星合

 

 

 

さらさらと鳴るのは葉のすれる音。

しんと静まり返った闇夜の中、綱吉は一人、泣き出しそうな雲間を必死に見上げる。
渦巻く暗雲は一向に晴れる気配はなく、ただ重々しい空気だけを吐き出すばかりだ。
懸命に輝く星を探そうとするが、無謀に思えて小さく息を吐いた。
そんな綱吉に追い討ちをかけるように、ぽつりぽつりと雫が降り落ちる。

「はぁ〜あ、見れないのかな〜・・・天の川」

ただでさえビルの森の明るさに、星は輝きを失っているというのに、その上暗雲に覆われてしまっては人工的な光しか残らない。
しょげるように項垂れて、屋根の上で頬杖を付く。
次第に濡れていく身体など、気にならない。
ただ、何となく寂しかった。

 

『何してるんですか?風邪引きますよ?』


不意に声がかかると、ふわりと視界に傘が現れる。
しかし驚いて辺りを見回せど、求める姿は欠片もなくて。

「何処に、いるの・・・?」

ついて出た言葉が震えていたのは、寒さのせいか、それとも心もとない不安のせいか。
慌てて立ち上がれば、重心を失って身体が傾ぐ。

『綱吉君!』

バランスを失って投げ出されかける身体を、しっかりとした腕が背後から強く抱き寄せる。
勢いで当たった相手の腕の中、ただほっとするようなため息と共に抱きすくめられた。

 

――――あぁ、ダメだ・・・泣いてしまう・・・

 

その体温が、その声が、抱きしめる腕が、何より求めて止まないもので。


「骸っ・・・!」

振り返り、腕を回してぎゅっと抱きつく。
夢だと、幻だと、そう思いたくなくて、離さぬように力を込める。

『・・・君は危なっかしくて眼が離せませんね』

クフフと独特な笑い声が、穏やかに耳に届く。
愛しむように撫でられて、心の闇がほどけていけば、ただ甘い目線に絡め取られる心地よさだけが広がる。
久しぶりですねという彼に、綱吉はただ彼の名前を呼ぶしか出来なかった。
逢いたかったと、そればかりが溢れ出して言葉に詰まってしまって。
そんな綱吉の気持ちを汲み取って、嬉しそうに『僕も逢いたかったですよ』と返してくれるから、余計目頭が熱くなる。

 

 

「約束、覚えていてくれたんだ」
『当たり前です・・・他でもない、君が僕に望んだことですから』

 

――――七夕の日に逢えるかな?


そう、過去に持ちかけた。
七夕にまつわる話にあやかって、彼を引き止めたかった。

いまだ水牢に閉じ込められたままの彼。
だからこそ、せめて今日だけは星々の力を借りて束の間の逢瀬を、と願った。

 

「よかった・・・星が見えない上に雨まで降ってくるから、来てくれないんじゃないかと思ってた」

約束した理由が、一緒に天の川を見ること、だったからだ。
完全に雲の幕に覆われた天空にかかっているであろう星の川。

 

『天候はどうあれ、約束ですから・・・しかし、こう雨脚が強いと、天の川は今頃氾濫してるんじゃないですかね?』
「えぇっ・・・織姫と彦星会えないじゃん!」

言った瞬間、骸は綱吉の発言に肩を震わせて笑った。
耐えようと閉ざした口元から、抑え切れない笑い声がくぐもった音で漏れる。

「え、な、何?!俺、何かおかしいこと言った?」
『クフッ・・・いえいえ、可愛らしいなぁと思いまして』

今時、ここまで純粋に七夕伝説を信じている子がいるなんて、と返されれば、綱吉の頬に朱が奔る。

「だって・・・天の川見たかった理由ってそれだし」
『2人の逢瀬が見たかったんですか?』
「綺麗な天の川見れたら、きっと俺も骸に逢えるって思ってたから・・・」

たとえ見えなくても、現に彼はここにいるのだが、現れるまでどれほど不安だったか。
小さく声を落として、涙しそうな自分を抑えつける。

 

雨雲に覆われてしまった天の川は、雨で氾濫を起こしているのだろうか

だったらあの2人はまた来年まで逢えないんだろうか

自分と彼の間に在る、絶対的な距離のように、見てるしか出来ないなんて

そう思うと他人事に思えなくて、痛いくらいに悲しかった

 

 

 

『全く、夢物語と現実を混同するなんて君くらいですね』
「でもっ!」
『あの星の話に関しては大丈夫ですよ』

きっぱり言い切られた。
何で?と首を傾げてみれば、力が抜けるかと思うくらい綺麗な微笑をくれて。

『君みたいなお人よしのカササギが、彼らの架け橋となってくれますから』

何があっても逢えますよ、と蕩けるような声色が耳元で囁く。
遠まわしに、何があっても逢いに行く、と聴こえてしまうのは、自分たちに重ね合わせて見ているせいだろうか。

「じゃぁ、絶対逢えるんだね」
『逢えますよ・・・君と僕がこうしているように』
「・・・うん」


涙で滲む視界を隠すように抱きしめてくれる暖かな腕

溶け込む体温が愛しくて
雨音すら優しく聴こえるくらい甘い気分

星空の中、あの二つの星もこうして想い、寄り添っているのだろう
溢れる愛しさに幸福を感じながら

 

 

 

星降るように降り注ぐ雨

さらさらと鳴る笹の葉に、ささやかな願いが色を添える

 

そんな静かな音の中

地上に咲く一輪の傘に護られて

 

 

一夜の夢の逢瀬を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

2007/07/07(Sut)

七夕なお話で骸ツナでした。
メジャーな話なんで、書くのが楽しかったですVv
夢いっぱいですよね〜、あぁ甘酸っぱい!!
タイトルの『星合』は『星の逢引』の意味合いがあるそうです。
逢引ですか!いいじゃない骸ツナ!!ってな意気込みです☆ (←おかしくないか?)
こういう可愛い話がたくさん書ければいいなぁと思う今日この頃。


新月鏡