『冷たい雨と優しいキス』

 

 

寒いさ
こんなに雨が降り注げば


片膝を立てて座り込んだ床が冷えてきて
ほら、もう身体が鈍ってきてる
お前が俺の隣に立って、同じように空を見つめてて
ちゃんと傍にいるってわかってる

 

・・・わかってても、その距離すら冷たく感じるんだ・・・

 

 

 

 

 

視界奪うように振り落ちてくる雫
音すらかき消して、廃墟と化したこの家の屋根を激しく打ち付ける


とん・・・とん・・・とん・・・


どこかで単調な音がする
こんな轟音の中でさえ冴え渡る澄んだ音

視線をめぐらせれば、奥の机を雨漏りしていた雫が打ち鳴らしていた

 

なんか・・・綺麗だ・・・

 

 

簡単なステップで、ワルツを踊るような軽やかな響き
静寂しかないこの部屋で、一人踊り続ける雨音
その音にゆっくりと瞼を閉じて同調してみる


とん・・・とん・・・とん・・・


ずっと聴き入っていると、ふわふわと浮遊感が襲ってきて、意識が呑まれていく気がする
この身体を置いて、魂だけが抜け出てしまったような

 

 

 

 

 

『・・・カルマン』

あぁ・・・呼んでる
でも何故か動けない
感覚だけがそこに残ったまま、遠く離れた意識


伸びてくる腕
頬に触れてゆっくりなぞって、心配そうに覗き込んでくる
大丈夫だと言ってやりたくても、金縛りにあったように自由はなくて

 

『・・・冷たい・・・冷え切ってる』

包み込んだその流れのまま、重心を預けるように引き寄せられて抱き込まれる
かけていた眼鏡はいつの間にか外され、床の上で凍っていく
額に、瞼に、頬にだんだん降下しながら唇を落とされて

まるで自分の熱を与えるよう

 

掌に包み込まれた部分から、キスを受けた部分から、その想いに呼応するように徐々に戻ってくる感覚

 

 

 

 

 

『モーゼス・・・もういい・・・』

何かにとり憑かれたようにキスを繰り返す翡翠の眼に言った

『ん・・・ダメだ・・・足りない』
『もう十分だ』
『カルマンじゃなくて・・・』
『は?』

 

ふふっと小さく笑って艶かしい手つきで頬をひと撫ですると、真意を読み取れず、薄く開けたままの唇にそっと自分の唇を重ねた
冷たく動きの鈍った俺の身体をゆっくりと押し倒して、割って入った舌は楽しむように口内を犯してくる
それに応えてやれば、夢中になって繰り返し何度も角度を変えてやってくる

 

あぁ、そうか

 

『・・・足りなっ・・・の、は・・・お前か・・・』
『ダメ、か・・・?』

唇が離れて、少し潤んだ翡翠の眼が俺を見る

 

 

・・・そんな眼で見られて、俺が折れないわけがない
わかってるくせに、こいつ・・・

 

 

不意に苛立って、腕を引き、降ってくる頭を抱きこんだ
突然崩れたバランスに、きつく眼を瞑って倒れこんできたモーゼスは身を硬くしていたが、すぐに身体の力を抜いて、胸に耳を押し当てるように抱きしめ返してくる

 

この腕に収まる一回り小さな身体
溶け込むように重なる重みが愛しい


とくん・・・とくん・・・とくん・・・


重なる心音はどこかで聴いた単調なリズム

 

『お前の心臓の音が響いてくる』
『あぁ・・・僕もお前の心音が聴こえる』

 

 

雨音のときとは違って、その音を中心に熱が波紋のように全身に広がって
だんだんと安心感が満ちてくる

同調するように聴き入れば、やはり同じような浮遊感がやってきた
ただ、違うことといえば、互いに溶け合うような満たされた感覚が伴うことだろうか

 

 

 

未だ轟音振り撒く雨は絶えない
けれど、不思議と暖かくて

 

誰より愛しいこの腕の中の存在に

 

与えられた熱を感じながら
とびきり優しいキスを贈ろう

 

 

『モーゼス・・・』

 

 

 

 

冷たく激しい雨が少しでも優しくなるように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

2006/08/21 (Mon) from diary


誰だお前と自分で言ってしまいそうです、うっかり。
ただ雨が降ってたので、とりあえず『雨』をお題に考えてみた。
だらだらしてた割りに時間掛かったな・・・。
なのに、ただのバカップルに仕上がってしまって・・・気に喰わないです。
エロい文を書ける人を心底尊敬した、今日。


ここまで読んでくださってありがとうございます!!


*新月鏡*