「湯たんぽ」

 

 

 

 

 

それはある寒い冬のこと

 

『う〜・・・寒っ!』

もぞもぞと布団の中で身を硬くしながら眠っているカルマン
風呂上りにさっさと入ったとはいえ、ちょっとでも外気に触れればやはり寒い

そんな中、しばらくゴロゴロと寝返りを数回うつと、だんだんまどろむ眠りが降ってくる
そのまどろみに身を任せて、うとうとと仕掛けた頃


ごそごそ・・・

『・・・?』

半分眠りに意識を掻っ攫われているカルマンは、残った半分の意識で異変に気付く
何かが布団の中に入ってきたようだ


『んぁ?・・・何だ?』
『あ・・・起こしちゃった・・・?』

ぺろりと布団をめくれば、枕を抱えて隣に陣取っているルルゥがいた
しかも『ごめんね〜』と言う割りに出て行く気配がない

『何してんだ?』
『・・・布団が冷たくて・・・』
『・・・』

 

だからって男である自分のところへ来るのはおかしいだろう
そう思いつつも、他を当たれといったところで残っているのはモーゼスしかいない
どの道同じ結果だろう

 

『ダメ?』

捨てられた猫みたいに見上げてくるものだから無碍にも出来ず、カルマンは一つため息をつくと、そっとルルゥを抱き寄せてやった
温かいかと思っていた身体は意外と冷えていて、やっとこさ温まっていた自分の熱が失われていくようだ

『お前なぁ・・・だから風呂から上がったら早く寝ろって言っただろう?』
『だってぇ〜・・・』
『言い訳はいい、さっさと寝ろ』

明日早いんだろ?と言って、口を開きかけたルルゥを寝かしつける
冷えた足先が触れる度、どんどん眠気が遠ざかって、自分が本格的に寝るにはまだ遠そうだと思った

 

『おやすみ、ルルゥ』
『・・・うん・・・』

眠りに落ちる前に、そっと額にキスをしてやれば、夢に引きずられ始めたルルゥはふわりと笑って意識を手放す
しばらくすれば、すぅすぅと規則正しい寝息が聴こえてきて、そんな寝つきの早さに小さく苦笑する

そして幸せそうに眠るルルゥにつられて、遅れてやってくる眠気にゆっくりと身をゆだね始めた頃


かちゃ・・・

気遣わしげにゆっくりと開くドア
漏れる光に再び半分落ちた意識を向ければ、しまったといわんばかりの表情で立っているモーゼス

『・・・あぁ?・・・どうした?』
『・・・う、ん・・・えっと、そのまま寝ててくれ』
『ん・・・』

気まずそうにそう言ったモーゼスの言葉に、眠気に引き込まれつつあるカルマンは何の疑問も持たずに眠りを続行する
それを見たモーゼスは、ふぅっと息をつくと二人が眠るベッドへと足音を消して近づいた
眠りを妨げないように慎重に布団をめくって、するりとその身を滑り込ませる

 

『・・・お前もか』
『うわぁっ煤I!・・・起きてたのか』
『当たり前だ』

どうやらカルマンは狸寝入りだったようだ
しかしモーゼスもまた見つかってしまったにも関わらず、一向に出て行こうとはしない

『寒くて・・・』
『だから何度も風呂から上がったらさっさと寝ろって言ったろ?ったくルルゥといいお前といい・・・』
『だって・・・』

ルルゥと同じ言い訳をしながら、つんと唇を尖らせて拗ねたような仕草をするモーゼスに、カルマンはがっくりと肩を落とした

 

『・・・ってか何で二人とも俺んとこに来るんだ?』
『・・・何となく、カルマンならいいかな〜って。それに・・・』

理由を聞いてさらにカルマンはしょげた


俺ならなんでも許されると思ってんのか、こいつら・・・


何にでもしてくれ、と投げやりになった瞬間、思いも寄らぬ言葉が耳に届いた

 

『カルマンの傍って、何だか・・・安心、するし・・・』
『なっ・・・煤I!』

一気に熱が駆け上る


ちょ・・・何言い出すんだこいつ・・・///


慌てて口元に手をやり、にやける口を噛み締めて堪える
気恥ずかしさと嬉しさで言葉が詰まり、ただモーゼスを見るしか出来ない

『・・・ダメだったか?』
『・・・いや、別に ・・・構わねぇ ・・・』

小首を傾げて問い返されれば、もはやカルマンから拒否権は皆無だった
構わない、と言われたモーゼスは、その言葉に安堵の表情を浮かべて、嬉しそうに笑う

その笑顔に、カルマンは一瞬息が止まる

 

・・・敵わねぇ・・・

 

苦笑交じりに笑い返してそっと手を伸ばせば、眼を閉じて為されるがままになるモーゼス
そんな彼を愛しく可愛らしいと思う自分に、心の中で自嘲する
どうもこの想いに引き返す道はなさそうだ

 

『おやすみ、モーゼス』
『ん・・・おやすみ、カルマン・・・』

ルルゥにしたのと同じようにそっとキスをして囁くように言えば、モーゼスはうっとりと微笑んで返してくれる
甘ったるいような、それでいて心地の良い雰囲気の中、ゆっくりと二人は眠りについた

 

 

 

 

 

翌朝

 

 

最初に起きたカルマンは、ふっと昨夜の出来事を振り返って気付く

『・・・俺って湯たんぽ代わりか?』

行き着いた答え

 

すやすやと眠る二人を他所に、カルマンは何だか朝からやるせない気分になっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * *

2006/12/16 (Sat) from diary


その後、カルマンのベッドだけがちょっと大きいサイズになりましたとさ★
家に湯たんぽが登場したので、その経緯で出来た話。


ここまで読んでくださってありがとうございました


*新月鏡*