『寂しさ』
誰より悲しむ人がいる いなくなった彼女を想って 一人背を向けて ぐっと唇を噛み締めて 想像できないほど、悲しみに満ちた人がいる その震える肩を、その背中を、包み込めるほどの温かさがほしいと思った
キルベドでいた頃から気付いてたこと 彼の中で、彼女は特別な位置にあって、何かと気遣ってた気がする 時折苛立って投げつける言葉も、その後の表情を見れば馬鹿だなぁ、と思わずにはいられない そのときの勢いで言ったことに彼女がうつむくと、決まって狼狽えてしまうんだから 後悔、というものに完全に支配されてしまって、どうすればいい?と情けない顔で僕たちの方を見る彼を、いつも僕は苦笑交じりに手助けしてやる そんなに困るなら言わなきゃいいのに、なんて当たり前の言葉すら、どれほど繰り返してきただろう この世に生まれて まだ生きたというには短すぎる時間 そんな限られた時間を共有してきた僕ら 互いをまだよく知らないのに 失うことはやはりつらくて
イレーヌ、イレーヌ・・・どうして君は、彼を置いて逝ったんだ 僕ではこの悲しみは癒せない 僕ではこのつらさを拭えない 僕に出来ることといえば 彼を叱咤し、前を向かせることだけ そのつらさを悲しみを抱かせたまま、ただ歩き続けろということしか出来ないんだ
・・・どうやら僕も、君に依存していたらしい イレーヌ、皆君が好きだよ 穏やかに笑う君が、僕も好きだった 今でも、これからもずっとずっと大好きだよ 仲間を喪うことは、何度体験してもつらいものだね 機械的な檻で培った感情では、表現できないほどに僕たちの絆は強かったんだ 目的だけの繋がりだとしても 作られた繋がりだとしても 君を好きだと想う気持ちに偽りなんてない 皆、君を想って泣くんだよ 君が架けてくれた架け橋に、希望の光を見ながら それでも君がいなくなったことに涙を流すんだ そんな僕らの頭上には、何処までも続くような闇色の景色 静かに、静かに降り注ぐ光が、あまりにも綺麗で・・・
見つめ続けた背中に、僕はたまらず近づいた 気配に気付いてビクッと一層震えたけれど、気にせずそのまま後ろから抱きしめる 彼が一人泣いていたのは何度目だろう その度に、イレーヌがこうして壊れそうな彼を抱きしめていたのを今でも覚えてる 小さな声で、嗚咽交じりに喪った者たちを想って紡ぐ言葉が、夜の闇に溶けていって 彼が言う度、『そうね、そうだったわね・・・』と繰り返すのを知ってる 人一倍想いの強い彼だから 全ての物事に反応する感情も人一倍強い そうやって深く想うからこそ、仲間が傷つけられたときに怒るのも異常なくらいで 皆わかってる 僕らが傷を負う度に、彼は僕らが思う以上に悩んで苦しんで自分を責めてることくらい そんな君だから、イレーヌが心砕いて心配してたのも知ってる どうしてかしら・・・どうしても放っておけないのよ、と彼女が零していたことも
今ならイレーヌの言ってたこともわかる気がする 本当に放っておけない こんな姿を見たら、誰だってそう思うさ 悲しいのは皆同じなのに 彼を見てたら、彼の悲しさを消せたなら、と思ってしまう
イレーヌ・・・イレーヌ・・・僕はどうすればいい? 思わず抱きしめた身体が 彼の嗚咽が どうしようもないほど心を軋ませるんだ 僕も、君を喪って悲しいはずなのに・・・ 彼を抱きしめてるしか出来ない自分が、何より悔しくて悲しいと思うんだ すまないイレーヌ、僕はどうかしてしまったらしい 君に涙を捧げることすら、僕にはできそうにない 胸に溢れる言葉が、彼の名前ばかりなんだ
『イレーヌ ・・・、っ何で、俺たちはっ ・・・ 』 聴き取れない音で彼は嗚咽交じりに嘆き続ける 思わず抱きしめてしまったので、一旦距離を置こうと思うのだけれど 静かに静かに泣くものだから、やっぱり離れられなくて 『カルマン・・・』 『っ・・・強く、なりたい・・・』 理不尽なこの世界に打ち勝つほどの力を・・・
ぎゅっと手を握り返されて、反射的に抱きしめる腕に力を込めた ぴったりと隙間風すら通れないくらいに 悲しいね つらいね とても、寂しいね 今だけは、誰も弱いなんて思わないよ そう伝えたくてそっと囁く
『・・・ゼス、もう少し、このままでいさせてくれ ・・・』
掻き消えそうな声で 聞き取れないほどの声で 彼が見せる寂しさ
掴み続ける手が痺れるように痛むけど気にならない この悲しみが続く方がずっとずっと痛かった
* * * * 2006/12/20 (Wed) from diary 衝動書きSS モーゼスもカルマンも弱々しい!!!! 書いてて驚くほど弱々しい奴らを書けて満足です。 絶対カルマンの落ち込みようとかしょげ方とかは、見ているこっちが放っておけないくらいだと思うのです。 イレーヌ大好きだ・・・っ!! 何で、いなくならなきゃならない? と、そんな感じでぐだぐだですみません・・・; ここまで読んでくださってありがとうございます!! *新月鏡* |