、俺の願いを叶えて」 祈るような気持ちで囁いて、そっと彼の唇を指でなぞる。 それが俺の赦しの合図。
煌く宝石で彩られたベッドの上 そっとこの身体を横たえて 降ってくる優しいキスに身を委ねれば夢心地 触れた先から交わる体温 重なる熱に愛しさが込み上げて そっと視線を絡ませれば 俺を捕らえて離さない、眼の眩むような二つの貴石
「俺にはこれで十分だよ」
どんな高価な宝石も どんな綺麗な宝玉も この貴石には敵うはずがない
彼の眼に宿るは至高の輝き
* * * * 2007/10/21 (Tue) もう何このバカップル!といった感じに仕上がってる小説を発掘したので載せてみる。 ってかこれ、いつ書いたものだろう…甘すぎる;; しかも何気にツナが強気…超強気。 逆に骸さんがたじたじだよ、ホント可愛くて仕方ない。 能力的、身体的には『骸>ツナ』、で、精神的には『骸さん<ツナ』がいいな★ ん、それはともかくこの2人はホントに可愛いと思いますVv 新月鏡
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