真理崩壊

 

 

暗がりの閉鎖された小さな世界。
今はそれが僕らを護るたったひとつの空間。
陽が翳った数秒の内に逃げ込んだ檻。

 

それでもいい
この肌から伝わる体温を失わないためならば

 

抱きしめるように座り込み、短く切りそろえられている髪を緩やかに撫でる。
光の届かない場所へ来ても、この体温を手放す気はなくて。
冷たい床がさらにその存在のぬくもりを伝えてくる。
その感覚が愛しく、安堵をもたらしてくれた。


いつもなら、僕がこの体温に包まれているはずなのに


そう思うと自然と笑みがこぼれた。
すると不意に面を上げ、翡翠の眼が不思議そうに見上げてくる。
微かなことにも、いつもすぐさま気付かれてしまう。
けれどその微かな変化に気付いてくれることに、たとえようもない喜びを感じて。

『どうした、カルマン?』
『・・・なんで笑ってる?』

怒ってるんじゃないのか?と困ったように視線を泳がせる。

 

 

あぁ、もう・・・お前はどうしてこうも心騒がせる?
今日は翻弄されてばかりだ
この気持ちを何と言った?
言葉にして伝えなければ、お前は気付きもしないだろう?

 

 

『・・・好きだからだよ』
『?』
『だから、お前のあの時の行動が許せなかったし、今、傍にいることが嬉しい』
『モーゼス・・・っ?!』

 

いつもと雰囲気の違う僕に戸惑う彼
どうしようもない人
でも心から愛しいと想う人

 

決断させたのは彼なのに
狂気を呼び込ませたのは彼なのに
戸惑ってみせるのはわざと?

 

 

普段言いはしない言葉を、溢れるほど注いであげる
捧げた言葉に溺れて、溺れて・・・僕だけを見て、僕だけを求めて
直面した『死』など、僕が全てなぎ払う

 

僕からお前を奪うものは、全て

 

 

 

『お前を、喪いはしない』


緩やかに身体を離して、今度は抱きつくように彼の首に腕を絡める。
より近づく鼓動はだんだん逸っていく。
首筋に除く忌々しい死の印が僕の気を一気に引き下げ、苛立つ僕はぐいっと襟端を引き下げると、きつくキスを落とした。

『っモーゼス?!』

さすがに虚を突かれたのか、慌てて引き剥がそうとしてくる。
それがさらに腹立たしくて、腕に力を込めて、ソーンの上を唇で蹂躙していく。
時折なぞるように舐め上げれば、彼の体は小さく震えた。
その反応が何故か嬉しくて、抵抗する彼を他所にじっくりと楽しむ。


『よせ!!』
『・・・カルマン・・・』

呼べばはっとする顔。
その頬に手を添え、ゆっくりと撫ぜれば穏やかになる瞳。
そっと顔を寄せ、同じ色を覗き込みながら囁くように言葉にする。


最後の警告
僕の本音

 

ひどく悪い夢だと・・・
嘘だと、言ってほしい・・・
どうか・・・言って・・・


でないと僕は・・・

 

 

 

言葉は失われる
遮られた唇
抱き込まれた身体
伝わる熱

何もかもが僕の真理を狂わせる

 

 

ゆっくりと深く、味わうように口付けられて荒くなる呼吸。
頭の芯まで真っ白になって、ふわふわとした感覚が襲ってくる。
もう、まともに考えるなど出来ない。
見上げた先に映る翡翠の眼だけが、僕をここに引き留める。
優しく見下ろされることに抑え切れない感情が込み上げて。

『カルマン・・・』

もう、音にするのは彼の名しかなくて。

 

 

 

お前を喪わないためなら、僕は何だってできるだろう
そこに善悪など存在しない
お前を救う、それだけが真実

 

掻き消えそうな言葉を唇で奪い去って
この手を血で染めてでも、時を刻む身体に終止符を穿つ茨から解放させてみせよう

 

 

あぁ・・・真理の崩壊が始まる

 

 

狂気の引き金

 

 

 

 

 

引いたのはお前・・・

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

2006/08/18 (Fri) from diary


44話終了後の話。
いちゃつかせてみた。
モゼカルモゼ・・・ってこんなの?
ってか黒・・・いですか、モゼ?
ぶっちゃけ、たがが外れたらモゼはこんなだと思ったりする。
まっすぐに考えるから、一気に針が振れるんだ。
ちなみに最後のフレーズ、何処かとリンクしてたりする。


ここまでお付き合いくださってありがとうございます。


*新月鏡*