かけられる言葉も 捧げられる想いも 臆病すぎるこの身には耐えられなくて 困らせると分かっていながら 嘘をつくのを許してください 本心とはまだ向き合えない 幼すぎるのはこの心
偽り
差し出される手を掴むことすら今の僕には躊躇われるんです。 ずっと自分の気持ちに嘘をつき続けていました。 認めたくなかったんです。 ただ、それだけなんです。 君はあまりにも優しすぎて、僕に向けられる感情すら同情や哀れみ、仲間愛から来るものだと思ってしまう。 怖いんです。 どうしても、僕が向ける想いと君がくれる想いが同じだとは思えない。
「気づけば眼で追っていて、こうして傍にいるだけで暖かな気持ちになるんです・・・この感情は何でしょう?」 ある日僕はふと感じたことを口にした。 本当に独り言なのだけれど、君は僕をしっかり見上げて律儀に返してくれる。 「・・・恋じゃないですか?」 「はっ、何を言うかと思えば・・・冗談はよしてください」 僕の隣で君は期待に満ちたような眼で見上げてくるから、僕は嘲笑交じりにあっさりと否定した。 「骸・・・」 冷たい否定の言葉に悲しげに反応する君。 ぎゅっと服の裾を握る指が小さく震えたりするだけで、あぁ、なんて弱い人なんだろうと思う一方抱きしめたい衝動に駆られる。 そしてそう思う度にはっとして、何度も僕は自分にロックを掛ける。 ・・・違いますよ、こんな感情は嘘だ 僕は一言だって君の事を言った覚えはありません 断じて君のことではありません 有り得るはずがない そう心の中で唱えながら、かちゃりかちゃりと鍵をかける。 そうして心を閉じてしまえば、決まって君は悲しそうに瞳を揺らしてうつむいた。 ひとつのソファーに2人で座っているのに沈黙だけが過ぎるから、柄にもなく僕は居た堪れなくなってしまって。 仕方なしにぽんっと頭に手を置けば、すぐさま顔を上げて嬉しそうに笑う君。 「君のその百面相は見ていて飽きませんが、期待に満ちた眼で見るのだけはやめてください」 「なっ・・・期待なんて・・・」 「だったらそんな眼で僕を見ないで下さい、潰しますよ」 「見てないよ、期待だって・・・」 再び落ちる沈黙。 「してるでしょう、無意識ですか?君はさっきから言葉尻を濁すばかりではっきりとは言ってませんよ」 「そ、そんなこと・・・」 「ほらね、君は『ない』という決定的な否定を絶対に言わない」 途方に暮れたように彷徨う視線が、僕に救いを求めるように絡んでくる。 それを冷めた眼で見つめ返してやれば、しゅんと眉根を寄せて再びうつむいて。 「骸・・・」 「そんな声で呼んだって揺れたりしませんよ」 君が涙に震える声で呼ぶのを、僕はぴしゃりと遮断した。 これ以上何か喋られでもしたら、せっかく閉じた心が開いてしまいそうで。 思わず手を差し伸べてやりたくなるほどに頼りない存在に、僕はくらりと眩暈を感じるけれど全て否定し続けた。 臆病な僕が唯一自分を護る手立てだと信じてるから。 「骸は、俺が嫌い?」 唐突に君は震える声で訊ねてくる。 人間嫌いな僕の答などわかりきっているくせに。 「えぇ、嫌いです」 好きにはなれない 好きになれるはずがない マフィアのボス候補である君のことならなおさら 「・・・俺は、骸が好き」 「勝手に言ってなさい」 「うん・・・」 小さくそう呟いて僕の腕に寄りかかるように擦り寄ってきた君の体温は暖かくて。 僕は不覚にも心地よく感じてしまった。 言葉なく、ただ静かに寄り添って体温を分かち合う時間。 その空気があまりにも静かすぎるから、幼い子供のような体温を持つ君が、いまだ眼に涙を溜めて悲しげな表情をしているんじゃないかと不安になって、ちらりと横目で見やる。 そして後悔した。 はにかんだようにくすぐったい笑みを湛えながら、頬を腕に擦り付けていたからだ。 「っ・・・」 「好き・・・好きだよ、大好き・・・骸が、好き」 そしてそんなことを言い出したから驚いた。 勝手に言っていろと跳ね除けてしまったために、言うなとは言えなくて。 言われ慣れていない言葉をずっと注ぎ込まれて、僕の意識はぐらつき続ける。 「僕は、君を好きになんてならない」 「でも俺は骸が好きでたまらない、だから嫌いになんてなれない」 「・・・こんな煩わしい感情、僕は知らない」 「自分に嘘をついてるから苦しくなるんだよ」 「知らない、知らない・・・知りたくもない」 碧眼を左手で覆い隠し、頭を振って僕は必死に否定する。 駄々をこねる子供のように、ただ嫌だと拒否し続ける僕。 いつからこんな風になってしまったのだろう。
「骸」 凛とした声にはっとなる。 落としたままの視線を上げれば、普段の君からは想像できないほど大人びた瞳が僕を捕らえて。 そっと頬を包むように添えられた手のひらが暖かくて。 「俺のこと、好きって言ってみて?」 真摯な眼差しを向ける君が、僕に与える柔らかな命令。 跳ね除けることも出来ただろう 突き飛ばすことも出来ただろう なのに何故か僕にはできなくて とっさに開きかけた唇が震える 怖くて仕方ない その先を、言葉にしてしまったその先を知るのが怖い。 止める術を知らない僕は、一度その言葉を口にすれば取り返しのつかないところまで行ってしまいそうで。
「大丈夫、怖くないよ」 優しく降ってくる声に身体が硬直する。 僕の震える唇をなぞる指があまりにも優しすぎて、意識がだんだん曖昧になってしまって。 「僕は・・・」 無意識に言葉が零れ落ちた ――――『君を、愛してる・・・』 瞬間、僕は全てを理解した。
「俺も!」 そんな言葉に吹き飛んでいた意識が舞い戻る。 ぎゅっと首筋に頭を擦りつけるように抱きついた君が、混乱したままの僕を見て嬉しそうに笑う。 ほころぶようなその笑みに、僕は例えようのない幸福感を感じてしまって。 「・・・知りたく、なかったのに・・・」 「・・・骸?」 不思議そうに名前を呼ぶ君をそっと抱きしめる。 「やはり僕は、君が嫌いです」 「嘘ばっかり」 複雑な想いを抱える僕を君はくすくすと楽しそうに笑って見つめる。 僕の本心なんて、とっくに見抜いているのだろう。 「嫌いですよ」 「大好きだよ」
どうしても君は僕の心を掻き乱す 頬を伝う涙がその証拠 君の言葉は呪いのように僕を捕らえて 囚われた僕は君のぬくもりに抱かれて いまだ嘘を吐き続ける
ただ、認めるのが怖かった
* * * * 2007/03/20 (Tue) 意味不明文part2 奥手な骸さんを書きたくて。 普段饒舌なのに、いざというとき口数少なくなってたらいいなとか思ってました。 結果、気持ち悪いくらいに別人になってしまった・・・; まず骸さんが奥手っていう設定が間違ってるんだと思った。 あの人絶対奥手じゃない(笑) 新月鏡
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