The sharpest lives are the deadliest to lead
向けられたのは鈍く光を反射する黒い銃口
「何のつもり?」 「特に何も」 「だったらその物騒なものを下げてくれる?」 「生憎それができないんですよ」 「何で?」 「君は何故だと思いますか?」 「わからないから訊いてるんだけど?」 「僕にもわからないので答えかねますね」 「何それ」 紡がれるのは不毛な会話 部屋には二人だけ いつもと違うのは間の空気が甘くはないってこと 少し前までは変わらず同じ日常を繰り返していたはずなのに 突然会話が途切れて、不思議に思って振り返ればこの様だ 「だったら・・・」 「何です?」 『思い出に一発撃ってみる?』 落ちる静寂 かき消すように一拍遅れて吐き出される乾いた笑い声 それに便乗して俺も力なく笑う 「なかなかいい提案です、しかし・・・僕が外すとでも思ってるんですか?」 心外だ、とでも言うように視線を鋭くして射抜いてくる その間も銃口の標準が俺から逸れることはないのに、的にされてる俺はそんな危機感なんて片鱗すら感じなくて 「いいや、確実死ぬよ・・・それくらい知ってる」 「それでも尚、撃ってみろと言いますか?」 「うん」 『・・・それでお前が許せるなら』 ホントは知ってる お前がどうして銃口を向けてくるのか どうしてお前が試すように口先だけの駆け引きを持ちかけるのか 全部、俺を縛り付けるための枷がそうさせてる 俺が変わるのを嫌ってる 血に染まる俺を見たくなくて 誰よりも先に、手当たり次第に地獄絵図を描くんだ 俺がその場に立てないように お前は俺が変化するのを恐れてる ――――だから、お前は俺が変わる前に全部掻っ攫ってくれるんだろ?
「許し方を知らないお前がそうすることで、俺の枷であるこのファミリーを許せるなら」 俺は喜んで撃たれてあげる お前がもう、此処を憎まないでいてくれるなら 俺はお前に全てをあげる 「許すはずがないでしょう」 「あははっ・・・やっぱり無理か」 蔑むように投げられた返答に、小さく笑みを零して俺は対峙する人影を見上げる 「・・・骸、一つ訊かせてくれる?」 こつ、と涼しげな靴音を伴って ゆっくりと距離を詰めて 存在感を主張する拳銃を隔てて頬に触れる 銃口は額から僅か数センチの距離に それを視界に納めながら、そっと引き金に空いている片方の手を添えて 「俺がいなくなったら、そのあとどうするの?」 逝くのは簡単 でもその後はもう、触れることも干渉することもできないから訊いておこうと思った そんな俺の想いを知ってか知らずか、目の前の綺麗な死神は、口端を吊り上げてのどの奥でくつくつと笑う 「クフフ・・・心配には及びません」 「え?」
『全部壊し尽くしてあげますよ』
だから、安心してください・・・なんて、恐ろしい言葉を当たり前のように囁いてくれる それも圧倒的に魅了する極上の微笑を浮かべて 整いすぎて、綺麗すぎて、夢でも見ているような感覚に襲われる 「っむ、く・・・ろ」 「はい」 変わらない距離 突きつけられた銃も微動だにしない 頬に触れたままの指先も 互いの指が重なり合った引き金も だから 「記憶に焼きついて消えないような餞、くれない?」 「いいですよ・・・とびきりの贈り物を差し上げましょう」 言葉と共に滑り下りてくる黒い銃口は腹の辺りにぴたりと宛がわれて 代わりに、縮まることのなかった距離をたった一歩でゼロにして 俺の腰を一気に引き寄せ、冷えた床へと押し倒す 「焼きつけてみせろよ」 「溺れてしまいなさい」 最後に交わされ混じる囁き 重なる唇は既に別の意思を持って、絡まる舌は艶かしく蠢く 喰らいつくように、ただ貪り合って 一度僅かな距離を置けば、尾を引く銀糸はさらにいやらしく光を帯びて 内に渦巻く激しい熱を共有するように、溶け合う口付けは繰り返される
たった一度のキスで俺は屈してしまう 突きつけられた銃の冷えた感触さえ、熱を煽るものにしかならない あぁ、本当に・・・一発撃ってみればいいのに それで全ての痛みは消え失せる 全て掻っ攫ってくれるんだろう? 思い残すことなんて何もないよ お前が全て壊してくれるんだから・・・ 思わず笑ってしまうのは何故だろう もう果てでも見たのかい? それとも熱に犯されすぎた?
――――『激しすぎる人生こそ致命的』
なぁ、そう思うだろう?
* * * * 2007/02/01 (Thu) 何だかよくわからん文章が出来上がった。 屈折しててもまっすぐな想いだと思うんだよ骸ツナは。 激しすぎる人生=マフィアな人生。 んで『致命的』なのは、変わらずにはいられないってことですかね・・・。 ツナが変わるのは骸さん嫌がりそうなので、かなり致命的かと。 骸さんにかかれば、どんなことだって激化すると思うから特に。 新月鏡
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