『心と体は日ごと弱っていって』
アレからどれほど経っただろう 唯一無二の存在である彼女を喪ってから 生物学上、妹であるとされる存在 実感はなかったが、たぶん一番気になる存在ではあった 仲間だから、あいつの性格がああだから・・・そうやって今まで無理やり納得させてたのかもしれない 自覚に似た感覚を覚えたのは、凍り付いてしまった彼女が崩壊する音を聴いたときだった 今までに感じたことのない怒り・・・どうしようもないほど怒りが自分を支配してて ――――偽の血を飲ませたな!! 理不尽なことを言ったと思う 小夜のシュヴァリエが『違う』と返したときでさえ、もう自分自身はそれどころじゃなかった ぶちまけたかった・・・この胸の内に渦巻く不満を疑問を・・・叫びつくしてしまいたかった あいつが・・・モーゼスが止めなければ、俺は何処までも感情に任せて怒鳴り散らし、眼に留まる全てを滅ぼそうとしただろう 静かにあいつは『止めろ』と言った そして諦めるようにうなだれて・・・ 『救済は必要ない・・・』 Divaを討つことだけが救いになるのだと、あいつは言い切った それを聴いた瞬間、俺は体の芯が冷えるのを感じた
そうなのかもしれない どれほどこの生に執着したとしても、確証もないまま可能性を信じるしかなくて 信じて、信じて、裏切られる ならば・・・
ならばもう・・・信じなければいいのだ この世に俺たちを救うものなどありはしない 未来などありはしない 死に怯えて、限られた時を生きるしかないのだと
『夢など、持たなければいいんだ』 ぎゅっと眼を瞑り、自分に言い聞かせるように独り言ちる 『思い出』という新たな未来を抱いて砕けたイレーヌ お前は一体何を見ていた? 死に瀕したその身体を引きずって、お前は何を悟った? 俺にはまだ理解できない この這い回る荊が広がろうとも・・・ 今の俺にはわからない
肩の辺りに走る痛みが、徐々に侵食しているのだと実感させる それを感じるたびにやるせない気持ちになる 苛立ちと不安と・・・恐怖 誰に話せるはずもなく、独り抱え込んで、気取られないようにいつもと変わらず振舞って 今の俺はいつもの俺だろうか? お前たちにはどう見える? 俺は上手くやれているんだろうか?
心配させたくない、とかそういった思いからこうしているわけじゃない 気遣われるのが嫌だった 病人みたく扱われて、挙句庇われたり護られたりなんて絶対ごめんだ
怖くないのか? 助けてくれと、縋りたくないのか? どこかで試すような声が響く ついて囁くその声を振り払いたくて、毎晩そっと抜け出してはスピードを上げて暗闇を駆けた 心のどこかでそう想う自分がいるのだ そいつが囁くんだ 話してしまえ 縋ってしまえ それをお前は望んでいるのだと
『・・・誰が信じるか・・・っ!俺は・・・もう何も信じない!!』 信じれば心傷つくのは己だ もうこれ以上の傷はいらない 治ることのない心の傷など必要ない 傷つきたくない・・・ そのためなら・・・
開けた視界に降り注ぐ月光 穏やかで、忌々しく、それでも暖かな包容力を放つ光 しばらく呆然とその光の雨を浴びて、心奪われたように見入る ふらつく足がひざを折り、そのまま横に倒れ伏す 頬を撫でる草花が緩やかに揺れて笑う 横たわったまま感じる風の優しさと、草木のざわめき 月光に抱かれ見守られながら、赤子のようにうずくまり眼を閉じれば、不思議と徐々に落ち着いてくる
『・・・これ以上・・・誰も喪いたくない・・・悲しみなど、いらない』 あれほど胸を締め付けれる感情は初めてだった 今まで怒りだけだったはずなのに・・・ 痛くて、苦しくてたまらなかった
『もう、信じるなんてできるはずがない・・・』 その先の恐怖を知った その先を思うと立ち向かうなんて考えられなかった
死の印が身体を蝕み、痛みと恐怖が心を蝕む 傷つかなくて済むのなら、俺は全てを拒絶する そうすれば、誰も俺を傷つけられない 誰も 誰も
誰も・・・
未来を見ていた俺はもういない・・・
* * * * 2006/09/12 (Tue) from diary 空白の一年間のあるひと時。 ソーン発現とイレーヌの死で、自己崩壊し始めるカルマン。 病は気からということで、両方とも病んでますな。 最近カルマンばっかだなぁ〜と思うので、次はモゼで書けたらいいな。 雨が降るとこんな感じのを書きたくなるんですよね・・・。 何故かなぁ〜? ここまで読んでくださってありがとうございました!! *新月鏡* |